物語の進む速度を考えよう。
仮にスピードメーターがついていたとして、
展開のゆっくりなところと、怒涛の展開は、
どれくらいのスピード差があるだろう?
僕は10倍くらいあっていいと思っている。
「展開の速度」は、客観的な指標がない。
「展開の大きさ」を定義できないからね。
10展開単位/ページなんて速度を定義できない。
でも主観的に感じる展開の速さというのはある。
仮に基準を5としたとき、
ずっと5だと単調だ。
ていうか、色んなことが起こるストーリーというものを、
全部同じ速度に揃えることは逆に不可能だろう。
それは、456くらいを使い分けるのか、
それとも、1〜5〜10くらいの幅があった方がいいか、
という話である。
ダイナミックレンジという言葉がある。
写真や絵で言うと、
最も明るい白と、最も暗い黒の、明るさの幅のこと。
音でいうと、
最も音量の大きい音と小さい音の、強さの幅のこと。
このレンジが狭いほど表現力がなく、
広いほど表現力が豊かだとされる。
速度のダイナミックレンジは、
ざっくり言えばセックスのピストンだ。
ゆっくりから全力まで、幅があった方が単調でない、
ということだ。
サーキットにおけるコーナーの配置だと考えてもいい。
高速コーナーからシケインから、フルストレートまであるわけだ。
ストーリー作りがよくジェットコースターに喩えられるのは、
こうした速度のダイナミックレンジをどうするか、
ということに似ているからかも知れない。
で、実のところ、
ストーリーの展開の速度は、
執筆時にはコントロールしようがないと僕は思う。
一般に、
展開が速いところは早く書けて、
展開が遅いところは苦労すると思う。
しかし、
お喋りさせるのが楽しくて全くストーリーが進んでいないところや、
怒涛の展開を書くのが難しく、
そのパズルを組むのに時間がかかることもよくある。
執筆の速度と展開の速度には、
緩い相関しかないと思われる。
だからこの速度設計は、
一度書き終えたもののリライトでやるべきことかもだ。
スピードメーターがあると想定して、
ここの速度はどうなってるかを、
読みながら(あるいは演じながら)測定していく。
ギクシャクするところは滑らかにしたほうがいいだろう。
徐々に加速したほうが気持ちいいか、
いきなりガッといって驚かせたほうがいいか、
減速はゆっくりなのか、
突然停止してショックを与えるか。
あるいは丁寧に描いている所を全カットして一気に進めたり、
速いところをじらすのもありだろう。
それらのダイナミックレンジを、
10倍くらいに取るといいんじゃないか?
というのが本題だ。
456のどれかしかないなら、
非常に淡々としたものに見える。
よほど緊張感が保てれば別だが、
どこかで退屈がやってくる。
人はスピードに慣れてしまうからだ。
展開の速度で振り回すのは、
慣れさせない為、読ませない為、
ということが出来る。
フェイントはその為にあるわけだ。
456しかないな、と感じたら、
6を10にリライトしてみよう。
4を1にリライトしてみよう。
間が必要なら間を作ったり、
間があることで退屈なら一気に加減速しよう。
ペースのコントロールはストリーテラーに任されている。
演劇ならば、客の顔を見ながら、
チェンジオブペースをすることがある。
生の講演会でも同じだ。
しかし映像は相手の顔が見えないので、
「自分がこれを味わうとしたら」
という感覚でやるしかない。
ストーリーテラーは、
毎回初見の観客として、
一番面白いバージョンにストーリーを練り上げる。
それには、
展開速度のダイナミックレンジは、
大きい方がダイナミックに楽しめる、
という話である。
実は高画質化したことによって、
フィクションがつまらなくなったのは、
このダイナミックレンジを使いこなせていないからだと、
僕は考えている。
高画質化とは、
ダイナミックレンジが広がることであった。
しかし小さい話は、
そのダイナミックレンジをつかいこなせない。
一番デカい音を使えず、
小さい音でまとまってしまうのだ。
一回しかフルレンジ使わない話でも詰まらない。
フルレンジは何回も使うべきだ。
今のしょぼいフィクションは、
フルレンジ使いこなせるだけのスペックが、
ストーリー自身に足りてないのだ。
(もっとも、絵のダイナミックレンジをフルに使うのは、
予算が桁違いにいるわけだ。
エキストラは大量にいるし、
美術や衣装はリアルに作らないとバレるし、
CGも金がバンバンかかる。
このため、高画質のフルレンジを使えない、
という、
「高画質化したためゲーム性を練る予算がなくなった」
ゲームのような現象が起きているのはたしかだ)
456を拡大して、
8910のストーリーにしてもだめだ。
人は慣れるから、456の話に見えてしまう。
1〜10の話にしないと、
ダイナミックにはならないだろう。
絵のダイナミックさがなくたって、
話のダイナミックさがあれば、
ストーリーは持つ。
そしてそれは、シナリオにしか書かれていない。
役者のアドリブやカメラマンの粋な何かで、
変わるものではない。
2021年01月25日
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