すべてのキーボードの問題は、ここに起因するのではないか。
実際に自分で工作してみればわかるが、
幾何学的なものを作るのは大変簡単だ。
(正確性をそこまで要求されなければ)
木工ならまっすぐ切って90度をつくり、
CADならそもそも幾何学的に正確な図形からスタートする。
量産することを考えれば、
幾何学的な形ほど楽だろう。
ワンオフの型抜きよりも、
応用のきく、従来の型の組み合わせの方がいいだろう。
対故障も考えると、ワンオフは欠けたり潰れたら終わりだし。
人間の脳は、
「複雑な現実が、幾何学的に整理されていると、
気持ち良くなる」
という性質があるように思う。
格子配列キーボード、Planckを初めて見た時の衝撃は、
「キーボードはこんなに整理されるんだ!きもちいい」
だったように思う。
イコンやピクトグラムは、
幾何学的なものほど優秀とされる。
現実をシンボル化することこそが、
ものごとの整理である、
ような直感が我々にはある。
これと、打鍵する指、思考する指が、
幾何学的でないことが、問題のねじれなのかもしれない。
指は幾何学的についていない。
指の長さは違う。関節の長さも違う。
掌は水平についていない。
掌を水平にすると、指の正面は内側斜めを向く。
それぞれの指の中心から法線を出すと、
球を掴む形でまじわる。
指関節は、第三〜第一関節へ至るにつれ、徐々にねじれている。
垂直に指を落としたり、撫で打ちしたり、
運動曲線も一致しない。
肘や肩は幾何学的な動きをするように見えてそうではない。
内側の筋肉と外側の筋肉は対称ではない。
そもそも内側/外側みたいに対称にはついていない。
(格闘技の関節技はそれを利用する)
これらに合うキーボードが、
幾何学的な形をしているはずがない。
幾何学的な整理をされていないものをグロテスクと呼ぶならば、
キーボードはグロテスクであるべきだ。
キーボードはつまり、幾何学より格闘技に近いべきだ。
ピアノは大量生産の幾何学と、
「音を幾何学的に整理する」というピタゴラス以来の生理的な欲求で、
幾何学にできている。
周波数の倍でオクターブになるし、
倍音を生むように黒鍵などで和音を作るようになっている。
そのハンマー機構を継いだタイプライターは、
中身こそ複雑でグロテスクだが、
ユーザーインターフェースをピアノのように整理した。
物理的には30×4段などのように。
だがqwerty配列は、
幾何学的な整理から逃れ、
グロテスクな論理配列となった。
我々の言語そのもの、思考そのものが幾何学的ではないからだ。
ピアノは、幾何学的な道具で幾何学的な音楽を奏でる道具だ。
だから美しい。
タイプライター、それ由来のキーボードは、
幾何学的な道具で、
幾何学的でないグロテスクな言語を奏でる道具である。
これがピアノとキーボードの違いであると考える。
ピアノの設計思想は、
「世界は幾何学的であるべき」と考える。
キーボードはそのようになっていないくせに、
幾何学的な見た目をしてきた。
だからねじれている。
論理配列、たとえばJIS配列はグロテスクの極みである。
変換キーや無変換キーの場当たり。
そもそもCtrlやAltやWinの場当たり的な場所。
エンターやBSや、小指伸ばしキーの整理されてなさ。
ファンクションキーで幾何学的でないものを収納しようとしたくせに、
引き出しから溢れたかのようなたくさんの機能キー。
この整理されてなさはなんだ。
見た目だけ幾何学的であろうとしたが失敗しました、
というのが現行のキーボードだと僕は思う。
論理配列沼、自作キーボード配列沼は、
この整理の失敗を、
新しい平衡状態に移そうという行為だと僕は総括的に思っている。
思考そのものはグロテスクだ。
それを整理することが「書く」という行為である。
書くことは、幾何学で世界を整理する音楽に近い。
しかしそれを表す言語は、
幾何学的ではない。
法則性はなく、
とくに日本語は膠着語で語順は一定せず、
活用をし、どんどんくっついて細胞分裂のように文は増えていく。
幾何学的でない言語で、
幾何学的でない道具で、
世界を整理する幾何学をしようというのが、
書くという行為であるかも知れない。
それでも、
論理配列には一定の法則があって幾何学的であるべきだろう。
よく使う音は真ん中にあり、マイナーは端だろう。
右手のほうが左手より使うだろう。
左右交互やアルペジオなど、よくある連接は打ちやすいべきだ。
濁音、半濁音、記号類など、
規則性のあるものは規則性があった方が整理できる。
(これまではないが、未然連用など、
活用型に応じた5段配列みたいなのがあってもいいかもだ)
1モーラが1アクションだと気持ちいい。
その「日本語をどう整理するか」の仕方が、
論理配列を特徴づけるのだと思う。
僕は薙刀式という論理配列で、
日本語入力を整理した。
さらに自作キーボードの3Dキーキャップで、
打鍵運動を整理しようとしている。
幾何学的でないグロテスクなものを放置していると、
やろうとすることに過大な負荷がかかるからだ。
どんな道でも、ショートカットする獣道ができる。
論理配列や自作キーボード沼は、
無限にサイクルを回しながら、
獣道をつくって、
グロテスクを整理しなおそうという行為だと思う。
人工言語が流行しないのは、
幾何学的だからじゃないかなあ、などと想像している。
(よく知らないので想像です)
どんなに幾何学的な道を作ったって、
獣道ができると思うんだよね。
その獣道の途中に、我々はいる。
2021年06月28日
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