親指シフトの設計の時、
「他の指との同時押しは、親指がベスト」という結論になったそうだ。
ほんとにそうかな?
原典になる開発当時の資料が探せなかった。
どのような調査の末、親指がベストと考えられたのかがわからない。
http://www.ykanda.jp/txt/oyahimit.txt
を見る限り、
左子音+右母音の同時打鍵は試されたようだが、
親指シフトと同方式で、
人差し指から小指までのどれをシフトキーにするべきか、
という調査がなされたかについては調べられなかった。
(母音子音の左右同時打鍵についても、
たとえばphoenixカナ配列は、同時押しはタイミングでなく、
逆順を認めた順押しで判定していて、
ロジックによる工夫がなされていたのかも、分からない。
二週間で根を上げた左右同時打鍵の、ロジックや配置はどうだったんだろう。
根を上げた原因が、左右同時打鍵以外にあるかも知れないのに、
原典がないため検証できない。
つまりざっくりいうと、研究度合いがぬるいんじゃないの?
と僕は疑っている)
親指が同時打鍵にもっとも適している、
という主張には,
二つ反論できると思う。
・中指同時押し、薬指同時押しのカナ配列がわりとあること
(人差し指同時押しは薙刀式だけ?かも)
・「親指は他の指と掴む動作をするから、対抗運動がやりやすい」
というのが根拠だったと思うが、
実際の親指シフトの同時打鍵は、掴むような動作ではなく、
猫の手で指先でキーを押す動作に改変されていること
中指薬指同時押し配列については、
僕は下駄と新下駄を触ってみた。
その経験の範囲内では、
とくに難しく困るということはなかった。
新下駄の薬指同時押しは、
清濁別置との脳的な混乱があり、僕は挫折。
下駄の、「濁音化は薬指同時押し」
と役割を明確にしている場合は難なく出来た。
耐久性についてはどうだろう。
それらを用いて大量の文書が書かれているかというと、
寡聞にしてその実例を知らない。
親指シフトの普及率に比べれば天と地の開きがあるから、
いまないからといって、
即中指薬指同時押しはよくない、
という根拠にはならないが。
短期的な速度面、タイピングゲームなどにおいては、
親指シフターよりも中指薬指系が熱心で、
親指シフトの記録はとうに上回っていると思う。
薙刀式は人差し指同時押しを用いる。
下駄配列の経験から、
「同時押しの役割が意味的にはっきりしているものはやりやすい」
ということは分かっていたので、
中段人差し指(FJ)との同時押しは濁音化、
下段人差し指(VM)との同時押しは半濁音化、
と明確に決めている。(濁音全体で10%、半濁音全体で数%)
指の中で最も器用に制御できるのは、
僕は人差し指だと思うので、
同時打鍵という複雑な操作を、人差し指に委ねた設計だ。
(薙刀式の特徴であるところの、
濁拗音、半濁拗音、外来音を3キー同時押しで一発でいける方式でも、
必ず人差し指を使うようになっている)
普通の配列では、人差し指は伸ばし位置も含めて6キー担当のため、
さらに同時押しを与えることは負担増なのだが、
薙刀式はTYを不使用にしているため、
5キー+ホームキー同時押しというバランスになっている。
このことによって、他の配列に比べて、
上をあまり意識しなくてよい、中下段寄りの重心に変わっている。
短い人差し指に合わせたバランスだ。
こうした各配列のシフトキーの工夫は、
配字との関連もあるだろうが、
ここでは深く入らない。
どの流派も、
「親指が特別同時押しに向いている」
とは考えていないことだけ書いておく。
仮に親指がベストだとしても、
二つ目の反論がある。
ものを掴む動作は確かに猿以降類人猿の特徴だが、
実際に「枝や棒を掴む」「球を掴む」
ようには、親指シフトは打鍵しない。
(僕がずっと開発しているサドルプロファイルは、
その「掴む」動作を実現するためのキーキャップ)
まあそれでも、
指をキーに垂直に突き刺すような打ち方の人は、
猫の手の形による、
指先同士での同時打鍵はやりやすいかもしれない。
突き刺すというより、押し付ける、スタンプのように使うのかも知れない。
しかし撫で打ち派の僕は、
なるべく指を寝かせて、指紋部分でキーに触りたい。
その手のポジションでは、
親指は爪の横の部分でキーを叩かなくてはならないため、
親指を物凄く痛めやすい。
僕は、掴む形、かつ撫で打ちが出来るようなエルゴノミクスとして、
サドルプロファイルを開発しているが、
親指シフトは撫で打ち派を拒絶しているようである。
つまり、
親指シフトは考え方としては先進的だったかも知れないが、
その実装は中途半端だったと僕は考えている。
親指シフト方式で、配字だけを改良した、
飛鳥や蜂蜜小梅などの名作があるが、
これらは親指シフトニコラ配列の配字が、
まったくもってベストではなかったことの、
傍証のひとつだ。
(僕は親指シフト配列の配字は、てんでなってないと思う。
効率の悪い運指をしなくてはならない)
もっとも、
親指シフトが誕生したときは、
このキーボードを使うしかない、
という強い制約があり、
「どんな手段を用いても良いので、
日本語を書くのに最も適した家電をつくろう」
という条件下の開発ではなかっただろう。
普及とコストの問題もあるしね。
(しかしコストだけを考えていれば、
損して得取れの戦略をいつまでも選択できず、
デファクトスタンダードのナッシュ均衡に陥るのみだ)
オアシス誕生直後以降の、
キーボード腱鞘炎対策が、
押下圧を軽くする以外に特になかったことも、
本気で考えてんのかなあと疑問が出るところだ。
もっとも、当時考えられていたよりも、
現代は高速で、沢山タイピングが行われているだけかも知れない。
(なにせ当時のコンテスト優勝は、コピー打鍵で900字/10分というレベルの低さだ。
僕は薙刀式で、文を考えながら1200〜1500で20〜30分は連続で打つぞ)
あと僕がずっと気になっているのは、
「掴むように打鍵したとき、
最も早くて楽に打鍵できるのか?」
ということ。
棒をニギニギするのがベストだとは、
どうも思えなくなってきた。
今サドルプロファイルで研究してるのは、
親指自体も撫で打ちすること。
指先で突き刺す、ストンピングするのではなく、
滑らせるように打つことだ。
(それゆえスピードスイッチにして、
打鍵を浅くしている)
これらの疑問を解消したくて、
親指シフトの実際の速い打鍵動画
(手元と文字が入っていて、
コピー打鍵ではなく、自分の思うことを書く、
ほんとの実戦の動画)
を探しているのだが、とんと出てこない。
どういう親指との同時打鍵が、
親指シフト的には凄く良くて最高、
と思われているのかを見たい。
それでようやく「そうじゃない」と反論できる。
もしそれが凄くよければ「最高」と判断できる。
その判断材料が少ないことが、
僕を親指シフト不信にしているんだよね。
公開されている動画は、
ほとんどが親指の横で打っているものだ。
手を見るとゴツいタイプの人が多くて、
手を壊しそうにないタイプばかり。
そういうゴリラは親指シフトがいいぞ、
という結論でも僕はいいと思っている。
で、同時打鍵じゃない方がいい、
順次打鍵(前置シフトや後置シフト)だ、
という派閥や、
狭くしないで広くした方が、
という派閥もあり、まことにカナ配列はややこしい。
2021年02月21日
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