2020年12月15日

世界をどう変えたのか

ストーリーとは何か。
そのストーリーを一言でそれを言うとどういうことか。
それは、
主人公がどう世界を変えたのか、
ということで測れる。


テーマと関係するが、
テーマそのものとは限らない。

少なくとも、世界を変えるのが僕はストーリーだと思う。
変えるというのは物理的でなくても良くて、
考え方を変えるとかでもいいと思う。

パラダイム転換というのは、
物理的な変化でもあるが、
考え方の変化でもある。
産業革命は物理的な変化でもあったが、
「同じものを機械的に大量生産して、巨大産業になる
(そのために奴隷と資源という新しい土地を必要とし続ける)」
という考え方を、新しく人類にもたらしたのであった。

ここまで極端なパラダイム転換でなくてよいが、
それにしても、
その映画以前と以後で、
見た人の考え方が変わるのであれば、
それはパラダイム転換をもたらしたということになる。

僕がすごいと思ったのは、「地下鉄のザジ」。
そもそも「雷鳴のザジ」ネーミングの元ネタになったであろうフランス映画なのだが、
内容は全然違って単なる小学生の女の子が空騒ぎをするおしゃれ映画だ。
空騒ぎするだけで終わりかと思いきや、
ラストにザジは一言すごいことを言う。
「ひとつ年を取ったわ」と。
空騒ぎに意味がないことやそのむなしさを、
そういう風に表現して終わる。
成長ということをこれほど一発で表した例を僕は知らない。
これが映画だと思ったものだ。

同様に新しい考え方に出会ったのは、
「アニーホール」の冒頭と結部で繰り返されるモノローグで、
「僕を入れるクラブには、
僕は入りたくない」というやつ。
ああ、自意識というもののみじめさを、
これほど逆説的に表したものはないなあと、
物凄く感心した記憶がある。
なぜ人はコンプレックスを抱くのか、
それを克服するにはどうすればいいかなんてことは、
こういうことを言う人には分らない。
しかし、この考え方だけは今でも人生の基本になっていると思う。
そういう意味で、この映画は僕に新しい考え方をあたえ、そして僕の人生に影響を与えたわけだ。
「アニーホール」は、成長していない男とは何かを描いた作品であるともいえる。
自意識は成長しない、という絶望的なことを言っている映画でもあると思う。
世界が変わらなかったことで、バッドエンド的に、
これではいかんぞ、と言っている映画だ。


世界をどう変えるのか?
その変えた差分で、
テーマが決まる。

変わらないならば変わらないことがテーマになる。
変わらないことを描くことが目的でないのに、
変わらない場合は、
出来ていない映画になる。

ビフォーアフターで、
主人公の関与した部分は何か。

そこがテーマだ。

勝手に変わったならば、
それは世界が主人公になってしまい、
主人公がなしえたことではない。
それはテーマではないだろう。

世界をどれだけ動かしたのか、
それがどれだけ新しいことを言っているのか、
それだけでストーリーの価値が決まってしまうと僕は思う。
僕の考え方に影響を変えない程度の考え方ならば、
それは映画でないとすら思っている。


新しい考えを著そう。
それはどのような変化で表現できるだろうか。
どう世界を変えたことで表現できるだろうか。

人類のパラダイム転換をするくらい新しい考え方でもいいし、
そうじゃなくても興味深い、
人生を少しだけ豊かにするものでもいい。
たとえば借りぐらしのアリエッティは、
物を落してなくしたときに、それが妖精のもとへ行ったのだ、
などという考え方を知ることができる。
(世界は変化していないため、それがテーマではないだろうが)


何の為に物語を書くのか。
おれはすごいぞ、という為に書くのではない。
金儲けの為に書くのではない。
世の中が少し良くなる、
という為に書くべきだと僕は思う。

知ったら面白いなと思うこと、
そう考えると世界は新しく見えると思うこと、
それを、借りぐらしのように世界においてみせるのではなく、
世界の変化で描くこと。
そうでなければストーリーで書けたとは言えないからね。

それができたとき、
そのテーマは新しく見えて、
世界を変える物語になると思う。


最近そういう物語が減った気がするのは、
年をとって色んな考え方を知ったからかもしれない。
あるいは、新しい考え方が出てくるほど、
世界の進歩速度がないからかもしれない。

それとは関係なく、ストーリーはいつも未知に溢れ、
新鮮に世界を変えるものでなければ詰まらない。
posted by おおおかとしひこ at 00:10| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。