たとえば「水辺に近づくと河童が出るよ」なんて言い伝えは、
ほんとうに河童がいるのではなく、
「水辺の危険を擬人化したもの」である。
危険という抽象概念を、
擬人化することでわかりやすくしたのだ。
同時に、「相撲を取り、きゅうりが好きで、泳ぎは達者な妖怪」という、
物語性を帯びたものになる。
これは、物語的な符牒だと考えられる。
物語によく出てくる、
(現実にはない)特殊要素は、
現実世界のなにかを符牒的に擬人化したり、
擬物化したりしている。
たとえばこんなんだろう、
というものを列挙してみよう。
土蜘蛛なる妖怪、鬼→先住民族
妖怪のそばに行くだけで死ぬ→疫病
炎による浄化→疫病
天国、無念の幽霊、成仏→死というものが理解できない
神の救い→善行は報われる
神、上位意識→人間には限界がある
神→戦争などで死んだ先祖(荒魂、日本の場合)
宇宙人、鬼→移民、外国人コミュニティ
鬼→理解できない人、残虐非道、人間の暗部
怪物→敵の集団、理解できない人
河童、こけし→水子
河童→水辺の危険
妖怪→山や夜や、異世界の危険
吸血鬼→血友病、一族家系の病、残虐
狐憑き→統合失調症などの精神病
時間を戻す→後悔、やりなおし
パラレルワールド、世界線、転生→ものごとの可能性
異世界へ行ってきた→解離性障害の可能性
巨人、巨大な獣→小さい頃に見ていた大人や大型犬(恐怖または安心)
逆の世界→上下という価値観
敵→父
先輩→兄
老賢者→先輩、祖先
恋人→自分に足りないもの
使者→チャンス
身体の欠損→それ以外の幸福
余命→命以上の幸福
アンデッド→無念、未練
仮面→本当の自分、嘘
飛ぶ→束縛からの解放
火、風、水、土(ほか、五行、九曜など)→世界の基本
ドラゴン、悪魔→悪、邪心、性欲、出世欲
ドワーフ→イギリス人にとっての、黒人やアジア人
これが出て来れば、実はこのような意味の象徴である、
みたいなことだ。
人間は、現実には存在しない○○を、
「物語という符牒で」理解してきたのではないかと僕は考える。
逆にこれらの符牒を理解していない物語は、
どこか変になると思う。
たとえば妖怪をただのモンスターとして扱うストーリーはへんだ。
実は何かの象徴で、それが解消したら成仏する、
と符合したものになっていないと、
「妖怪退治物語」の原型から外れてしまう。
「鬼退治」も同様で、理解し得ない他人、他民族などを
「鬼」と呼んできたわけだから、
「理解」の要素がどこかにないと面白くない。
つまり理解した時点で鬼は人間になるかも知れないのだ。
パラレルワールドや異世界転生を描いておいて、
「自分の人生の可能性」に言及しないものは、
その符牒に則っていないわけだ。
もちろん、あるものにある全てを使わなくても良い。
鬼の残虐な部分、非人道的な部分を強調して、
先住民の要素は使わなくても良い。
それらは、物語によるだろう。
(ただしせっかくそれを使えたのに勿体ない、
と言われるかもしれない。
鬼滅の鬼は、鬼を新解釈するものになっておらず、
単にジョジョの吸血鬼の焼き直しでしかないから、
鬼退治が単なる吸血鬼退治になり、
鬼退治を新しくしなかった)
ある抽象概念Aが、
具体的な物語的なBで象徴される。
その新しいセット(B→A)を発明したら、
あなたは開発者として歴史に残るだろう。
でも大体どこかにはあるから、
その歴史的経緯を知っておくことは重要だ。
「それならもっと出来のいい○○がある」を、
看過することになってしまう。
それを分かった上で発明をしよう。
2020年12月25日
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