先日、キーボードの使い方について、
スプリンター、マラソンランナー、ジョガー、
の3つに分けてみた。
「打鍵速度」という言葉にも、
この3種が混在しているのではと思った。
すなわち、
スプリンター的な打鍵速度、
マラソンランナー的な打鍵速度、
ジョガー的な打鍵速度、
の3つだ。
結論から言うと、
スプリンター的な打鍵速度は、
数分以内の集中的なKPMを指し、
マラソンランナー的な打鍵速度は、
一日とか一ヶ月の打鍵速度を指すと思う。
そしてジョガー的な打鍵速度とは、
「自分の言葉がたちまち現れる」という、
ごく自分に近いところの主観的速度のように思う。
スプリンター的な打鍵速度は、
せいぜい数分の連続打鍵においての、
キー/秒で測られるものだ。
僕は平均5打/秒、トップスピードは8打/秒くらいだけど、
トップタイパーは14とか、
一瞬なら20出る世界だ。
これは純粋な指の速度に限りなく近い。
だから追求する人たちは楽しいだろう。
極限のアスリートのような面白さがある。
練習する日は、一日10万打鍵とかするらしい。
そんなの僕には考えられないが、
休み休みやるから出来るそうだ。
そもそも文字を書くときに、
一秒を10に割って考えていない。
文章を書くときには、秒は単位ではない。
分とか時間が単位だろう。
つまりスプリントは、
文章を書く目的であるキーボードを、
別の競技にしていると僕は感じる。
文章というのは少なくとも2000字くらいは欲しいよね。
エッセイ一編は大体6000字らしい。
これを書く筆の速度を競うならまだわかるけど、
高々30秒とかで勝負する意味は、
僕はまだ分かっていない。
文章を書くのは積分的な行為だけど、
スプリンターは、それを微分的に捉えた競技だろう。
マラソンランナー的な打鍵速度は、
少なくとも10分単位で測られる。
常識的に考えて、
時間あたり、日あたりくらいが、
仕事の量を測る時間だろうか。
時間給や日給計算だよね。
作家の場合、
日産何枚(原稿用紙換算で数える)とか、月産何枚とかで、
筆の速さを測る単位がある。
あるいは、年間冊数とかね。(一冊大体10万字)
こういうときの打鍵速度は、
もはや打鍵速度ではなくて、
思考速度であるとも言える。
だが文章を書くならば、なるべく思考にリソースを割きたいものだ。
仮に10時間あるとして、
5時間キーボードに取られるか、
1時間で済むかを選べと言われれば、
全員が後者を選ぶだろう。
(それが55分になるとしても、
それくらいならあまり変わらないと考えると思う)
むしろ、
「思考の邪魔にならない運動」や、
「疲労のたまらない運動」の方に興味が向くと思う。
つまりマラソンランナー的な打鍵速度は、
工数の少なさ、
手の距離の少なさ、
疲労のたまらなさと関係がある。
純粋な指の速度よりも、
そちらのファクターの方が効いてくると考えられる。
伝統的に、
スプリント的な速度は、
マラソンランナー的な速度と同じ(近い)と、
誤解されてきたように思う。
それは「客観的速度が簡単に測定できる方法が、
高々数分のコピー打鍵」
だったからだと思う。
一ヶ月かけてやる測定とか、
創作文章の測定方法がなかっただけのことだ。
短期的に見ればスプリントが速いほうが、
マラソンも速く思えるが、
マラソンの速度とスプリントの速度は同じものではない。
たとえば親指シフトはマラソン的に速いとしても、
スプリントはすごく速くはない。
qwertyローマ字はスプリントは速くても、
マラソンランナー的には打鍵数の多さで、
指を壊す原因になりえる。
長期的に見れば、
親指シフトはqwertyより速いと言える。
僕はマラソン的な速度が目的なので、
数値で議論するときは、
10分速度で統一している。
昔は1000字(変換後)/10分が最低あればいいや、
と思っていたが、
最近は1500くらいは出ているので、
2000の世界を見たいなあ、などと思っている。
ちなみにビジネスタイピングの場合、
700が一級の基準で、しかもコピータイピングだ。
自分で文章を考える、
「真の文章書き」は想定に入っていないことが、
そもそもこの問題をわかりにくくしているとは思う。
(原理的に客観的に他の人と比べにくい、
ということはある。
文章とはつねに主観的だ)
さて、本題。
このふたつはこれまでの議論を整理しただけで、
それと関係ない、ジョガータイプの打鍵速度もあるという話だ。
それは客観的速度というよりも、
主観的速度、「走る感覚」みたいなことと関係しているように思う。
「思考をデジタル的に定着する、その一瞬の速度」とでも言おうか。
数ミリ秒遅れても思考は蒸発することがあるから、
ミリ秒で感じる何か、みたいなことだろう。
(5ミリ秒モニタが遅延しても、
相当イライラするよ)
タイパーの生息速度とは別の領域の話だ。
頭からモニタまでのラグみたいなことで定義できる。
IMEの操作をも含むだろう。
たとえば1アクションで1モーラを打てる配列は、
複数アクションが必要な配列よりも、
気持よく打てる。
これはジョガー的に速い配列だ。
親指シフトの同時打鍵が良いのは、
こうした「思考を定着させる速度」のような、
数値に反映しにくい速度効率が良いから、
と考えられる。
連続シフトを採用している配列は、
遂次シフトよりもジョガー的に速いと思う。
手間がかからないからだ。
つまり、ジョガー的な速さとは、
物理速度の「速い」ではなく、
気持ち的な「早い」表記で示されるニュアンスが強いと思ったのだ。
段取りが省略されているとか、
リズムが思考にあっているとか、
すっと指が出るとか、
そうしたミリ秒くらいの無意識の中での感覚。
抵抗のなさみたいなことだろうか。
じゃあ抵抗がない配列がスプリントやマラソンで速いのか、
というとまた違っているとは思う。
抵抗の感じ方が、人によって異なるからだと思っている。
スプリントやマラソンの速さは客観速度で語られるが、
ジョグの「早さ」は、主観的な気がするのだ。
スポーツに例えるならば、フォームの良さに感じるもの、
みたいなことかもしれない。
僕は月配列のような順次打鍵で打鍵数が前後するのは手間だと思うが、
同時打鍵のほうを手間だと思う人もいる。
連続シフトは離す手間がかかると思う人もいるし、
遂次シフトのほうが手間だろと思う人もいる。
丸暗記して反射に入れてしまうほう(例:清濁別置)
が手間がかからないと思う人もいれば、
その場でつくれてしまうほう(例:清濁同置)
が手間がかからないと思う人もいる。
真ん中の強い指で打鍵するほうが手間がかからないと思う人もいるし、
10本指を駆使したほうが手間がかからないと思う人もいるだろう。
スプリントとマラソンは客観的に語れるが、
ジョグの主観的な手間や「早さ」は、
語る人によって変わるのではないか?
「〇〇配列ははやい」というとき、
「じゃあタイプウェルで示せよ」というのは、
だからだいぶ間違った議論なのだ。
異なる「はやさ」を異なる基準で測定しても、
なんの意味もない。
蜂蜜小梅は、ジョグ的に快適な配列だそうだ。
試してみたいが、配列図が生理的に合わないので、
いつも躊躇してしまう。
そうしたことも主観的なはやさと関係すると思う。
qwertyは僕の生理にまったくあっていないので、
ずっと不快だ。
あるいは「親指シフトは早い」と使用者は言う。
ジョグ的な速度がはやいのではないだろうか。
客観速度は出せないところの議論だ、
と僕は思うので、
「『ということで』の運指が早い(良く知らないので文言は適当)」とか、
「この文章を書くときに早くて便利だった」みたいに、
主観で語るといいのでは、と思った。
薙刀式は、
僕の思考を表すのにジョグ的にかなり早くて、
親指シフトよりも飛鳥よりも新下駄よりも早い。
それは主観的な早さだ。
だから親指シフトの長文動画とか見たいんだよなあ。
そんなに早いのかな?
ずっと左手がもつれる感覚が気になっていて、
そこらへんをどう解消しているか見たいんだよね。
qwertyローマ字での、マラソンやジョグの動画もほとんどない。
(あるかもしれないが、タイパー動画に飲み込まれてわからない)
あまりにもよくある光景だから動画にする意味がないという事情もあるが、
タイパーの創作文動画とか、めっちゃ見たいんだよなあ。
運指最適化が実戦に役に立ってる場面とかね。
そして「そこに至るまで、どれだけ鍛えないといけないのか」
というのも重要なファクターになると思う。
僕はまずジョガー的に早い配列を目指したい。
鍛えずにそこに行けるものがいい。
そしてマラソンランナー的に速い打鍵速度になりたい。
以下、独断と偏見に基づいた、
各配列の速度を示す。
スプ スプリント
マラ マラソン
ジョ ジョグ
の速度。よくわからないものは?を追加して表記。
ついでに「とりあえずマスターするまでの難易度」
を示した。
(最高峰の打鍵の難易度はまた別と考える)
スプ マラ ジョ 難易度
qwerty ◎ × △ C
月配列 ◎ ○ ○ B
JISカナ ◎ × ○ A
新JIS △ △ ○ B
薙刀式 △ ◎ ◎ B
新下駄 ○ ◎? ◎ S
親指シフ △ ○ ◎ A
飛鳥 △ ◎ ◎ S
蜂蜜小梅 △ ○? ◎ A
トロン △ ○ ◎ A
フリック ○ × ○ D
親指系はスプリントはそれほど評価せず、
ジョグとマラソンにポイントが置かれると思う。
逐次打鍵式のほうが同時打鍵式よりも、
スプリントは速いのではと思う。
新下駄や蜂蜜小梅の長文はちょっと想像がつかなかった。
新下駄の総合力はいつもすごいなあと思う。
飛鳥の方が長文に強いイメージがあるが、
誰か新下駄で長文書いてる人いないのかなあ。
新配列が強いのは、
むしろジョガーでの評価かも、
とこの表を作りながら思った。
だから(主観的な)「早い」の原理が乱立して、
ひとつに決まってないのかもしれない。
それが面白いところでもある。
2021年08月05日
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