たとえば、
「塩ラーメンと味噌ラーメンどっちがいいか」ということと、
「そばとうどんはどっちがいいか」ということは全然違う話である。
しかしリライトの時、頻繁にこのようなリライトになることがよくある。
なぜかと言うと、
「対立軸」をいじるからである。
おはなしとは、
「すべての何かに対立軸を発生させて、
それを回収すること」
だと言っても過言ではない。
対立軸というのは、
どちらが価値があるか、でもいいし、
どちらが正しいか、でもいいし、
どちらが勝負に勝つか、でもいいし、
どちらが殺すか、でもいい。
そして多くの場合、これらは複合的になる。
主人公と敵の間に、もっとも大きな対立軸が発生するのは勿論だが、
それぞれの登場人物の間にも、
対立軸が存在することになる。
たとえ味方だとしても、
対比的に異なるのが人間で、
対立しなかったとしても、そのコントラストが何かを象徴することは、
とても良くあることだ。
逆に、対立軸のないものを想像しよう。
全員同じである。
対立は発生しないので、
温かいお湯につかったまま、ずっとそのままである。
全てが一つに溶け合った、ひとつの理想郷だ。
それはつまり、おはなしが発生しないのだ。
おはなしとはつまり、
「異なる部分に対立軸が現れる」ことに他ならない。
もめごと、コンフリクト、バトル、殺し合い、勝負、
などなど、いろいろな言葉でこれは呼ばれる。
さて、
リライトの時に、
対立軸の変更が稀に良くある。
AとBの対立軸を変えて、AとCの対立軸にしようとか、
こちらの対立軸をより強めようとかは、
良くある変更のひとつである。
あるいは、AとBの対立軸は変えずに、
対立する理由を微変更することのほうが、
多いかも知れない。
あるいは、新しい対立軸を加えたり、
ある対立軸をカットすることも良くあるだろう。
このとき、
もともと「塩ラーメンと味噌ラーメンどっちがいいか」
と言う話だったのに、変更後、
「そばとうどんはどっちがいいか」
と言う話になっていることは、
とても良くあることだ。
なんなら、
「麺類とご飯類はどっちがいいか」
「アメリカと日本はどっちがいいか」
みたいに、別物になっていくことも、良くある。
とくにメインコンフリクトに手を入れると、
このようなことがよく起こる。
サブコンフリクトに手を入れた時、
七味を振っただけのつもりが、
マヨネーズくらい味を変えてしまうこともよくある。
あなたは、
その対立軸の変更によって、
どのようなものに変わったか、正確に捉えなければならない。
(そして大抵の場合、
「こうしたつもり」と、「こうできあがった」の間には、
かなりのひらきがある。これを覚悟しておくこと)
そして、
「そもそもどんな話を書きたかったのか」
「それを変更してこのような話に変えてしまうことは是が非か」
を、自ら問わなければならない。
塩ラーメンvs味噌ラーメンの話を書きたかったのだが、
そもそも麺類全般の話にしたかったのなら、
そのように対立軸を変更することは悪くない。
しかしうどんそば論争に参加せず、
塩vs味噌に絞るのなら、その変更は誤りである。
醤油や豚骨を論争に参加させるかどうかは、
また別の選択肢になるわけだ。
そして「書きたかったこと」とはまた別の評価軸にあるのが、
「それが面白いか」なのだ。
あなたが書きたかったとしても、
面白くない出来のものもあれば、面白いものもある。
あなたが書きたくなかったとしても、
面白くないものもあれば、面白いのもある。
書きたくて面白いのが気持ちいいが、
そんなのは観客には関係がない。
面白いものがよいのである。
だから、あなたの仕事は、
対立軸を変更することによって、
より面白くすることだけである。
塩vs味噌の局地戦の方がうどんそば論争より面白いなら、
その対立軸を守るべきだし、
うどんそば論争の方が面白くなるなら、
塩味噌の対立軸を変更するべきなのだ。
その「どちらが面白いか」を冷静に判断できるかが、
リライトのときに最も大事なことである。
それが出来ないのなら、あなたが気持ちいいかどうかで、
筆を進めてしまう危険に陥るのだ。
そして、さらに厄介なのは、
せっかくうどんそば論争に変更したのに、
部分部分に塩味噌の残骸が残っていることである。
それに気づかないままリライトを終えると、
一気通貫性が失われ、作品として立場がわからなくなるものになりがちだ。
さらに厄介なのは、
何回も対立軸の変更をしてしまい、
何種もの残骸が放置されることである。
こうなったらリライトの失敗で、
なにを対立軸にしているかが、
まるで分からなくなってしまう。
だったら素直な初手でいいや、
となるのがそもそもリライトの失敗だ。
こうした判断力やカンは、
沢山の経験を積むことでしか得られない。
初手の対立軸が最高に面白いという確率は低い。
リライトで話を面白くすることの方が、
実際には多い。
この話は○○の対立軸である。
△△という対立軸にしたらどう?
面白くなるかな。
そういう風な目で、リライトをしてみよう。
2021年05月16日
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