個性的な俳優だった。
施設に入りながらも「北の国から」の新作を待っていたと聞く。
僕が最初に意識したのは、
ルパン三世の初の実写化、「ルパン三世念力珍作戦」。
実写側の都合で原作はいかようにも曲げられる、
という残念な典型例を学んだ。
目黒裕樹がルパンはいいとしても田中邦衛次元はないやろ。
「北の国から」は、途中から入りそびれて一作も見ていない。
もともと愉快な俳優として名を知られた田中邦衛が真面目な役をやってるのも、
興味を惹かれなかったのもある。
雪国にロマンを感じてなかったし、寒いの嫌いだし。
しかし巨大な作品であることは確かなので、
そのうち一気見をしなければ、と思っていた矢先だ。
あのへんでロケをしているシリーズものを担当しているので、
影響を受けてはいけないと思い、わざと見ていない。
見た方がいいのか悩む。
20年以上前、会社に入った頃、
大映の撮影所だったか、山田洋次の現場を見学させてもらったことがある。
(追記: 時期的なことから「学校III」と思われる)
リハーサルを念入りにやり、本番は1テイクのやり方は、
フィルムを無駄にせず、かつ俳優の暴れを繰り返すリハーサルで消していくやり方なのだと、
カメラ後ろから見ていた。
寅さん渥美清が亡くなったあとで、17時に撮影終了するスタイルは、
病気だった渥美清に合わせた山田組の習慣と聞いた。
休憩時にトイレに行ったら、なんと田中邦衛があとから入ってきて、
図らずも連れションとなった。
新人だから声の掛け方もわからず、ただ会釈しかできなかった。
俳優はテレビの中の別物なのではなく、
たかが一人の人間で、そのたかが人間たちがテレビや映画を作ってるのだと、
その時に強く思った。
この時が、僕がイマジナリラインの向こう側に行けた瞬間だと思っている。
つまり作り手の自覚だ。
僕らがつくるんだ。
僕らが僕らじゃないものを演じてつくるんだ。
田中邦衛はただ小便をする姿だけで、
僕にそれを教えてくれた。
いつか仕事をしたかった人がまた一人星になった。
一度主役を張った俳優は、脇役をやりたがらないという。
田中邦衛は脇役でこそ光る人材で、
晩年の彼は脇役をやりたかったかどうか、聞いてみたかった。
2021年04月03日
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