Gateron Ink Yellowベースの改造スイッチ。
今の僕のエンドゲーム。
ベースとバネの名前をとって、
(Gateron Ink Yellow+Durockスロースプリング55g)
「イエロー55」という名前にした。
ベースにInk Yellowを選んだ理由は、
・なめらか
・直進性が高い
・スピードスイッチ(最重要)
だ。
スピードスイッチは特に重要で、
リニアだと他には、
Speed Silver(Kailh、Cherry)と、
Kailh Pro Burgundy、Durock L(1〜7)
くらいしかない。
一行目のスイッチは滑らか性、直進性に劣り、
二行目のスイッチは接点までの距離がInk Yellowに比べてやや遠い。
「打った瞬間応えてくれる感覚」にはならないため、
いいスイッチなのだが今回は見送った。
特にDurock L1は、スピード性能以外はすべてInk Yellowを上回る。
以下の改造レシピはそのままL1にも使えるので、
そこまでスピード性にこだわらなければ他のスイッチにも使えるアイデア。
(おすすめは、Everglide Aqua King、MMK Frogなど)
スイッチの心臓部、バネは、
Durock 55g(スロースプリング)に交換する。
これはL1の中のものと同じやつで、
55gはボトム(4mmのボトム時)で、
2mmのアクチュエーションだと30〜35gに感じる。
ベースのInk Yellowのトラベリングが3.4mmと短く、
これを2.9mmに改造するため、
実質ボトムは40gくらいに感じるかな。
(アクチュエーションは公称値がないが、
体感1.5mmくらい。そのときで25gくらいに感じる。
つまり、20g-25g-45gくらいのバネとして使う)
ストロークが3mmを切る非常に短いものになるので、
撫で打ちでタララララと打てるのが、
このイエロー55の爽快さの特徴だ。
これは他の4mmトラベリングでは不可能である。
軽すぎるバネは底打ちで指を痛めるため、
中にシリコンシート0.5mmを仕込む。
これによって、
軽く(そもそもの押下圧が軽いことと、
スロースプリングなので始動圧からボトムまでの差が小さく、
リニアバネよりも軽く感じること)、
底打ちがクニってする感じ(サイレントステムのゴツ、よりも圧倒的に柔らかい)、
かつフルストロークが2.9mmに縮まる、
直進性の高いスイッチが出来上がる。
これまで使ってきた底のクッションは柔らかめのエラストマー樹脂であったが、
スピードスイッチだとストロークに影響が大きく、
小さくするとクッション性がなくなるため、
より硬質なシリコンシートを使ってみた。
ルブはKrytox 105を使う。
定番の205g0はバターにナイフを入れるような感覚になるが、
これは粘性が高いと僕は思う。
フッ素系の105だと、
テフロン加工をしたような、表面を弾くような感じの滑らかさになり、
ヌルヌルというよりはスベスベに近くなり、
ストロークが浅い今回のスイッチに向いてると思う。
(おそらく、話題のEverglide Aqua Kingとか、MMK Frogは、
205ではなく105系のファクトリールブに見える)
単純にInk YellowにDurock 55gを入れてみて、
なかなか面白い挙動だなと感じたら、
以下のレシピを試してみて欲しい。
全体的な印象は「電光石火」。
とくにアルペジオや連続的に長い言葉を打つときに、
タララララと打てる軽さ、素早さがある。
ここまで軽いバネだと底打ちでダメージが来るのに、
強めに打ってもシリコンシートが吸収して、
適度に跳ね返してくる。
しかも直進性が高く、クリアな打鍵感。
ふつうクリアだと底打ちがシビアなのだが、
これはいい感じでクリアなまま柔らかく跳ね返るバランスだ。
では以下に、レシピと作り方を写真付きで詳しく。
《イエロー55のレシピ》
【材料】
Gateron Ink Yellow(遊舎、ゆかりファクトリーで購入可)
Durock 55gスプリング(talpkeyboardで購入可能)
Krytox 105、ルブセット(マイクロアプリケーター、チャック付きバッグ。このへんも遊舎で揃うよ)
シリコンシート0.5mm(たとえばhttps://www.monotaro.com/g/02944525/?t.q=%83V%83%8A%83R%83%93%83V%81%5B%83g%81%400.5mm)
コニシボンド靴ピタ(https://www.amazon.co.jp/ボンド-くつピタ-靴用接着剤-10ml-04923/dp/B01M5DAFPD)
セメダインスーパーシール(https://www.cemedine.co.jp/home/repair/exterior/superseal.html)
以下は変荷重用のバネ
Sprit Progressive スプリング72P(遊舎で購入可能。DFJKキー用)
Sprit MX 30S(遊舎で。親指用)
【工具】
精密用ピンセット、ハサミ、カッター、
爪楊枝、ティッシュ
卓上ランプ(横から照らせるもの)
【つくりかた概要】
1. ボトムハウジングの中敷きにシリコンシートを貼る。(底打ちを柔らかく、静音化)
2. ボトムハウジングの噛み合わせ面に粘着剤を固める。(ぐらつき防止)
3. トップハウジングのステム両肩が当たる部分にゴムを塗布。(戻りの静音化)
4. ルブ(なめらかに)
5. バネを交換
【つくりかた詳細】
0. スイッチを開ける
ピンセットを爪部分に突っ込んでテコで開ける。
オープナーがなくても慣れればいけるよ。
半ばまで開けて、反対側も同様にして、
あとはまっすぐ開ければ、中からバネが飛び出さない。
もともと入ってるバネ(アクチュエーション60gの重め)は、
もう必要ないので、捨てるか、取っておくか。
取っておくとき、僕はスイッチが入ってる袋に入れて、
「このスイッチのバネ」と分かるようにしている。
以下の行程はとてもめんどくさいので、
慣れてても一晩10個が限界。
最初は2〜3個をつくり、「いけるやん」とわかってから、
量産(一日5〜10個)していくことを勧める。
そもそもこのレシピが自分に合ってるかどうかは、
2〜3個作ってみないと分からないし。
ちなみに量産するときは、
トップハウジング+ステムを裏返しにしておくと、
あとで作業しやすいです。
1. ボトムハウジングの中敷きにシリコンシートを貼る。(底打ちを柔らかく、静音化)
ボトムハウジングに二つの改造を行う。
中敷きの部分にシリコンシートを貼り、底打ちを柔らかくすることと、
ハウジングのかみ合わせ面に柔らかい接着剤を固めて、
スイッチフィルムのようにすることだ。
まずはシリコンシートから。
シリコンシートをハサミで切る。
大きさの目安はこれくらい。
幅2mm、長さ8mm程度。(マットのマス目は一個5mm)
シリコンシートは自己粘着性があり、
保護フィルムが表裏についている。
この時点でそれをはがす。
どうしても指紋の油がついちゃうけど仕方ない。
ちなみに保護フィルムは静電気で指や工具につきまくるので、
適宜山にしてよけておくこと。
集まったらまとめてマステでぐるぐる巻きにしてしまう。
これをカッターで二つに切る。
最初からこの大きさにカッターで切るのは結構難しい。
小さいので抑えることが難しく、
どうしても斜めに行ってしまう。
なのでハサミ→フィルム剥がし→カッターの三工程にした。
器用な人なら一発でできるかも?
これをボトムハウジングの、中敷き部分に貼る。
粘着性がある接着剤、
靴ピタ(本来の用途は革靴補修剤で、シリル化ウレタン樹脂接着剤)を使用。
仕上がりが透明なのと、
乾くとゴム的に柔らかくなるので採用。
あとでぐらつき防止加工にも使う、柔軟性の高い接着剤。
革靴のパーツくっつけるのに使うから、動くものに強い粘りがある。
治具をひとつ作ってください。
爪楊枝の先をマイナスドライバーみたいに削り、
小さなヘラをつくる。
先端は1mm幅くらいが作業しやすい。
このヘラで、接着剤の口から直接掬って、
中敷き部分に塗布。
掬う量の目処はこんなくらい。
中敷きに塗布された状態。
モノが透明なので、うまく塗られたか目視しづらい。
卓上ランプ(なんでもいい)をつけて、
真横から光を当てて、ちらちら回転させると、
ツヤや陰で立体感がわかりやすい。
この写真でも中敷き部分が透明接着剤が塗られたことがわかるかと。
ここにシリコンシートをピンセットで貼る。
シリコンの自己粘着力で側面に貼り付いたりするので、
息を止めて丁寧に底にピタリと貼ること。
一回底につけば、あとは平面上で動かしても大丈夫なので、
いい位置にずらそう。
ステムの底が当たる場所を意識して、そこにシリコンがあるように。
また、四隅などが浮いてしまうと、
のちのち中でシリコンが剥がれてしまうおそれがある。
横から見て浮いてないか確認。
失敗例がこちら。
あと、この靴ピタなる接着剤は、
空気中の水分と反応して固まるらしい。
なので爪楊枝に移したあとはまめにキャップをしめておこう。
作業がもたつくと、
爪楊枝についたやつの表面に膜ができてしまうこともあるくらい早いので、
作業は迷いなく手早くやりたい。
一回ごとにティッシュで拭うこと。
また、接着剤側がダマになって固まりやすいので、
時々ほじくって出口をクリアにしておこう。
この靴ピタは次も使う。
2. ボトムハウジングの噛み合わせ面に粘着剤を固める。(ぐらつき防止)
スイッチフィルムの代わりに、靴ピタでコーティングするイメージ。
スイッチは、一回開けると、トップとボトムの噛み合いが変わるのか、
ステムがぐらつきやすくなることが稀によくある。
シビアに調整してあるステムほど、ガバガバになってしまう。
とくにDurock系(アルパカ、L1など)は工場出荷状態ではごきげんな直進性なのだが、
改造のためにあけるとぐらぐらになってしまう。
これを防ぐため、スイッチフィルムというものが使われる。
ハウジングの上下の噛み合わせ部に挟むプラスチックフィルムで、
噛み合いをがっちり止めやすくするためのクッションだ。
だがビジュアル的にちょっとはみだす残念なデザインで、
しかも二度開け三度開けの時にポロポロ取れるので、
けっこうめんどくさい。
「フィルムを挟む代わりに、噛み合い面に粘着性の高い、
柔らかい接着剤をコーティングすればいいのでは?」
というアイデアが、靴ピタによるぐらつき防止だ。
たとえば木工ボンドでもいいと思うが、
靴ピタは乾くとかなり柔らかいゴム状になるので、オススメの接着剤。
なお乾く前に閉めてしまうと二度と開かなくなるので、
ボトムハウジングに塗布したあとは、完全乾燥するまで待つ時間が必要。(数時間)
やり方は先ほどの治具で、
ボトムハウジングの噛み合い面に塗るだけ。
噛みあう面が濡れていることが分かるかと。
これも横からの光を当てながら、
透明物体を確認しながら作業すると良い。
この状態で放置、靴ピタ乾燥まで数時間。
トップハウジングに移ろう。
3. トップハウジングのステム両肩が当たる部分にゴムを塗布。(戻りの静音化)
シリコンシートによって、
ボトムの感触は柔らかくなり、
静音化も同時に出来てしまう。
このままでもいいんだが、
戻りの時にうるさく感じるので、
トップハウジングにゴムを塗り、静音化する。
タイルの目地材に使われるゴムを使う。
これを使う理由は色がついているから。
もちろん、前の靴ピタでもできるし、
実はそのほうが静音効果が高いのだが、
透明なので、ステムの通り道にはみ出すと気づかず、
摩擦になってしまう事故が大変多い。
(そしてステムの通り道だけ剥がそうとすると、
全部剥がれてしまって一からやりなおし)
このゴムだとはみ出しに気づきやすく、
また硬化後に、はみ出した部分だけ削りやすいので、
こちらを推奨する。
やり方は先ほどのヘラで、
ステムの両肩が当たる部分に塗布するのみ。
また、ヒゲが出やすいので注意。
それが側面についてしまう事故もある。
これが固まるとステムの通りの邪魔になるので、
上から見てはみ出しているところは、別の爪楊枝で拭うとよい。
理想的なのはこんな感じにつくこと。
これを2箇所やっておく。
乾燥は24時間と説明書にはあるが、
タイルの分厚さの時間だろう。
数時間で安定する。
僕は大体ここまで夜にやって、寝て、
朝起きたときに硬化を確認して続きをやる。
朝硬化を確認する。
ゴムが縮んで固まるため、
境界線が薄いはみ出しになることが多い。
ここにステムが挟まり摩擦になるので、
これを爪楊枝で慎重に取ってゆく。
やり方は爪楊枝を立てて、薄いゴムを切るようにすると良い。
靴ピタだとこの確認と剥がしが大変難しいので、
こちらのゴムを使う。
静音性もそこそこなんだけどね。
4. ルブ(なめらかに)
さあ作業後半だ。ルブるぞ。
Krytox 105は粘性が低い、液体状の油だ。
なので205g0のように裏蓋に盛り、などのような作業ができない。
僕はチャック袋を使い、バッグルブ(バネなどをここに入れて油になじませる)
的にやる。
袋の中に油を一滴垂らし、そこにマイクロアプリケーターを突っ込んで、
油を染みさせる感じ。一回濡らして2〜3個はルブするイメージ。
トップから。
静音化したゴム部分(音を下げる)と、ステムが擦れる側面部に。
ステム。
まず側面のレールにあたる部分を。
トップハウジング(ゴム部)に当たるところ、
ボトムハウジング(シリコンシート)に当たるところも。
そしてBoxタイプのステムのルブのコツだけど、
四角柱の角をルブるのはオススメ。
横方向の力がかかったとき、角がハウジングに当たることが多く、
ここがサラサラしてると滑りが良くなるよ。
側面と上面をルブしたら、
このようにトップハウジングごと逆さに置いとくと事故がない。
これでステムの底面、ステム棒の下をルブする。
今回気づいたんだけど、
Ink Yellowは、v1とv2があって、
v1はステム棒の下が平面で切られてて、
v2は丸くなってるっぽい。
v2のほうがより滑りがいいわけだね。
ボトム。
まずはステムが接触する、この大事なレール部分を。
次にステム棒が入る穴の中を。底部、入り口近辺も。
5. バネを交換
逆さにしたトップハウジング+ステムの上にバネをセットして、
これを持ち上げてボトムハウジングと合わせるのが事故がない。
バネがビヨーンって飛んでったり、
ステムがポロッと落ちてルブが台無しになる事故を防げるぞ!
ちなみに、
変荷重セッティングで僕は使っていて、
薙刀式でよく使うDFJKの4キーのみ、
72Pプログレッシブスプリングで重くして、
親指キーは逆に軽めのMX30s(アクチュエーション20g)を使っている。
完成!
黄色が強いので、その他のパーツとの色合わせがめっちゃムズイ。
ミッドプレートの色変えようかな…
ちなみに親指2と3はMMK Frogです。
なかなか根気がいりそうですが、仕上がりが楽しみです。
2〜3個作ってみて作業に慣れることをおすすめします。
一回開けるとハウジングの噛み合いが緩くなるのは、
どのスイッチでも一緒ですが、
boxタイプなので影響は小さく、
それが試行錯誤をやりやすくしてますね。
最近色々また別のスイッチをいじってるんですが、
今のところこれを超えてないです。
これ以上滑らかなのはeverglideのトルマリンとMMK Frogぐらいしかないんじゃないかと。(トルマリンはグラつきが、Frogはアクチュエーションが深いのが気になり)
結構な時間がかかりましたが、打鍵感はとてもよく気にいっています。
これを超えるレシピはなかなかなさそうですね。
いつも良いレシピを公開してくださりありがとうございます。
今までのマシュマロの感触も忘れ難いですが、シリコンシートは厚さが均等になるのはとても有効だと思いました。
最近は親指キー周辺にスピード系のスイッチを改造したものをいくつか試しています。
キーキャップは薙刀式のキャップの坂の上下がなかなか定まらず迷走しており、場所によって高さを変えるともしかすると良いのかも?というところです。
スイッチ構造やバネの強さによって、
同じエラストマーやシリコンシートを入れても、
しっくり来ないことがあるのが難しいところですね。
シリコンシート改造は、
Aqua King、Tourmaline、Frogなどにやってみたものの、
今ひとつしっくり来てない感じです。
トップハウジングをゴムにせずに、
シリコンシートを貼る、というやつも試してますが、
面積が細すぎて安定しないですね…
高さを変えるステム違いは昔作ってたんですが、
持ち運びは薄い方がいいだろ、と当時考えて、
一番低いやつしかリリースしてないです。
チェリープロファイルあたりと混ぜられるようになってるので、
そういう組み合わせもあり得るかも。