2020年12月26日

キャストが話題になるタイプの興行

興行というものを少し考える。

「話題のキャストが、話題の演技を見せる」
ということはどういうことだろう?


すぐ考えられるのは。

・脱ぐ。体当たりの演技というやつ。
・派手なアクションを本人が。この為に道場に三ヶ月通い。
・スタントマンなしの危険な演技。
・難病役に挑む。
・この職業を演じる為に、実際にその店で修行。
・天才子役。
・天才動物。
・認知症と見紛う演技。

などだろうか。
これは、「ひとりの演技」の話だ。

ご存知の通り、芝居とはコンフリクトのことだから、
一人で芝居はできない。

したがって、「組み合わせの芝居」が、
実は興行の売りになるのだ。

・美男美女がカップル役で胸キュン!
・男(女)同士のアツイ演技合戦!宿敵を演じる二人!
・歳の離れた友情を、世代の違う二人が演じる!
・付き合いから憎しみ合うまでを描く!(男女、男男、女女)
・憎しみあった二人が和解する!(男女、男男、女女)
・親子共演!息のあった演技!
・夫婦共演!息のあった演技!
・先輩後輩が先輩後輩役!
・まるで本物の親子のよう!
・まるで本物の夫婦のよう!
・まるで本物の先輩後輩のよう!
・この対決のために、二人は生まれてきたかのようだ!
・このチームはまるで本当の家族みたい。

思いつくままに適当に書いてみた。

おそらくは人間関係の数だけ考えられるだろうけど、
特にヒキの強そうなものを並べてみた。


何を言いたいかというと、
こういう売りがあれば、
「売りがない」とプロデューサーに断られることはない、
ということだ。


今映画業界は、「売りをつくる」に必死である。
映画は「最後まで見ないと本質はわからない」ものであるが、
「まずそれを見ようと思ってくれる糸口」が、
「売り」だと思うと話はわかりやすい。

糸口は本来「事件とシチュエーション」であるが、
それ以外の付加価値があるならそれも売りにしたいわけだ。

「人気原作実写化」「人気芸能人出演」は、
「数字を持っている」ものだから、
数字を見込めて、売りが計算できる。

正確にいうと、
「売りがこれだけ計算できますと、プレゼンできる」だ。

「売り」は、対観客にではなく、
実際のところ、内部で話を通すための道具なのだ。

だから、数字で「いくら」というのが一番話が早くて、
つまりバカばかりの集団だとその数字で動くんだね。

実際の興行がその数字通りにいかないギャンブルなのは、
実写進撃の巨人に張った人がいることから明らかだ。
実写デビルマンでもいいよ。

この方法論が幸せを産まないことくらい分かっているのにも関わらず、
邦画界は、これ以外の「売り」を作って来れていない。
(ハリウッドの場合は金で張り倒したビジュアルや撮影方法が出来るが、
日本に今その資金はない)

このままこれを繰り返す以上、
ダメになるのは火を見るよりも明らかだ。



で、今売りになれる要素のひとつは、
「キャストと芝居の組み合わせ」だ。

沢尻エリカが脱ぐだけで、「ヘルタースケルター」は客が入るわけだ。

木村拓哉と長瀬智也がストーリーの上で対決する映画があれば、
それだけで話題になるだろう。
木村拓哉と中居でもいいよ。実現しないだろうけど。

数々の少女漫画の実写化は、
ティーンの憧れのイケメンとモデルの、
妄想恋愛ごっこで客を掴んでいるわけだ。

あるいは実力派俳優の対決、
香川照之と堺雅人は、半沢直樹を盛り上げたわけである。
仮に別の映画の別のストーリーで対決する場面になったとしても、
「宿敵が再会」と話題にすることができるだろう。

東出と唐沢えりかと杏が共演する映画があれば、
それだけで見たいという人はいるだろう。
下世話だけどそれが人間だ。

あるいは、戸田恵梨香と綾瀬はるかは共演NGらしいが、
先輩後輩役でどちらかがいびり、逆襲していびり倒す話なら、
最高にみんなは盛り上がるだろう。
やらないだろうけどさ。

こうした、現実の因縁を利用して、
架空の話の中の因縁と重ね合わせるのは、
興行のひとつのやり方である。


それを提供するのがシナリオだともいえるわけだ。


プロデューサーが「これは売れるぞ」と思ったストーリーであっても、
「売りがある」「売りがない」という判断は、
「こうすれば○億円儲かります」と銀行にプレゼンできる/できない、
というだけのことだ。

そのストーリーを実現したいなら、
そうした売りをつくることだ。

ただ有名芸能人が出るんじゃなくて、
その有名芸能人同士が、
ストーリーの中でこういう火花を散らす、
という売りを作ってあげるのだよ。

コンビなんだけどライバルとか、
仲悪いけど友情とか、
仲悪いふりをした真の友情とか、
永遠に別れたがこの一瞬は炎のように燃えたとか、
そういうキャスティングの妙が出るようなストーリーがあれば、
「キャスティングとストーリーで話題」は、
可能だと僕は思う。



逆に、
もし○○○と○○○が、×××になったら?
と話題先行で考えて、
その×××からストーリーを作ることは、
一度やってみるべきだ。

○○○のあてがきになっては面白くないので、
候補は複数出しておくといいぞ。

「○○○主演」まではバカでも考えられるが、
「○○○と○○○(組み合わせとして複数候補)が、
×××をする話」は、
脚本家にしか考えられないよね?
posted by おおおかとしひこ at 00:05| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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