2021年07月25日

【脚本添削SP2021】3: 話の構造

じゃあストーリーそのものはどうだったか、
あらためてリスト化してみましょうか。


以下は出来上がったシナリオを、プロットに戻す行為だと言えます。
濃縮還元というか。
これをすることで、話の構造が見えてきます。


過去に失敗を抱えたさくら、
新しい職場でカゲロウの世話を押し付けられる。

それは没になった映画の途中までのキャラクターだった。
息子が富士山の頂上に捕らえられているが、
途中でフィルムは終わっていたのだ。
カゲロウは続きをしたがっている。

その子役の現在に会いに行き、
台本を入手するさくら。
しかし息子など実在せず、
さらわれたのは子供のころのカゲロウだとわかる。

富士山頂まで登山し、
ARで山賊対カゲロウのチャンバラをやる。
カゲロウは山賊を倒す。
その瞬間、カゲロウは成仏する。

ただのAIキャラに戻ってしまったカゲロウ。
だがプリンタからカゲロウのお礼が出てきた。


不明な点が出てくると思います。
映画の中の話、カゲロウは狂っていた、という落ちだったのでしょうか。
それと成仏との関係性がよくわかりません。
(そもそも没になった映画は、狂っていたというどんでん返しのあと、
どのように決着したのでしょうかね)


クライマックスから逆算しましょう。

さくらは終始カゲロウに付き合っているだけのキャラクターになってしまい、
主体性がないキャラクターになっています。

なぜ彼女はカゲロウに協力するのか?
という根本的な、主体的な、
動機が抜けていると思います。

今のところ読み取れるのは、
「酷い目にあう失敗をした(それは不明)が、
乗りかかった船で、
都合よく強制リンクを張られたので、
逃げられずにやる」
という、どちらかといえば消極的な理由です。

失敗をしたことが本来動機に関わるべきですが、
本編では絡んで来ません。


さくらは失敗を抱えていたのだから、
カゲロウに協力することは、
この失敗を清算することになる何かがある、
というふうに普通はやります。

現代の精神病患者と、侍の山賊退治と、
中止されたフィルムと、
そこに関係性をつくらないと、
さくらが協力するのはただの親切、ないし仕事でしかありません。
(プログラマがいるんだから、
リンクの解除くらいできるだろと思うし)

クライマックスで、
そのさくらの何かが清算されないといけないでしょう。
カゲロウの無念は成仏し、
さくらの無念も成仏するべきでしょう。

極論、彼女の首の傷が消えてもいいと思います。
ちょっとファンタジーなので採用しませんが、
ファンタジーならば傷が消える、
というくらいに劇的な彼女のドラマを用意するべきでしょう。



注意すべきは、過去に劇的なことがあるべきではなく、
現在の選択や行動が劇的であるべきことです。

いくらでも過去話は盛れそうですが、
今、彼女が何をするかが、
その悲惨な過去より面白くないと、
現在は面白くなくなります。



ここまで逆算すると、
この全体の旅に出る、
第一ターニングポイントが弱いということがわかります。

押し付けられた仕事、厄介な仕事、
しかしもうリンクしてしまったから、
という強制的にやること。

そうではなく、
前向きに、自分から進んで何かをするべき動機が必要になるでしょう。

「やれやれだぜ……」では推進力が弱いのです。

「侍の思いを叶えることが、
自分の失敗を解消することにもなる」
という理想を目指すことにしましょうか。



さくらの内面に入ってみます。

なぜ心理カウンセラーになったのでしょうか。
なぜ患者をうまく救えなかったのでしょうか。
なぜ今は関係ない仕事のITをやっているのでしょうか。
つなぎのための、単なる事務バイトなんでしょうか。

人を救いたいという情熱があったとして、
それはなぜカゲロウを救うまで、
沈黙していたのでしょうか。
それともそれは触れるべきでないくらい嫌なのでしょうか。

そのへんがあいまいなので、
「かつて救う情熱があったかもしれないが、
一回失敗したら萎えてしまい、
いまは逃げているが、今回なんとなく人助けをした」
という中途半端なストーリーになっています。

ここに、劇的な何かが必要です。


あとよくわからないのが、
息子は存在せず、実はカゲロウの子供のころだった、
というどんでんですね。

どういう映画だったんだ?どういうストーリーだったんだ?
というのがよくわからない。

カゲロウがつらい思いをしたがゆえに、
架空の息子をつくって人生を送るようになった、
すなわち「精神病の患者」であった、
という風になると、
「彼を救うことが、あの失敗を繰り返さないことだ」
に親和性がでてくるように思います。

そうしようとしたのかな。
その芽はあるけど、出来ているとは言えません。


とりあえず、
侍は幻覚が時々見える、
という風に分かりやすく設定しましょうか。

そういう変わった侍キャラなんだ、
と事前に説明されたとしましょうか。

あるいは、どうもそういう変な症状があって、困っている、
というスタートでもいいかもしれません。

カウンセラーとしての仕事は、
統合失調症もしくは解離症だと気づき、
(このへんは調べる必要があります。強度の鬱でもいいのかな)
専門医と相談することが正解だったでしょう。
かつてそれに気づけなかったのはなぜか、

未熟だったから、
ではストーリーにならないので、
何か失敗の原因が必要です。
それをカゲロウ相手にリベンジすることにしないと、
物語にはならないと思います。


「あなたは病気なの」と、
患者に言えなかった、ということにしましょうか。

専門的に難しいことは全部放っておいて、
単にその勇気がなかった、
ということだと成立しそうです。
誰にでもわかりやすいし。


じゃあ、最初に言えなかった理由を探せばいい。
親友が患者だったから、
ということでいいかもしれません。

カウンセラーだから症状には気づいていたが、
なかなか言い出せなかった、とします。
それが悲劇を招いた、
ということにすれば、
失敗の原因が特定できるし、
それが侍の心を救う原動力になると思います。


さくらとカゲロウ。
これは二人の物語です。
双方に、深いドラマを足していくわけです。



これでメインプロットに必要なものはそろったかな。

次回。
posted by おおおかとしひこ at 00:16| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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