2021年04月25日

【薙刀式】カナ配列習得時に起こること

共通して起こりやすい現象をわかりやすくまとめている記事があったので。

親指シフト特訓 2か月 ミスタイプのパターンはいつも同じ
https://o-naru.com/thumb-shift-2-month/

これは親指シフトの場合だけど、
ブラインドタッチ全般に起こり得ることだと思う。


1. ミラー現象
2. 似ている見た目の文字を間違う
3. 端に置かれた小書き


qwertyのブラインドタッチではあまり起こらないように思う。
ミラー現象が起こりにくい配列で、
それほど似た文字もなく
(mnと句読点は僕はよく間違うかな)、
端はzpくらいだからだね。

26文字しか使わないローマ字と違い、
カナは50音以上使うため、
どうしても端から端まで文字が埋まる。

それをシフト機構を用いて圧縮してはいるものの、
打鍵範囲は相対的には大きくなる。

指の担当範囲、意識しなければならない範囲は増える。


ぶっちゃけ、
qwertyのブラインドタッチが出来る人でも、
すべての指の上中下段を等しく打てる人は、
あまりいないように思う。
qz、xcb、;/あたりは苦手な人がいると思う。
これらも含めて30キー範囲をぜんぶ打てるようにする段階で、
カナ配列はqwertyより要求するハードルが高いんだよね。

(そのかわりリターンも大きいが)


ただし親指シフトが、
ミラー現象を起こしやすい配列であり、
四隅に似た役割のマイナーな小書きを置いたことで、
どれがどれか定着しないという欠点を抱えていることは、
指摘しておきたい。

どれも薬指小指という、動かしにくい指で起こっているため、
ここへの負荷が大きい配列、
ここへの訓練が特別に必要であることは、
親指シフトの欠点であると指摘しておく。

配列によっては、
ここまで酷いことにならないかもしれないが、
qwerty程度の指の動かしでは、
まだ足りていない領域の能力を要求することはたしかだ。
出来る人と出来ない人が出るだろう。

薙刀式は習得しやすい指さばきの方だと思うけど、
意外なところで出来ない人もいるのでは、
と批判待ちだったりする。
(人によっては右小指下段の「れ」周りの連接がやりにくかったり、
そもそも同時打鍵が苦手だったり、
薬指小指をもっと使えるのに、
というようなことは把握しているつもり)


多かれ少なかれ、このような現象は起こると思うので、
諦めずにその峠を越えられんことを祈る。
「なんだみんなおなじか」と思うと、
リラックス出来るようになると思う。
posted by おおおかとしひこ at 21:44| Comment(25) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここ何日か親指シフトから薙刀式に乗り換えた感想を書いていますが、
今回の大岡さんの指摘が全く同じ内容で驚きました。
(配列論で大岡さんの知見に及ぶはずがないのは判っていましたが)
この辺りの感想は書かなくとも良さそうですね。

そうなると残っているのは、
「薙刀式の指感覚のイメージ表現」と
「親指シフトの『指が喋り出す感覚の正体』の仮説」くらいでしょうか。
他の人が既に指摘している可能性がありますし、
全くの的外れかもしれない内容ですが、読みたいですか?
Posted by ヨシアキ at 2021年04月26日 20:34
>ヨシアキさん

「やっぱそこは同じなのかー」
ということも知りたいので、削らなくていいですよ。
その人の中で矛盾しない内容、みたいなことを知りたいんですよね。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年04月27日 02:14
了解しました。少し時間がかかりますが、感じたことを削らずに書いてみます。
結構な長文になると思いますが、書き込む記事はどれが良いですか?
最新の記事にするか、もしくは指定があるなら教えて下さい。
Posted by ヨシアキ at 2021年04月27日 06:57
>ヨシアキさん

追いかけやすくするためにはこの記事がよさそうです。
文字数制限があるかもですが、その時は適宜分割してみてください。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年04月27日 10:32
分かりました。気長にお待ち下さい。
Posted by ヨシアキ at 2021年04月27日 22:42
『20年来の親指シフターが薙刀式に乗り換えた理由』を投稿します。

他人様のブログにこんな長文を書き込むのはどうかとも思いましたが、
元親指シフターの気持ちを分かり易くするための措置として御容赦下さい。
素人の感想ですが、大岡さんや薙刀式に興味を持っている人の知見を、
僅かなりとも深められれば幸いです。

(『親指シフトの「指が喋る」の正体』(仮)の方は後日投稿します)
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 21:57

『20年来の親指シフターが薙刀式に乗り換えた理由』

  目次

1 親指シフトの導入
2 自作キーボードと独自配列の導入を決意
3 薙刀式を選ぶ
4 薙刀式のイメージ的表現
 4−1 ╂
 4−2 ◆
 4−3 ●
5 編集モード
6 記憶負担の軽減
7 薙刀式で気になった点
8 総論
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:02
1 親指シフトの導入

親指シフトを導入したのは、ローマ字入力やJISかな入力の不合理さと、
標準キーボードの物理配置に頭に来たからでした。(Windows98が出た頃)

 一文字に2打鍵が必要なローマ字入力
 常用が難しい数字段まで使うJISかな入力(特に長音記号の位置)
 最頻度のBSとEnterとアロー(移動と選択)キーの遠さ
 編集作業の基点となるCtrlを最も脆弱な小指で押す不合理さ
 最も頑健な親指を活用する意思が皆無なスペースキーの長さ

何もかも気に入らなくて、すぐに代替手段を模索しました。
候補として見つけたのはTRONと、ワープロのOASYSで実績があり、
作家や記者などの文筆業に愛用者が多いという噂の親指シフトでした。

TRONは専用キーボードが絶対に必要な時点で無理。
標準キーボードでほぼエミュレート(再現)できることから、
「実質的な選択肢は親指シフトしかなかった」が当時の体感です。

「ローマ字とJISかなよりマシなら何でもいい」
「本職に愛用者が多いなら大丈夫だろう」
「富士通のサポートがあるから長期間安心」
といった感覚の方が強く、
配列そのものの品質までは考えが及びませんでした。

結局パソコンを使い始めて一ヵ月でローマ字とJISかなに見切りを付け、
数ヵ月で親指シフトに乗り換えて、色々と工夫しました。

 無変換をCtrlと兼用する
 Ctrl+JKILに←↓↑→を割り当てる
 右手のキーを全て1つ右にずらす
 他にも多数
(上記の内容は全て自分で考え出しました)

ここまでして漸く「最低限は使える」ようになりました。

キーボードの物理配置に関しては、
エルゴノミクス・キーボードの王様であるKINESISを試したくらいです。
左に傾いた標準キーボードには全く納得していませんでしたが、
「独自のキーボードは1種類作って売るのに1千万円かかる」と聞いて、
自分で作るのは早々に諦めました。(価格の真偽は正確には未確認)

何年か後にスペースキーの短いRealforce(All30g)に落ち着いて、
そこで入力環境への熱意は一度止まりました。

それから二十年近く経って起きたのが自作キーボードのブームです。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:04
2 自作キーボードと独自配列の導入を決意

数年前に偶然自作キーボードが流行っていることを知って、
親指シフトを導入した頃の熱意が少し再燃しました。

また近年のキーボードはスペースキーが長くなる傾向があり、
親指シフトに適したキーボードやノートPCが益々減っています。
(親指シフターは基本的に「常時キーボード難民」です)
頼みの綱だったRealforceも周囲の風潮に迎合しました。

富士通も親指シフトのサポートを打ち切り、
今後のパソコンでの入力環境の構築への不安が高まったこともあり、
自作キーボードの導入を本格的に検討し始めました。

富士通のサポートの打ち切りやRealforceの件は残念でしたが、
結果的にキーボードの物理配置や独自配列を、
「純粋な機能性のみで比較できるようになった」のは良かったと思います。

自作キーボードを検索すると大岡さんのブログがヒットするようになり、
当然ながら薙刀式の存在を知りました。

親指シフト以外の独自(個人)配列の存在は以前から知っていましたが、
習得コストやサポート面などのリスクを考えると、
独自配列に移行するのは「割に合わない」と感じていました。

これは私が文筆を生業とする職業ではないことも大きいです。
「ローマ字やJISかなは困るが、親指シフト以上を必要とする程でもない」
という使い方なので、独自配列はある意味でオーバースペックなのです。
憧れはあるものの手を伸ばす気持ちは起きない高嶺の花でした。

手を伸ばす気になったのは、
「独自配列にするなら自作キーボードの導入と同じタイミングしかない」
と感じたからでした。

入力環境の抜本的な再構築という「大仕事」を2回するのは無理ですが、
1回で済ませられるなら何とかやる気が起きました。

またタブレットの一般化により、自作キーボードと組み合わせれば、
「親指シフトに適したノートPC探し」という苦行から解放されます。

こうして公式のサポートが無い状況での親指シフト環境の維持コストと、
自作キーボードと独自配列の導入後の環境の維持コストを比較した結果、
後者の方が「コストとリスクに対するリターンが大きい」と判断しました。
つまり「割に合う」と感じたので、
自作キーボードと独自配列の導入を決めました。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:05
3 薙刀式を選ぶ

独自配列の多くは配列表を見た時点で「怖い」や「複雑」と感じてしまい、
その時点で習得する気持ちは起きませんでした。
この点は親指シフトも似たようなものですが、
とにかくローマ字入力とJISかな入力がひど過ぎて、
そこから逃れたい一心で、当時は親指シフトの習得に耐えられました。

そんな中で薙刀式を選んだ理由は幾つかありますが、
配列表を初めて見た時に「怖くない」や「シンプル」と感じたことが、
後々まで大きかったです。

この印象が「薙刀式が機能的であることの証明」だと今も思っています。
機能的でないものはシンプルに表現できないはずなので。

余談ですが、薙刀式の配列で最も衝撃を受けたのは「BSの位置」でした。
Ctrl+Hなどの組み合わせでBSを実現するのはよく見かけますが、
「文字キーの領域に単独でBSを配置する発想と決断は“並”ではできない」
と思ったのをよく覚えています。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:06
4 薙刀式のイメージ的表現

薙刀式を使って最初に感じた印象は「●」でした。
更に指の感覚に集中すると「◆」を感じ、
そこから更に集中すると「╂」に行き着きました。

「●→◆→╂」と言えますし、「╂→◆→●」とも言えます。
╂は骨に、◆は肉に、●は皮に例えられるかもしれません。

この3つの感覚がレイヤーのように折り重なっているのが、
薙刀式の基本的な構造かもしれないと思ったので、
その辺りの感想を書いて行きます。

4−1 ╂

「╂」という印象は中段と両手の人差し指から来ています。
編集モードを考慮すれば中指も含まれるでしょう。
使用頻度的にも、薙刀式の人差し指中心の思想的にも、
配列全体の骨組に相当する部分と感じました。

使用頻度が高い音を中段(ホームポジション)に集めるのは、
「独自配列の定石」として珍しいものではありませんが、
親指シフトでは実現していなかったので、そこだけでも打ち易いです。

ア、イ、ウ、カなどの位置が象徴的ですが、薙刀式の中段は
日本語内での主観的な「音の格」を意識した配置に思えます。
単純な効率だけで中段のキーを決めたようには見えず、
非常に興味深い上に、何故か「触り心地が良い」です。

長音が小指とは言え中段にあるのも好感触です。
親指シフトでは長音が左手薬指下段という打ちにくい位置にあり、
いつもここで指の引っ掛かりを感じていたので助かります。

4−2 ◆

「◆」という印象は主に「拗音」と「連接」から感じたと思われます。

最初に「拗音」ですが、
左上段のキ、リ、シと右上段のヨ、ユは、
組み合わせてキュ、リョ、ショ等と出力する場合が多く、
左右の指の動きがほぼ対称的になるので、
「意識的な負担が少ない感覚」に仕上がっていると思います。
~(ユ(ヘ)が薬指打鍵推奨なのはマニュアルに書いておいて欲しかったです)

拗音との組み合わせを1ストロークで出力できるのは、
薙刀式を使って最初に感動した部分です。
親指シフトの拗音の2ストローク出力は明らかな弱点で残念だったので。

だから親指シフトでは拗音と長音を多用する外来語が打ちにくいですし、
ァィゥェォなどのたまにしか使わない拗音は、
思い出す努力をしながら何度か試さなければ正しく打てない場合が多く、
いつもそこで思考が中断されていました。

次に「連接」ですが、大岡さんのブログを拝見すると、
「ホームポジションから指を離した先で2打鍵以上したい」的なことが
書いてあり、そのことを「欲張り」とか「省力化」と呼んでいます。

この考え方は個人的に非常に分かり易かったです。例えば、職人の現場は
「材料を加工する場所」と「加工した材料を取り付ける場所」があり、
2つの場所を常に往復することになります。
だから往復回数を減らすことが作業時間の短縮になるので、
1回の加工と1回の取り付けに1往復するのは、
「手際が悪い」としか言われないのです。

ですから、スル、ナン、ラレ、シキ、テキ、シテ、ナオなどの
「連接を意識した配置」は合理的だと思いますし、
その意図は概ね成功していると言って良いでしょう。

こういった点が中段や人差し指の「╂」に対する肉付けとして、
「◆」と感じた部分だと思います。

4−3 ●

「●」という印象を言葉にすると「均等」になります。
薙刀式は各指の使用頻度に明確な偏りがありながら、
実際の使用感は非常に均質的で、「粒が揃っている」と感じました。

恐らくは各指の頑健さや器用さなどを考慮して、
「各指の実力に見合った仕事量」が割り振られているからでしょう。
それが●と感じた正体だと思います。

薙刀式と比べると親指シフトには印象がありません。
敢えて言うなら「散漫」でしょうか。大岡さんは
「親指シフトは同時打鍵方式を開発した時点で力尽きた未完成の配列か?」
的なことを書いていたと記憶していますが、恐らく真実でしょう。
これは親指シフトしか知らなかった時には気付けませんでした。

ただし親指シフトが小指や薬指の負担が大きいことには気付いていました。
BSの位置やEnterの使い方を含めて、最も脆弱な小指を使い過ぎていて、
手が痛むのはいつも小指からでした。
(CapsLockをCtrlにしている人は更に酷いはず)

ちなみに「もうこれ以上小指を酷使したくない」が、
親指シフトから薙刀式に乗り換えた理由の一つです。

以上の╂、◆、●の3つがレイヤーの如く折り重なったものが、
薙刀式を使って感じた印象であり、基本的な構造だと思いました。

これほど明確な構造を感じさせる配列が練り込まれていないはずはなく、
薙刀式は数多の配列の中でも上位の完成度であると確信しています。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:09
※補注
 上記の「●」は「◆」と同じ大きさですが、
 フォントによっては小さく表示されるかもしれません。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:13
5 編集モード

私見ですが、キーボードで人間の指が無理なく常用できるのは、
定位置と両隣の3つが限界だと思っています。
外側に向かって開く人差し指と小指は3つより少し多いことを考慮しても、
快適に打鍵できるキーは30〜40が限界ではないでしょうか。

だから標準キーボードの数字段は「無理をして押すキー」であり、
配列は上中下の3段に収めるのが1つの理想であるはずです。

日本語入力における親指シフトの功績の一つに、
「同時打鍵入力方式の開発により、実質的に打鍵できるキー数を増やして、
 文字入力で常用するキーを3段に収めた」があると思います。
(この素晴らしさは4段を使用するJISかなを使えば逆説的に分かります)

ただし親指シフトですらも、現代文では文字の一つと言っても過言ではない
カッコ類や?や!などの記号は数字段を使わざるを得ませんでした。
この問題を薙刀式は「編集モード」としてスマートに解決しています。

月配列の中指シフトの発想も凄いと思いましたが、
「文字領域の2キー同時押しで1つの修飾キーとする」
という発想には脱帽しました。
(多分これは「見つけた者勝ち」のアイディアです)

しかも隣り合う2本の指に同じ動きをさせるので、
「1本の太い指の感覚」で押すことができ、
意外なほど意識的な負担が少ないです。

親指シフトは実質的なキー数を増やしましたが、
薙刀式は編集モードで親指シフト以上にキーを増やし、
実用する殆ど全てのキーを3段に収めることに成功しています。
(数字は定義されていませんが、入れる余裕はあります)

ここには主要な機能キーも含まれていて、
画面から視線を離す「思考を中断する行為」を格段に減らせます。
文字、カッコ、記号、機能キーをほぼフラット(同列)に考えている配列は
薙刀式くらいではないでしょうか。

編集モードは独自の内容に書き換えることができ、
常用に向く3段内で使用できるキーを圧倒的に増やせることが、
他の配列とは一線を画す薙刀式の特徴であり、
親指シフトから乗り換えた大きな理由の1つです。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:14
6 記憶負担の軽減

親指シフトでは「配列に起因する思考の中断」が幾つかあります。
個人差はあるものの、この現象は「外来語の入力時」に起き易いです。
具体的には「拗音の位置」と「長音の位置」です。
(左薬指下段の長音の打ちにくさは人体の構造の話になるので割愛します)

親指シフトも「ッャュョ」は問題ないのですが、
「ァィゥェォ」は使用頻度が低く、
20年以上使ってもとっさに位置を思い出せません。
四隅にあることは覚えていても、それ以外はすぐに忘れてしまうので、
何回か試しながら打って正解に辿り着き、
その時には「書きたい内容を忘れている」ということが結構あります。

恐らく親指シフト配列の制作時に、拗音と長音は優先度が最も低くく、
優先度が高い音を配置した後の「余った位置」に配置されています。
それで打ちにくいのでしょうが、
これは外来語が氾濫する現代文とは明らかに合わないです。

その問題を薙刀式は清音、拗音、濁音、半濁音を
「同じ位置」にすることでシンプルに解決しています。
基本的なルールさえ覚れば「忘れても打てる」という設計には
何度も助けられていて、「とにかく楽」です。

ショ、ギャ、ヴィなどを「覚えずに」1ストロークで打てるのは、
明らかに親指シフトより優れていて、純粋に「気持ち良い」です。
初めて出力した時には感動しました。

余談ですが「記憶負担を少なくする」という薙刀式の設計思想が、
個人的なキーマップの指針になりました。ありがとうございます。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:15
7 薙刀式で気になった点

薙刀式は非常に練り込まれた配列だと思いますが、
打ちにくいと感じる文字がないわけではないです。

ただ個人差があること、
人間の指の構造に起因する場合が多いこと、
他の音の濁音処理との引き換えの結果であろうことから、
これ以上の練り込みは難しいのだろうと想像しています。

大半は慣れれば解決するものばかりですし、
代案があるわけでもないので、
素人の書き散らしだと思って下さい。

最初に打ちにくいと思ったのは、右小指中段シフト側の「つ」ですね。
「つ」は古語の「の」に相当するので、
日本語内での「音の格」が高いはずなのに、
意外に扱いが良くないように感じました。

逆に左薬指中段の「け(ぬ)」と上段の「ね」の位置が良すぎるような。

日本語で重要な地位を占める「は」と「を」が中段でないのは意外です。
いわゆる「てにをは」を左中指での打鍵に統一したかったのでしょうか。

「は(を)」を「け(ぬ)」と入れ替えるのは有りかも。
その場合は中指と薬指の打鍵数(作業量)が逆転するかもしれないので、
薙刀式の設計思想とは合わないかもしれませんが。

左右の小指下段の「ほ」と「れ」も打ちにくいですが、
これは小指の構造上の問題なので仕方ないかなと。
だからシフト側に文字を割り当てていないのでしょうし、
「られ」という連接を前提にした工夫が見られるので、
これ以上はどうしようもない気もします。

右薬指下段シフト側の「ふ」も打ちにくく、
とにかく拗音との同時押しがやりにくいです。
そもそも「ャュョ」との同時押しの音は、
左手側に集めるのが基本方針でしょうから、明らかに異端の配置です。
恐らく濁音絡みの処理で左手側に空きが無く、
右手側に移しても一番問題が無さそうなのが「ふ」だったと推察します。

日本語の「ます」や「ました」の多さから考えると、
左人差し指中段の「ま」はシフト側でない方が良かったように感じます。
その場合は隣りの「っ」との入れ替えが第一候補でしょうが、
「し」との連接は悪くなりますし、
今の左人差し指の定位置シフト側より打ち易いかは判断が難しいです。

薙刀式は人差し指の使い方が徹底的に考えられているのに、
V+Mの反対のR+U(BS)に割り当てが無いのは意外でした。
BSとの誤動作を嫌ったのでしょうか。
編集モードの上段がユーザーの独自定義の領域に指定されているので、
R+Uも同様の扱いなだけなのかもしれませんが。
もし割り当てるならV+MがEnterなので、R+UはESCかESCx3が良いかも。

後は打鍵スピードが上がって来ると別の文字になることがあるくらいです。
 例 「あか」→「が」 「あっ」→「ぢ」 「から」→「ぶ」
これは濁音の処理、つまり「記憶負担の軽減」との引き換えの結果なので、
さすがに今の設計を変えることはできないでしょう。
現在の設計の方が明らかにメリットが大きいわけですし。

気になったのはこのくらいでしょうか。殆ど粗探しですが、
薙刀式の完成度が高過ぎて、結果的にそうなってしまいます。
色々と書きましたが、現在の薙刀式に不満があるわけではありません。
むしろ満足感の方が遥かに大きいです。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:16
8 総論

薙刀式を実用レベルで打てるようになると、
親指シフト配列は「粗雑」と感じるようになりました。
(この点は自作キーボードと独自キーマップの恩恵も大きいです)

薙刀式は、滑らか、細かい、すべすべ、しっとり、といった感覚です。
全体的に無理がないと言うか、とにかく「触り心地が良い」ですね。
敢えて形容するなら「絹のような肌触り」でしょうか。
洗練された印象を強く感じます。

純粋な機能性で薙刀式が親指シフトに劣ると感じた点は無いです。
仮にあったとしても、それは他の利点との引き換えであって、
薙刀式の総合的な優位が揺らぐことはないでしょう。

親指シフトにもRealforceにも世話になり、感謝もしていますが、
薙刀式と自作キーボードを知った今となっては戻る理由が無いです。
編集モードを超える画期的な新機能でも発明されない限りは、
他の配列に乗り換える可能性も低く、末永く愛用させて頂くつもりです。

今は本格的に入力環境を移行して二ヵ月くらいであり、
まだまだ「指が混じった状態」ですが、
親指シフトを導入した頃の「書く楽しさ」が戻って来ました。

親指シフトの感覚が抜けて、指の感覚が完全に薙刀式に染まった時、
どのような世界が見えるのか今から楽しみです。

素晴らしい配列を作って下さった大岡さんと、
QMK版薙刀式を作って下さったeswaiさんと、
Helixを作って日本に自作キーボードのムーブメントを起こして下さった
遊舎工房のないんさんの御三方に深く感謝を申し上げて、
本稿の結びとさせて頂きます。

ありがとうございました。

『20年来の親指シフターが薙刀式に乗り換えた理由』(完)
Posted by ヨシアキ at 2021年06月06日 22:18
>ヨシアキさん

長文をありがとうございました。
他の親指シフターの乗り換えの動機になるといいなと思います。
(他の配列からでも歓迎です!)

僕は長年Macを使っていたので、
そのミニマルでシンプルな思想を愛しています。
そのことが薙刀式に強く反映していると思います。

Macの日本語環境はその思想を反映しきっているとは言いがたく
機能操作系には一定の哲学があるものの、
文字配列はしょせんデファクトです。
Windowsを嫌々使い始めてキレて、
「Macのようなシンプルな思想の延長としての、
日本語入力システムを作れないのか?」
と思ったのがはじまりのような気がします。

その思想は一旦カタナ式で完成しましたが、
それをカナ配列に拡張したのが薙刀式ともいえます。

親指シフトの粗雑なカナ並べ、
飛鳥の複雑な理論による並べ、
新下駄の統計第一の並べ方と違い、
「日本語の骨格とはなんぞや」から入ったので、
それが直感的な使いやすさの原因だろうと思います。

使いにくさのご指摘は一部当たっていて、
「は」「け」が最終形と逆だった版もありました。
しかし左薬指にそこまでの大役は任せられないことが、
僕の腱鞘炎からわかった感じです。
いまはSよりCの方が好位置という評価ですね。
このあたりは人の指の強さ、器用さによって異なる微妙な部分なので、
入れ替えて使っても構わないと思います。

「ま」はですます調をどれくらい使うかで変わってくるかもですね。
僕はあまり使わないから気にならないのかもです。
もっとも、移動先の手があんまりないんですが…

「つ」は、かつて「ヴ」が別位置(Q)にあり、
「う」裏でまあまあいい位置だったものを、
ヴ=う+濁音にするために「ヴ」を廃止して、
シンプルにするために移動しました。
法則の例外なさを優先するか、日本語の使い勝手を優先するか、
になってくると思われます。

小指や薬指の上下段は、これまた個人の器量で変わってくると思われるので、
どうしても問題が残るところですね。
カナ並べ的にはゴミ溜めエリアではあるけど、
じゃあ何を持って来ればいいのか、納得がいくものはなかなか候補に上がりませんね…

「ふ」は、あいうえおゆとの組み合わせ位置で決めたのですが、
初期のバージョンから、えおゆが動き、ファ行が打ちづらくなってしまったのは、
やや後悔が残っています。
昔のバージョンはA裏もあったなあ。
ただ「あ」が濁音を兼ねる以上、左に「ふ」があると、
「ぶ」「ふぁ」の打ち分けが難しくなるという事情はありました。
そうこうしてるうちに「ふぁ」は3キー同時に逃したので、
今からでも左手に移すことは可能だと思います。


こうした改造をすることはまったく自由だと思うので、
気になる部分は入れ替えたりしていくと、
自分なりになじんだ配列になる可能性がありますね。
(排他的配置があるため、結構制限が厳しいんですが)

それも総合的に考えると、
長所の影になる部分とは思います。

数学的な美しさを自然言語は持っていないため、
数学的に完璧に美しい配列はあり得ないのではないか、
などとうっすら考えてますが、
もっといい解がない証明は出来ないので、
薙刀式は完成版といいながらもまだ改良の余地があるかもですね。


あと、人差し指と小指は、上段を捨て気味に構えると、
運指がうまくいくかもです。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年06月06日 23:26
大岡さん、御返事ありがとうございます。
色々と書きましたが薙刀式の配列をいじるつもりはないです。
(編集モードの内容は好き勝手に変えていますが)

こういうものは表層しか見えない素人(部外者)が手を出すと、
最後には「良いものを悪くする」と思っていますし、
行き着く先が底なし沼なのも見えているので、
巨人の肩に乗らせて頂きます。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月07日 19:56
>ヨシアキさん

沼が待ってるのは確かなので(笑、
その辺は自己責任で。
人の手というのは同じように見えて違うと思うので、
こうだったらいいのに、を試すのはアリだと思いますよ。
ただqmkは改造が大変なので、
DvorakJ版なら簡単かも。
上に書いたカナ並べは、最後まで迷ったところではあるので、
その程度なら薙刀式の本質的な部分は揺らがないかと思われます。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年06月07日 20:53
製作者である大岡さんがそう言って下さるのであれば、
少しだけ配列をいじってみましょうかね。

個人的に薙刀式で最も印象に残らないのがSの「け(ぬ)」です。
Aの「ろ(せ)」の方がまだ印象があります。
小指よりも印象がない薬指がどうにも収まりが悪くて。
これは親指シフトのSが「し(あ)」だったからかもしれません。

変え過ぎないように注意しながら少し試してみます。

 S け(ぬ) → は(を)
 C は(を) → ー(つ)
 ; ー(つ) → け(ぬ)
Posted by ヨシアキ at 2021年06月08日 20:55
>ヨシアキさん

やはり自分の手の感覚と違うな、という印象です。
面白いなあ。
こうしたことはやってみて初めて分かることも多いので、
その方がよければそうすればいいし、
ダメだったら戻ればいいだけでしょう。

「け」周りで言うと、「けど」「だけど」のアルペジオがなくなるのが寂しいけど、「とは」「では」「には」あたりがアルペジオになるので、
その辺の薬指の負担が耐えられるかで決まると予想します。
(僕は無理でした)
「ー」がC位置は今まで考えたことがなかったので、
面白くなるかもです。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年06月08日 21:55
上に書いた配列の部分的な入れ替えですが、
少し試した後にv13に戻しました。

「は(を)」を左薬指のホームポジションに持って来るのは、
瞬間的な打ち心地は確かに良いのですが、
大岡さんの指摘通り「耐久力」に注意して使っていると、
左薬指に疲労が溜まって痛み出す気配がしました。

「使用頻度が高い文字はホームポジションが良い」と思っての変更でしたが、
「薬指の耐久力を超える」だけの結果に終わりました。

「小指(と薬指)をこれ以上酷使したくない」との想いが、
親指シフトから薙刀式に乗り換えた理由の一つであり、
問題が再発するなら乗り換えの意味がないので早々に諦めました。

それとv13の配置は両手の中指下段の「は(を)」と「ん(む)」が
何となく「釣り合っている」という気がして、
生理的な気持ち良さを感じていたのですが、
Cの「は(を)」をSに配置することにより、
そのような感覚が無くなったのも元に戻した理由の一つです。

「は」と「を」を分離することも考えましたが、
大岡さんが既に試して採用しなかった方法なので試しませんでした。
結局大岡さんの知見の深さやv13の完成度を再確認する結果に終わりました。

表層的な改造でどんどんズレて行く可能性や、
底なし沼に嵌まる危険性を考えると、
独自の改造に踏み込むのは私には無理そうです。

今回の私の失敗(?)の原因は、
「小指と親指の耐久力の差は判っていても、
薬指と中指の耐久力の差を正確に認識していなかった」点が挙げられます。
あとは左手と右手の耐久力の差の認識不足の他に、
「ホームポジションは一等地」という固定観念から抜け出せていませんでした。

その上で改めてv13を使うと「指の疲労度のバランスが格段に良い」ですね。
人差し指、中指、薬指の疲労がほぼ均等に感じられるのに加えて、
左手と右手に感じる疲労度も同じくらいなので驚きました。

「(打鍵数が)偏っているのに(疲労が)偏っていない」というのは、
実際に使い込みながら手探り(手触り)で配列を作り上げた、
文字通り「手作りならではの感覚」でしょう。お見事です。

なので、私は素直に先駆者の拓いた道を歩かせて頂きます。

◆追記

以前の長文はまとめるのに手一杯で書けませんでしたが、
薙刀式の配列で一番「生理的に気持ち良い」と感じたのは、
「あいうえお」の位置ですね。(より正確には「あいう」ですが)

これは生理的な感覚なので、
言葉にすると逆に本質から離れて行くような気がするので、
文章としてはまとめられないのですが。

アイウエオが五十音の最初に掲げられるのは何かしら意味があるのでしょう。
特に「A(ア)」は英語でも最初の文字ですし。
そう言えば英語のDvorak配列のAIUEOもホームポジションですね。

「アイウエオを核に(最大に活かせるように)展開したのが薙刀式か?」
と感じました。(ひょっとして日本語配列としては初の試みなのでは?)

個人的に薙刀式は「アイウエオ配列」だと思っています。
Posted by ヨシアキ at 2021年06月25日 20:11
>ヨシアキさん

なるほど、色々感想ありがとうございます。
この辺の「使い込む道具としての感じ」は、
なかなか配列図を見ただけでは伝わりづらく、
しかも多くの打鍵理論は、
「ちょっと使ってみた感じ」の表層的なものが多いと感じます。
ホーム段を全て一等地にする考えも僕は変だと思っていて、
そもそも作者が親指シフトを生涯使ってないやんけ、
というのが僕がもっとも訝っているポイントですかね。

配列は獣道のような感じだと思っていて、
長年の指の癖や軌跡がなんとなく平準化してくるような気がします。
その結果が現在形v13といえるでしょうか。
ただ別解もあり得るとは思っていて、
こうしたチャレンジはとても意義深いと思います。
(あっちへ行ってみたけど行き止まりだったよ、
みたいな情報として)

中指下段は完璧にそこだ、という答えはないような気がしますが、
現状は現状でひとつの正解だとは思ってます。

ずっと使ってるうちに、
自分の指が鍛えられて、
左手も薬指も強くなるかも、
と思ったのですが、さっぱり強くならないので、
現状の頻度感がいまのところの答えかなあ。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年06月25日 21:10
『親指シフトの「指が喋り出す感覚」の正体』


目次

1 親指シフトの謳い文句
2 考えた契機
3 通常シフトの異物感
4 同時打鍵のリズム感
5 超集中
6 指が喋り出す感覚の正体
7 問題が見えにくい背景
8 気にしない



1 親指シフトの謳い文句

富士通が開発した親指シフトは「指が喋り出す」の謳い文句がよく使われます。
「こういったことが実際にあるのか」と問われれば「ある」と明言できます。
何故なら実際に自分で体験したからです。

私の場合は思考よりも指の方が「先に」動いたことから、
「指に頭が引っ張られる」と思ったのをよく覚えています。
(と言っても数えるほどしか経験していませんが)
あの時は本当にびっくりしました。

文筆業ではなく日中はパソコンに触らない私でもそのような体験をするなら、
文筆を生業とする人々が指が喋る経験をしているのは、恐らく事実でしょう。
そういった「指が喋る感覚」の正体を、配列論の一環として考えてみます。

ただ、自分の感覚だけを拠り所とする素人の仮説であり、
実際には頓珍漢なことを言っているかもしれませんが、どうか御容赦ください。



2 考えた契機

「指が喋る」という感覚について本格的に考えたのは、
親指シフトから薙刀式への乗り換えを試し始めてからでした。

薙刀式を実装するには本家のDvorakJ版の他にQMK版やAHK版などがあり、
親指シフトの「同時打鍵入力」とほぼ同じ感覚で使用できる、
QMK版(の後置シフト方式)を使うことに決めました。

しかしQMK版は編集モードの中身を書き換えようとすると、
プログラム言語の勉強から始める必要があり、
プログラム素人の私はどうしても上手く行きませんでした。

それで、自分なりのキーマップを固めるまでは、
導入や変更が容易なDvorakJ版で薙刀式を練習することにしました。
その結果「通常シフト入力」を長期に渡って体験することになりました。

  QMK版    後置シフト = 同時打鍵入力 (通常シフトも可)
  DvorkJ版  通常シフト = 非同時打鍵入力 (同時打鍵も設定で可能?)

ですが、通常シフト入力には脳が拒絶するような違和感が付きまとい、
「この違和感の正体は何だろう?」と思ったことが、
親指シフトの「指が喋る感覚」についての考えを深める契機になりました。

なお、ここから先は同時打鍵方式と通常シフト方式を比較して行きますが、
両者の「相違」を論じているのであって、
決して「優劣」を論じているわけではないことに御注意ください。



3 通常シフトの異物感

五十音の全てを1キーで入力できるならシフトキーは必要ないですが、
日本語入力ではキーが足りないのでシフトキーを併用することになります。

  同時打鍵方式  シフトキーと「同時に」文字キーを押す
  通常シフト方式 シフトキーを「押してから」文字キーを押す

両者のキー入力を極めて主観的な数字で表現すれば、
同時打鍵が「1の連続」であるのに対し、
通常シフトは「1と1の間に0.2か0.3が不規則に挟まる」と感じました。
(通常シフトは訓練で0.1まで縮めることができるものの、
 誤入力が頻発するので、実用上の限界は0.2か0.3だと思いました)

同時打鍵に慣れた私にとっては、
通常シフトは次の如く感じられました。(超てきとー図示)

  同時打鍵入力  ■■■■■■■■■■■■■■■
  通常シフト入力 ■■.■■■.■■.■.■■■■.■■■

この「異物感」が私の脳が感じた通常シフトへの違和感だったようです。



4 同時打鍵のリズム感

通常シフトの異物感の内容を更に洗い出すために、
個人的に感じた同時打鍵と通常シフトの感覚的な違いを書き出します。

  同時打鍵  → 単押しとシフト併用のリズムに差が無い
  通常シフト → 単押しとシフト併用のリズムに差が有る

  同時打鍵  → 1アクションの連続
  通常シフト → 1アクションと非1アクションの混在

  同時打鍵  → リズムが一定している    → リズムに乗り易い
  通常シフト → リズムが不規則に変化する  → リズムに乗りにくい

結果、「通常シフトは頻繁なリズムの変化により、『集中力の瞬間的な途絶』
が起きているのではないか?」との仮説を立てました。

近年の脳生理学では「人間の脳はマルチタスク(並列処理)に向いていない」
ということが徐々に明らかになって来たそうです。
マルチタスクをこなしているように見えても、
実際には「複数のシングルタスクを頻繁に切り替えているだけ」らしいです。
だからマルチタスクは脳に負担をかける割合が高く、
シングルタスクに比べて集中力や効率が落ちる傾向があるとのことです。

  同時打鍵  → シングルタスク的
  通常シフト → マルチタスク的

リズムが頻繁に変化する通常シフトで集中力の途絶が起き易いと仮定すれば、
逆に「同時打鍵は集中力が持続し易いのではないか?」との仮説を立てました。
リズムが一定している方が、集中やリラックスに誘導し易いようなものです。
(俗的には振り子を使う催眠術のイメージが分かり易いです)

そして「指が喋る」の感覚と「集中力」との関係に注目するようになりました。



5 超集中

スポーツの分野では普段より格段に集中力が高まった状態を、
「ゾーン(超集中)に入る」と言うそうです。
またスポーツでは反復訓練によって、
「思考よりも先に」体が動くようになることを反射と言い、
「反射的な行動を持続的にできる状態」をゾーンとする見解があるらしいです。

文字入力も究極的には同じバターンの繰り返し作業なので、
「結果的に反復訓練になっている」という側面があると思います。
その積み重ねの先に「考える前に指が動く」という反射的な反応が起き、
それが「指が喋り出す」という状態ではないでしょうか。

だから定型文の繰り返しが多い記者などの方が、
作家よりも「指が喋り易い」はずです。

またスポーツでは肉体的な反射をいちいち言語化しませんが、
文章入力は思考を言語化するので、
思考と反射の「時間差」を認識し易く、
そのズレを「指が頭より先に動く」と感じてしまうのではないでしょうか。

だから脳内発声がある人ほど「指が喋る」を体験し易いはずです。



6 指が喋り出す感覚の正体

結論を言えば、親指シフトの「指が喋り出す感覚」の正体は、
「集中力が高まって反射的な反応が持続する状態」のことであり、
スポーツ選手がゾーンに入った状態と本質的に同じではないでしょうか。

その状態に入り易くするのが、集中力の瞬間的な途絶が起きにくく、
一定のリズムの連続時間が長い「同時打鍵方式」ではないか、と推測しました。

つまり親指シフトの「指が喋る感覚」は同時打鍵入力方式に由来していて、
配列は「ガワ」(表層)に過ぎないと考えられます。

故に親指シフトの謳い文句である「指が喋り出す」は、
同時打鍵方式に依拠する部分が極めて大きく、
「指が喋る感覚は親指シフト配列とは関係ない」と思われるのです。
同時打鍵なら大半の配列は「指が喋り出す」まで行けるのではないでしょうか。

親指シフト配列に指が喋り出すことの秘密はないと思います。
むしろ「同時打鍵方式のポテンシャルを親指シフト配列が
引き出しきれていないのではないか」という疑念すら浮かびます。



7 問題が見えにくい背景

「親指シフトは指が喋り出す」という謳い文句は、
本来は別物である同時打鍵方式と親指シフト配列を無自覚に混同し、
不可分の一体であるかの如く喧伝したものではないでしょうか。

親指シフトを使う人間ですら混同したままなので、
親指シフトを知らない人間が混同に気づくはずもありません。
親指シフトがローマ字入力やJISかな入力より優れていることが、
この問題を更にややこしくしているように見えます。

独自配列はマイナーな分野で使う人が少なく、
複数の配列や複数の入力方式を試す人は更に少ない上に、
「実用レベルまで鍛えてから判断する」という人はもっと少ないでしょう。

また配列や入力方式は個人の感覚に依拠する部分が大きく、
自分の感覚を言語化して発表する人は殆ど居ません。
絶対数が少な過ぎて感覚に由来する話を展開できる場がないことが、
配列に関する色々な問題を見えにくくしているように見受けられます。

私も親指シフトから薙刀式に乗り換え、
たまたまDvorakJ版で通常シフト入力を使う状況にならなければ、
今回投稿した内容は生涯考えることはなかったでしょう。



8 気にしない

上記の内容は二十年も同時打鍵に慣れ親しんだ人間の個人的な感覚なので、
他の人の参考にはならないかもしれません。

また「同時打鍵でなければ指が喋らない」というわけでもありません。
「同時打鍵方式は超集中に『比較的』入り易いのではないか」という話であり、
通常シフトでも指が喋る人は大勢居るでしょう。そういった意味では、
同時打鍵は初心者や不器用な人向けとすら言えるかもしれません。

それに超集中の状態に意識して入ることは難しいですし、
入ることができたとしても大半の人間はさほど持続しません。
スポーツをする人間でもゾーンに入った経験がない人は珍しくないですし、
入れたとしても一瞬だけの人の方が圧倒的に多いです。

だから「指が喋り出す」の謳い文句は、現実的には一部の人のものであり、
衆目を集めるのに有効であっても、実用上の利点は決して大きくないので、



「指が喋るかどうかなんて気にしない」という態度が一番良いと思います。



『親指シフトの「指が喋り出す感覚」の正体』(完)



◆◆◆



前回の投稿を含めて色々と書いて来ましたが、
配列関連で私に書けるのはこのくらいのようなので、
投稿は今回で一区切りにします。

私の投稿が何かの形で大岡さんや皆さんの役に立つことを願っています。
長々とした文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。
Posted by ヨシアキ at 2021年07月18日 22:14
>ヨシアキさん

なるほど、興味深い文章ありがとうございました。
同リズムで打っていけることと関係が深い、
というのが興味深かったです。

僕は逆に「原稿用紙一マスを一拍子として数えていない」感覚があります。意味の単位や文節の単位だろうと思います。
薙刀式の通常シフト方式は、
その単位でのリズムが一定になるようにつくっている可能性があるなあ、と読んでて思いました。
一音単位での指がしゃべるよりも、
その先の単位でのリズム、という感じ。
だから一音単位でのリズムはそんなに気にしていない可能性があるなあと自分で思った次第です。

脳内発声のありなしで、ずいぶんと「しゃべる」という感覚は変わるでしょうね。なにせ僕は脳内でしゃべっていないので……。

自動書記というか、指に書かされている感覚というのは、
同じリズムがもたらす魔法なのかもしれないですね。
Posted by おおおかとしひこ at 2021年07月18日 23:05
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