2021年04月07日

ストーリーは尽くされたか

ある時、
「音楽は有限個の音符の組み合わせなのだから、
大体いいメロディというのは尽くした」
と、音楽の終わりが論じられたことがあった。
ストーリーだって、
「大体有限個のオイシイ事件やキャラの組み合わせは、
尽くした」と言えないだろうか?


これは年をとったこととも関係しているかもしれない。
何も知らないならば、
どれを見ても新鮮な組合せで、
どれもまだパターンに陥ることになっていないからだ。
しかし何年も映画やドラマを見ていれば、
「パターンが見えてきたな」ということがある。

一時期トレンディドラマは、
人気俳優、女優の組合せの順列組み合わせを尽くした、
と評論され、それがトレンディドラマの終焉と重なった記憶がある。

トレンディドラマは、
最新のかっこいい現代職業もの、というジャンルだと思う。
ちょっと前なら美容師、今ならユーチューバーだろうか。
その世界のあれこれと、恋愛を絡めた構造がトレンディドラマだ。
しかし、Bストーリーの恋愛のパターンなんてそうそう多くないし、
Aストーリーの現代職業のネタが尽きた時点で、
新鮮味がなくなってゆく。
つまりは職業や業界のネタ切れで、
トレンディドラマはパターンに陥ったと言えるだろう。

最近映画が全て順列組み合わせに見える現象に出くわす。
それは今までのストーリーの組み合わせに見えてくる、
物知りならではの現象なのかもしれない。
みんなアレがいいとか言ってるけど、
それはアレで見たよな、あるいは、
アレとアレとアレを組み合わせれば出来る、ってやつだ。
ラーメンのスープとかと同じかもしれない。
要素解析が出来るなら、
分解出来てしまう、ということだ。

シナリオライター初期にこうした分析が有効なのは、
自分がそのパターンを吸収していないときだ。

自分が使いこなせるようになっていくと、
新しいパターンもなくなっていき、
いずれ熱的死を迎えるのだろうか、などと思ってしまう。

トレンディドラマの死は、
実は順列組み合わせよりも、
現代的かっこいい職業のネタ切れだったように思う。
つまりは「今あるかっこいい職業は尽くした」感が、
順列組み合わせの終わりを告げたのだ。

そこから時代が下り、
その当時のかっこいい職業も廃れて、
新しいかっこいい職業が生まれてくれば、
またトレンディドラマは復活するかもしれない。

ただ、日本は衰退に向かっているから、
新しい職業が生まれていない。
介護士、デイトレーダー、ユーチューバー、ツイッター芸人、
失礼クリエイターことマナー講師、
など、時代を動かすには小物である。
脇役の職業としては面白いが、
その業界のドラマとしては、興味をそそられるものではないかもね。

多品種少量生産の行きついたところは、
みんなバラバラで、憧れの頂点が存在しない、
フラットな世界である。
憧れが存在するならば、トレンディドラマは復活できるが、今はそうなっていない。


ストーリー構造のパターンに限っても、
もう出尽くしたような感覚がある。
どんでん返し、実は死んでいた(または狂ってた)、
などはもう飽きたし、
普通に成功していくハッピーエンドは今の時代嘘くさいし、
じゃあバッドエンドも飽きたなあ、
なんて贅沢な観客になってしまう。

新しく出来るのは、
新しい焦点ではないかと思う。

「こういうことに右往左往する焦点」
が新しくなると、
順列組み合わせに入っていないものになるのではないか。

新しい社会問題はあれど、
それを解決できたわけではないから、
問題そのものがネタになっても、
ストーリー側で答えを用意するわけにはいかない。

あくまでその部分問題を扱うことしか出来ないだろう。
昔の偉人がネタになりやすいのは、
既に偉大なる解決が用意されているからで、
見事な解決を脚本家が考えつかなくていいからだ。


ストーリーは語り尽くされたのだろうか?
音楽のように、有限個の組み合わせを尽くしたのか?

こう問う時、音楽業界がヒントになる。
メロディが尽くされたとしても、
歌詞は新しくなれる。
歌詞とメロディが尽くされたとしても、
それを歌う人のパターンは新しくなる。

メロディが構造、歌詞がテーマやモチーフ、
歌う人をキャラクターに置きかえれば、
これからするべきことは見えるかもしれない。

新しい要素を発明すると、新しくなるかもしれない。
ゲイを始めとするLGBTは、
ストーリー構造に関係する新しい要素だった。
(男女だけが恋愛構造になる訳ではないという点で)
「実は死んでいた(狂っていた)」という叙述トリックや、
「組織のボスが真犯人で、俺達は操られていたのだ」というパターンは、
一時期新しい構造要素であった。
こうした新要素を発明すると、
ストーリーは、順列組み合わせから脱出できるように思う。

それがどういうものかは、僕も分らない。
見つけたやつが、傑作をものにできるだろう。

だから、新しい要素をいつも探すのだ。
それと古いが〇〇を組み合わせた時に、
新しい作風を作れる可能性があるわけだからね。


使いこなせないならば、色んなストーリーのパターンを分析することだ。
尽くした時、新しいパターンを編み出す事で、
ストーリーそのものを新しくしていくしかない。
posted by おおおかとしひこ at 00:10| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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