Filco公式が、神木隆之介が「静音赤軸は固い」と発言したことについて、
考察していて面白い。
https://mobile.twitter.com/infoFILCO/status/1376400764541624321
https://mobile.twitter.com/infoFILCO/status/1376424213326651394
僕の意見は以下。
キーボードの打鍵スタイルは、大きく分けてふたつある。
ひとつは突き刺し系、もうひとつは撫で打ち系だ。
突き刺し系は、指の第二関節を曲げ、その先を下すように打つ。
メンブレンやメカニカルなど、4mmの長いストロークを底まで打つやり方だ。
撫で打ち系は、パンタグラフを使ってきた人の打ち方だ。
ストローク2mm、平らなキートップを、
下方向ではなく横方向に撫でて打つ。
キートップの接触面は、
突き刺し系は指先、撫で打ち系は指の腹(指紋部分)であることが、
大きな差であると思う。
突き刺し系はZ方向に力を入れる。
撫で打ち系はXY平面に力を入れ、結果Z方向にキーが押される感じ。
メカニカルスイッチの場合、
本来アクチュエーションポイントは2mmなのだから、
2.01mm打って引けば底打ちをせずに済むはずだ。
しかしそれでは「打ってる感」がないので、
なんとなく底打ちをしてしまうのが人間というものだ。
「赤軸はうるさい」という人がいる。
本来2mmで底打ちしなくていいものを、
フルストローク4mm打ってしまい、
底打ちをカラカラさせるからである。
これはメンブレンのような、
「底打ちして接点させる」方式しか知らない、
メカニカルの打ち方としては間違っているのだが、
その知識がなく底打ちするか、
分かっててもやってしまうかのどちらかで、
ゆえに底打ちがデフォルトになるのではないか?
実際自作キーボード用に山ほど出ているリニアスイッチ、
たとえばGateron Ink(Red、Yellow、Black)、Durock Alpaca、
Novelkeys Cream、Kailh Speed Silver、Durock Full POM、
あるいは軽めのGateron Clearなどの、
打鍵動画を見ていても、
底打ちの音の気持ちよさ優先のことが多く、
(コメントでも音の良さが言及されることが多い)
「底打ちせずに打っていく」
ことは前提となっていないように思える。
ゆえに、
静音赤軸は、単純に底打ちでの評価なのではないかと思ったのだ。
サイレントスイッチの原理は、
ステムの底と上にゴムがついていて、
プラ同士が当たる音の代わりにゴムクッションになっていて、
音を吸収しようということだ。
なので激しく底打ちすると、「固いゴムで底打ちした感じになる」と思う。
実際この感触が嫌いで静音軸を避ける人もいるくらい。
赤軸のスコーンと抜ける、プラスチックを打ち抜く軽快さ、爽快さに比べ、
ゴムで止められたような嫌な感触が残る。
これをして「固い」という感想があるのだと思う。
つまり、
そもそも勢いよく底打ちするやつが悪い、
メカニカルの打ち方が間違っていると僕は想像するのである。
で、底打ちしやすい人は、
もともと突き刺し系である確率が高い。
やってみると分かるけど、
突き刺し系で底打ちせずに半ばで止めることは、
制御が大変難しい。
大体コントロールし切れずに底打ちしてしまうと思う。
それがゆえに、そういう打ち方の人は、
重めの押下圧を好む。
黒軸の60gは、そうした突き刺し系底打ちでも、
カツーンと響かないような重めのものを提供する。
リニアの高級系スイッチ、たとえばZealのものは、
底打ちが60〜68gが多く、
DurockのDolphinやDayBreakも似たようなものだ。
高級タクタイルも同様の傾向が強い。
これは、突き刺し系の打ち方を受け止め、
底打ちまでいかないギリギリの力加減を目指していると感じるわけだ。
それに対して、45gベースの静音赤軸は、
軽く底まで到達してしまうのだと思う。
つまり、僕は静音赤軸を突き刺し系の打ち方で打つのは、
そもそも間違いなのでは?
と推測している。
で、撫で打ちだ。
撫で打ちは縦方向に力を使わない。
なので軽い軸を打つのに向いている。
逆に重たい軸は、XY方向に普段使っている力を、
Z方向にも使わないといけないので調子が狂い、
軽快な打鍵がしにくくなり、枷が重くなったように感じる。
だから、撫で打ちが向いてるのは、
赤軸45g以下、
Gateron Clear、Choc v1 Red Proの35g、
東プレ30g、
そして自作系でバネ交換した30g以下(〜12g)のスイッチだと思う。
この打鍵スタイルで静音赤軸を打つならば、
押し込みから戻りまでのストロークが短く、
半ばあたりで戻るようなタイピングが可能になり、
仮に底まで到達したとしても、
ガツンと底打ちせずに、ゴムがボトムにコツっと触れるあたりで、
戻りに入れるはずだ。
だから静音赤軸の要求するタイピングとは、
スッスッスッスッ、コツッ、スッスッ、コツッコツッ、
みたいな、底打ちギリギリに浮いたタイピングのはずだ。
おそらく神木隆之介の感想は、
メンブレン系から来た底打ちまでガツンとやらないと気が済まない癖を持ち、
それ以外の打ち方を知らないまま、
「軽くていいぞ」という噂だけを聞き、
静音赤軸の本来の触り方を知らないまま、
ガツガツと底打ちして、
重たい軸を扱う力のまま突き刺し系で落とし込み、
ゴムの感触をまともに感じて「固い」
という結論に達したと推理する。
赤軸で底に触れないような撫で打ち系の軽いタイピングを身につけないと、
静音赤軸は使いこなせないと思うよ。
現在自作界隈で流行しているタクタイルは、
底打ちを知らせる昔ながらの茶軸ではなく、
アクチュエーションポイントがタクタイル感でわかるような、
ミドルタクタイルか、
始動し始めから底打ちまで全体に丸くタクタイルがある、
スロータクタイル系だ。
これは「底打ちでアクチュエーションを知るのではなく、
アクチュエーションそのものを知りたい、
底打ちはそのあとのおまけにしたい」
という要求のもと進められている流行だと思われる。
さて、
僕がスピードシルバーを改造し始めてから、
ずっと目指していることは、
アクチュエーションまで1mm、
ストローク2mm以下(ぎりぎり1.1mmまで攻めたい)、
始動からアクチュエーションまで15g〜25g程度、
アクチュエーション直後くらいにステムを減速させるブレーキポイントがあり、
コツンと0反射するのではなく、
ブレーキエリアが長めにあるようなタイプだ。
それにはステムを動かすためのバネではない、
別の干渉因子が必要で、
短めの2本目のバネを入れるか、
ハウジングの中敷きにクッションシートを仕込むか、
ステム穴の底にクッション材を仕込むか、
などでカツンとした反射でなく、
やわりとした感触になるような工夫をしているわけだ。
ざっくりいうと、
軽めのパンタグラフのストロークで撫で打ちできて、
しかもコリっと帰ってくるのではなく、
ふわりと底まで到達したい感じだ。
そしてソフトタッチでもハードヒットでも、
その力に応じてたわんで返してくれる感触である。
一番イメージしてるのは、
万年筆のペン先なんだよね。
どんな力で押しても同じ力でゆっくり帰ってくる感じ。
だから最終的には板バネを探求するかもなあ、
なんて夢想したりしている。
脱線した。
スティングレイが硬いのは、
スピードスイッチゆえのストロークの短さだ。
ロープロは撫で打ちしないと、
ストロークが短く、すぐに底打ちの感触を得てしまう。
これまたメンブレンのつもりで、
4mmストロークのつもりで突き刺し打ちをすると、
すぐに底に到達してしまい、硬いとか痛いとかの感想が出るのだろう。
MXやKailh、Gateronのスピードスイッチは、
それを避けるためか、比較的重めのバネを仕込んでいる。
撫で打ちの浅めなら傷は少ないが、
万が一強く底打ちしても、カツーンと抜けないための仕掛けなのだろう。
だから浅い系のスイッチは、
なるべく撫で打ちして、底打ちしないタイピングをするべきなのだが、
突き刺し系で4mm打つから、
硬くて重いと感じてしまうのではないだろうか?
総じて、
「半ばで引き始める」という、
メカニカルの使い勝手を知らない人が使った、
「誤った先入観による感想」に思えた。
大人しく青軸で底打ちカチカチやってればいいと思うよ。
同様に半ばでアクチュエーションになる、
静電容量無接点軸でも、
底打ちせずに半ば打ちすることが最善手だけど、
「HHKBは底打ちの音がいい」なんて言ってる、
あまりよく知らない人の感想が多くて、
じゃあメンブレンでも変わらんのでは、
くらいに思って僕は眺めている。
その設計された使い方を知り、
そのスペックを十二分に引き出すのが、
我々パイロットの役目である。
誤った乗り方をしてポンコツ呼ばわりするのは、
分かってないパイロットを乗せただけだと思う。
キーボードメーカーは、そうした啓蒙活動も含めてお願いしたいところだね。
4/3追記:
神木隆之介は緑軸使用者らしい。
チェリーの緑軸だとしたら、80gクリッキー。
重たいのもいいところだから、
ガツガツ打って底打ちのクリックを知るのだろう。
その力でチェリー静音赤45gなんて打ったら、
軽すぎて指が痛くなり、底打ちのゴムをゴツンと感じるわな。
もちろん80gは撫で打ちなんて全然無理だから、
突き刺し系でしっかり打つタイプなのだろう。
大人しくメンブレンを使った方が打鍵スタイルに合うと思うがね。
2021年03月29日
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