2021年01月20日

身勝手、ご都合、そして若さ(「ベティブルー」評)

まだ見てなかった、ミッシングリンクを埋めている。
僕が大学生だった90年代初頭、
映画好きはみんなこのポスターを貼ってた。
僕はいまいちピンと来なかったので、通り過ぎていた映画。
(フランスなら断然ジュリエット・ビノシュ派だったので)

まあ見なくて良かった。
こんなんに影響されたら人生曲がるわ。


ベティの造形は素晴らしい。
モデル出身で初主演となる、ベアトリス・ダルが堪らない。
スタイル抜群で、おしゃれで、わがままでファムファタール。
水原希子にちょっと似てる。
違いは演技力かね。


そしてストーリーは完全にご都合主義で、
しかもメアリースーだ。
「すげえわがままで振り回されるいい女と、
セックスして暮らしていくストーリー」
としか言いようがない。
岡崎京子の漫画を思い出す。

家は燃やすわ強盗するわやりたい放題で、
書いてた小説を女が勝手に読んで、
「天才」って感動してタイプして出版社に送ってくれる。

この、「自分の書いた作品をものすごく集中して読んでくれる美人」は、
物書きの夢の一つだろう。
その願望を余すことなく描いている。


学生時代にこんな願望丸出しの映画を見てしまったら、
その後ずっとこれに憧れて生きていっただろう。
あるいは熱病のように浮かれて、すぐに忘れるか。

そう、若さとは熱病のようだ。

おっさんになって思うのは、
「若い頃にこんなただれた生活をしてみたかったなあ」
ということだろうか。
いや、リアリティがなさすぎてねえ。

そう、この映画とは、
リアリティなぞほっといて、
願望をいかに美しく描くかに全力を振っている、
おそるべき若い映画だ。

フランス人の絵画のような絵作りはたまらなく美しい。
その後の○○に影響を与えたな、というシーンが盛りだくさんで、
これは真似したくなるものでいっぱいだ。


ラストシーン、一人で孤独に描き続ける姿、
イマジナリーベティと会話する孤独な男こそ、
作家の本性である。
それこそが主題のような気がしなくもない。

ベティが狂っていく以降は漫画みたいで、
殺したあとも何もお咎めなしで、
自殺するのかと思いきや飯食いやがって、
という、
もはやオールご都合主義で、
やっちゃいけないこと全部やってる映画だとすら言える。

ただ、ベティはかわいい。
それと引き換えに、
妄想に浸れる作品とでも言えようか。


80年代のフランスラノベといっても過言ではない。
ラノベはこれくらいオシャレに作れば、
見れるものになるという例かも知れない。


こういう熱病は大学生までに済ませておかないと、
こじれた大人になってしまうのかもしれないね。

こじれた大人たちは、この映画を見ることをお勧めする。
まるで鏡を見るように、痛々しい。
posted by おおおかとしひこ at 01:26| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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