一体いくつの時間軸が同時に存在するのか。
リライト時はほんとうは4つあるのに、
3つしか認識できなくて間違う、
という話をしたい。
ストーリーは一個ではないか、
サブプロットで複数になったり、
過去話などを含んで複数になることはあっても、
と思うだろう。
それは違う。
メインプロットだけを取り上げても、
観客の見ているストーリーは3つあるのだ。
それは、
現在、これまで、これからの予想、
という3つの時間軸である。
現在は分る。いまここで起きていることだ。
観客はこれを見ながら同時に、
これまでどうだったか、
思い出しながら見ることがある。
これまで来た苦労の経緯、ちょっと前の伏線、
前に期待したこと、かつての発言などだ。
その過去と現在を同時に見ることで、
「これからこういうことが起こるのではないか」
なんてことを予測したり、期待することがある。
かたき討ちをするのだろう、彼の申し出を受けるだろう、
断るつもりだろう、などだ。
つまり、
観客は、現在、過去の思い出し、未来の予想という、
3つの時間軸を同時に見ている。
もちろん、常にではないだろう。
思い出したときに、ふと、
という感じかもしれない。
急展開の時や予測がつかないときは、
そんなことを考えている余裕がないかもしれない。
逆に、急展開だからこそ、
「過去にあったことがここにつながった」などと、
脳をフル回転して考えることもあると思う。
我々が普段生きていることを考えればわかる。
目の前で起きていることだけを経験しながら、
ずっとおろおろしているバカはいない。
過去にこういうことがあったからこうだ、とか、
これはこうなる、こうしたい、などの予想と、
同時に生きている。
ストーリーという現在進行形は、
まさにそれである。
今起こっていることだけではなく、
つねに過去と未来(予想)の時間軸がパラレルワールドのように存在するわけだ。
で、本題。
リライトをすると、この未来予想を忘れがちなんだよね。
なぜなら、作者はこれからどうなるかという
「未来の確定時間軸」を知ってしまっているからだ。
未来にこうなるからここで伏線を引いておくべきであるとか、
未来にこれがあるから、逆に振って混乱を増やそうとか、
そういうことを計算してリライトをするため、
「確定している未来」のことは作者は分っていても、
「その時点で観客が予想している不確定な未来」の存在を、
つい忘れてしまうのだ。
「これは初見で驚くだろうか」とか、
「これは初見で見て分るかな」とか、
「これは予想できないだろう」なんてものは、
観客の気持ちにならないと分らない。
それは、3つ目の時間軸を常に意識していないと分らないのである。
つまり、リライトというのは、4つの時間軸が、
同時に存在する。
現在起こっているストーリー、
過去にあったこと、
不確定な未来の予想や期待、
(作者だけが知っている)確定の未来にあること
の4つだ。
リライトでは4つ目を知っているあまり、
3つ目に気がいかなくなるということだね。
3つ目と4つ目がずれているとき、
驚きやミスリードがうまく行くだろうし、
逆に期待に応えていなくて、ノリが悪いのかもしれない。
過去、現在、未来という時間軸で我々は生きているから、
ついつい3つまでしか考えられないということだと思う。
未来は二つある。
既に書かれた運命としての未来、
不確定な今思える可能性としての未来だ。
この二つの未来を重ねながら、
リライトは常に進めなければならない。
既に結末や経緯を知っているストーリーなのに、
「きっとこうなるな、いや、こうかな、実はこうなんじゃないか」
と新鮮に予想しなければならない。
これはとても難しく、
初見の観客になることがどうして難しいか、
の答えだと思う。
知っている状態から、知らない状態に戻ることは、
とても難しいのだ。
僕がしばらく置いてからリライトしなさい、
とアドバイスするのは、
忘れる為である。
初見の観客になりやすいからだ。
しかし何回も長期間置いておくわけにはいかない。
未来に起こることを作者としては知っている状態で、
未来に起こることを観客としては知らない状態で、
今の原稿を見れているか、
ということはとても大事だ。
たとえばよくあるリライトの誤りは、
「将来ある事のために、
今とても詰まらない伏線部分を挿入する」
「今これからを予想して楽しむ時間帯なのに、
将来のことを前倒すためにカットしてしまい、
楽しみが減る」
などである。
確定未来を重視しすぎたわけだ。
ふたつの未来、現在、過去。
これらを意識しながら、
現在を書き直していこう。
難しいが、これが成功しないとリライトは成功しない。
2021年02月01日
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