どういうものが面白いストーリーなのか?
妄想の面白いものが引きがあってよい。
しかしそれではストーリーはまだ半完成品だ。
妄想をヒントにしたストーリーは数多い。
ある日空から美女が降ってきたら?
ナチスが第二次大戦に勝った世界線なら?
このくだらない世界に穴が開いて、もうひとつの世界に行くことができたら?
クビになった会社で、俺がいないから困ってやがるとしたら?
実は病院で赤ちゃんが取り違えていたら?
イケメンばかりの職場に行くことになったら?
最強の能力者だったら?
電車の中の差別主義者を、うまく論破できたら?
この人が実は犯罪者だったら?
色んな妄想を人はする。
物語を書こうという人は、
まず妄想が好きな人だ。
そこから色んな事を膨らませて、
「つづき」をつくっていく。
そうして物語は生まれる。
「つづき」のない妄想は、ただの一点妄想だ。
それにしても需要はある。
「セックスしないと出れない部屋に閉じ込められてしまったら?」
なんてのはシチュエーション妄想であり、
そのシチュエーションをクリアしたらおしまいだ。
よくある「最強能力者だとしたら?」は、
最強能力を披露したらおしまいの、点の妄想である。
点は物語にならない。
「つづき」がなく、それで終わってしまうからだ。
いわばワンシーンであるということだ。
物語は、何シーンも何シーンもつづく。
あるシーンがあり、
それゆえ次のシーンになり、
だから次のシーンになる……
というループで先へ先へ進む。
これを因果関係の鎖とか、展開といったりする。
で。
妄想から出発すると、
大概一発ネタになりがち、
ということだ。
妄想出発のシチュエーションは、
点で終わりがちで、
次の展開へつながらないことがとても多い。
「〇〇になったら?」の妄想は、
「△△でした」で終わってしまうからだ。
そうではなく、
△△でした、次に……、
と続かないと物語にはならない。
新しい妄想を投入してもいいし、
△△ゆえに、
それだけではすまなかったのだ、
などと展開させていってもよい。
その妄想が許される世界ならば、
こういうことが起こってもいいよね、
ということが起こるかもしれない。
とにかく、
最初の妄想から風呂敷を広げないといけないわけだ。
で、広がった風呂敷は、
たたまないと意味がない。
ただの妄想の垂れ流しになってしまうからだ。
完結してはじめて物語には意味がある。
完結しない物語など、ただの妄想日記だ。
(人は完結するとわかってるから妄想を楽しめるのだ)
妄想からはじまった何かは、
完結させる責任がある。
それはつまり、
はじめの妄想に決着をつけるということだ。
その妄想は子供じみたものだったのか。
たとえそうだとしても、
そこから広がった何かは、
ケツを拭くとたいしたものになっていた、
そういう風にしなければならない。
たとえば、
映画「かいじゅうたちのいるところ」
はとても素晴らしい妄想だった。
「この世界とはまったく違う、
かいじゅうたちのいる島があり、
そこへ行って、これまでのしがらみを全部忘れられたら?」
という造形が素晴らしかった。
しかし、
「ゆきて帰りし物語」にはならなかった。
行ってきたことが、現実に対して効力を発揮しなかったからだ。
つまり、ただ行って、帰ってきただけで、
その妄想に意味がなかった。
妄想は、決着をつけなければならない。
逆にいうと、
決着をつけられた妄想は、
物語になる。
あなたは今日も妄想をするだろう。
それ自体はすばらしいことだ。
妄想しない人よりも、
ストーリーテラーの才能がある。
だが、決着をつけられない妄想など、
ただの妄言に過ぎない。
物語にはなっていない。
映画「かいじゅうたちのいるところ」は、
ほんとうにひどかった。
造形が素晴らしく、音楽もとても良い。
冒頭30分の導入は完璧だ。
だが二幕以降、爆発するはずの妄想が、
どんどん退屈になっていくのを目の前で見なくてはならない、
修行のような映画だった。
「100日後に死ぬ運命のワニが、
そうとは知らず、普通の日常を生きている。
そんなごくふつうの日常こそが、
実はとても輝くものなんだ」
というコンセプト的な妄想はよい。
だけど、その妄想にケリはまったくついてない。
「ただ生きた、そして死んだ。で?」
でしかなかった。
「これまでの文脈は、ほんとうに価値あるもの?
ただの掃いて捨てる駄人生では?」
に対する有効な反論ができない出来だ。
最初の妄想は良かった。
しかし、
決着のつかない妄想は、
物語にならない。
あなたは、自分の妄想にどう決着をつけるのか。
ある日美女が降って来たっていいんだ。
それが納得がいって、
人生よかったな、ってなるといいのだ。
その決着のつけかたが、
テーマだ。
妄想は、テーマの前振りだということを、
ストーリーテラーはわかっておくべきだ。
そうすると、
「この妄想は、どういうテーマにつながる前振りになるだろう?」
という見方で、
普段の妄想を分類できる可能性がある。
アイデアノートは、
そうやって整理するのである。
2021年07月13日
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