2021年05月16日

【薙刀式】3Dプロファイルの描く理想

先に理想を書いておく。
そこに近づいているのだということで。
(もっとも、新しい知見が出てきたら変更の可能性があるが)


なぜ3Dか?
という問いにはシンプルに答えられる。
「人の手は平面ではないから」だ。

手や指は立体的についていて、立体的に動くように出来ている。
そもそも自然に平面に5指をつける状況はなく、
平面のキーボードを打ちやすいように進化してきたとは思いがたい。

にも関わらず、
主に量産の都合や、ものごとの整理の観点
(ピアノは音を12音階に「整理する」ために平面である。
それを模したキーボードも、
文字を「ひとつひとつに分解整理する」ための平面だ)
という生産側の都合で、キーボードは平面となった。
この齟齬を取り戻すには、
キーボードが立体に「戻る」べきだと思う。

理想とするものは、
「手指の軌道を合成した凸型と、噛み合う凹型」
だろう。
手指の軌道を合成した立体と、キーボード面を足したら完全立体になる
(隙間がない)ものがいいと思われる。
とはいえ、
すべてのキーと運指を等価に扱うわけではない。
合理的な新配列、ここでは薙刀式を使っているならば、
弱い小指や薬指の使用頻度は少ないし、
悪運指は少なく、良運指が多いから、
そこを重点的に優先すれば、実用には足る。

これまで約一年、
何十もの試作を行い、評価してきた中で、
法則のようなものがわかってきたので、
これを記すことにする。

主に三つの領域にわかれる。

1. 親指キー
2. 4指のキー3段
3. 人差し指伸ばしキー

小指伸ばしキー、親指キーの2番3番に関しては、
開発の外だ。それをなくすことで、32キーに特化したのが、
以下のものである。
これがそれ以上のキー数にも接続可能かは、未検証。


以下の議論をわかりやすくするため、
キーボードを打鍵姿勢で正面に見たとき、
横方向をx軸、鉛直方向をz軸、テーブルの手前奥をy軸とする。


1. 親指キー

親指は4指と異なる角度についている。
ここが3Dの出発点だ。

従来のキーボードでも、
最下段キーを逆づけする、つまりx軸方向に回転させることは、
試みられてきたことだ。
しかし親指の正面でなく、側面の骨部分で打鍵することに変わりはない。
親指の真ん中、指紋の中央で打鍵するべきだ。

これを実現するには、y軸に回転させるしかない。
平面PCBで、z軸回転したものが自作キーボードなどにあるが、
だとしても親指の側面で打鍵することに変わりなく、
y軸回転がなければ無理だ。
ということで、親指キーは3軸回転するべきだ。

どの軸にどれくらいの回転角を取るべきか?
打鍵姿勢、打ち方、キーボードの置き方に、
かなりの影響をうける。
指先で打つのか、腹の指紋部分で打つのか、
伸ばしたまま打つのか、アーチを作ったまま打つのか、
テントの角度、チルトの角度、
パームレストの有無などに影響を受ける。

僕は、
パームレストなし、左右分離ややハノ字置き、
軽く曲げた状態で接触し、
「掴むように打つ」「指先で打つ」「腹でこするように打つ(撫で打ち)」
で打っているため、それに合わせた。
これまでは「手を大きめに開いた状態」合わせにしていたが、
今回の試作で「手を開いた状態と、すぼめた状態」
の両方に対応する位置へと変更した。


2. 4指のキー3段


yz平面で、トップ面はカーブを描くべきだ。

これは「シリンドリカルスカルプチャ」として、
早くから知られていたやり方だ。
チェリープロファイルをはじめ、OEM、MDA、SAなどに採用されている。
ざっくりいうと、中段キーに対して、
上段キーを上り坂、下段キーを下り坂にするわけだ。
どれくらいの比率にするべきかは様々な考え方がある。
また、チルトするなら全体をx軸回転させたり、
逆チルトなら逆方向にx軸回転させる必要がある。

サドルプロファイルでは、
下段は指を縮めて打ち、上段は指を伸ばして滑らせるように打つと考えて、
上中段の角度差<<中下段の角度差になるよう調整してある。
これは、逆チルトメインのために差が顕著になっている。


同様に古くから行われてきたもうひとつの工夫に、
「ステップスカルプチャ」がある。
キーのトップ面同士を滑らかに繋げるのではなく、
わざと段差を設ける方法だ。

指はキーのトップ面より複雑な軌道を取る。
指を縮める際に、接続面より外に「はみでる」ことがよくある。
だから、単になめらかに面をつなげるよりも、
段差をわざとつけたほうがぶつからずに打鍵できる。

ちなみに、
チェリープロファイルでは上段と中段の間にステップがあり、
Lime40、サドルプロファイルでは、中段と下段の間にステップがある。
HHKBでは両方ともにある。

サドルプロファイルでは、
上段は中段から指を伸ばすようにするから面を繋げるべき、
下段は中段から指を縮めるように打つからぶつからないようにステップを設けるべき、
と考えている。
また、この段差は指の関節の長さによって異なるので、
サドルプロファイルでは、中指のステップ>薬指>人差し指≒小指
になるように調整してある。

「指は長さも各関節の長さも異なるし、
動作可能角度も違うから、別の曲線を描く」
と考えたため、
それぞれのステップ、シリンドリカル具合は異なっている。
とくに、長い指である中指、薬指は、
上中下段ごとx軸回転させて奥に倒して、伸ばした角度を確保してあり、
逆に短い人差し指小指は、x軸で手前に倒している。
(このアイデアはDactyl系でも実現しているように思う。
触ったことがないので、写真からの判断だが)


次に本命のxz面だ。


まず自作キーボードで行われてきたものに、
左右分割キーボードでのテンティングがある。

掌を自然に机におくと、
小指側が机についていても、
親指側は浮く。
つまり水平ではなく、やや外旋した状態が自然だ。
テンティングはこれに合わせて、
キーボードの中央部を盛り上げる方法だ。

だがそれだけではまだ自然でないから、3Dの必要性があるのだ。

これまでの伝統的3D、
キネシスやDactyl、Closseumなどでは、
指の長さに合わせたお椀型(凹型)を採用してきた。

これは、中指が長いから一番深くして、
指の長さに合わせて各キーを沈み込ませる手法である。

だがこれは、突き刺し系の打ち方にはよいが、
撫で打ちしづらい。
僕は撫で打ち派なので、
「撫で打ちに適した3D」がそもそも開発の動機だった。

撫でて打つもっとも合理な面は凸型、
球を撫でるような形である。
そもそも指は掌を包むように曲がるからである。

だからサドルプロファイルでは、
xz面で球を描く凸型をしている。
プラステンティングもかかっていて、
人差し指が水平なので、小指は約45度ほど傾く勢いだ。
「自然に持つという動作は球を持つ」
という考えに基づき、角度が調整されている。

また、中段に対して、
下段は指を縮めるためよりRの小さい球、
上段は指を伸ばすためよりRの大きい球、
になるよう調整されている。


最後は、指の当たる角度だ。

掌の中心に対して、指の中心の向きは親指側に回転してついている。
腕立て伏せをしたとき、指の中心は鉛直下床に向くのではなく、
やや内側を向いているはずだ。
この角度に、トップ面を傾けている。

単なる「球にディンプルがついている」形ではない。

この角度で中段を構えたとき、
上段はy軸で外にひねられる角度に伸びる。
下段も外にひねられる角度になる。
Willow配列は、そのカーブの形に平面で並べた自作キーボードだが、
サドルプロファイルではそれが立体で表現されている。


これらの複合的な要素の、
どれを強調してどれを引っ込ませるか、
について、長いこと微調整を重ねてきたわけだ。



3. 人差し指伸ばしキー


伸ばし位置の三つのキーは、
ホーム段からの移動を考えれば良い4指とは異なる領域だ。
手首の回転と指伸ばしを伴うからである。

二つ考え方があり、
「球の延長になるように凸」
「指の伸ばしが届きやすいように凹」
だ。

Lime40は凹の考え方だ。
またぜろけーさんやyfukuさんの3Dキーキャップでも、
この考え方、つまり従来のお椀型を踏襲している。

ただ僕は撫で打ち派なので、
「伸ばした指にブレーキがかけられる」感じが気に食わなかった。
突き指して止まる感じが不快で、
撫でた力がキーボードで止まらず、
横へ逃げて力が0にならない方法を考えた。
それが、「球の延長」だ。

右手で言えば、Yに返しをつくるかどうか、
という話だ。
物理的には実は返しがあるのだが、
手の軌道的には返しで突き指で止まるのではなく、
指が抜けるような、主観的には球の続きになるように、
今回は調整した。

また、人差し指伸ばしから、
中指薬指小指のキーへと連接する時、
手首を回転させながら打つことがとても多い。
(薙刀式でいえば、「たい」「くれ」「らく」など)

この時y方向の力と手首回転の合成の軌道になるため、
指がねじられることがよくある。
これを避けるような球面にすることに、
今回の調整は時間をかけている。



また、開発は格子配列のMiniAxeでやっているため、
コラムスタッガードやロウスタッガード、
その他特殊配列(TreadStone、Willow、uzu、Zink)などに、
対応しているかは未検証。

とりあえずこれらの法則があることがわかってきたので、
あとは具体的なパラメータ決定という名の調節を、
延々とやってる感じだ。


3D配列に関する知見は、
お椀型以外蓄積されていない。
精々ゆかりさんのLime40だろう。
以前たくさん喋ったときも、
双方で同じところや異なるところがあったが、
打ち方の前提やスタイルの差もあることも分かったので、
それからどう進展したか、
またどこかで議論したいものである。


ということで、とりあえず僕はいまここまで来た。

ここから新たな知見が加わるのか、
単にパラメータ調整で煮詰めるのかは、
これから次第だ。
posted by おおおかとしひこ at 20:30| Comment(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。