我々の無邪気な想像だと、
人差し指と同じように、垂直に当たっているイメージだろう。
実態はだいぶ異なる。
右手でいうと、
指先は上から見て北西を向く。
極端にいうと45度くらいずれる。
また、小指自身の軸に対してローリングして、
外45度くらい捻られることがある。
つまり45度45度ずれて、
寝て潰れたような形で打鍵されることが多い。
合わない靴の中で潰された足の小指のようだ。
こんな形で力を発揮できるわけがないし、
長時間それでは体に変調を来す。
もちろん人によっては多少ましだろう。
手の大きな人ならもうちょっとましな角度になるだろうし、
そのために手のひらを動かせば、
もうちょっとマシな角度になる。
だけど、Jと同じようにベスト角度にならないことは、
確実だ。
薙刀式の最新の3Dキーキャップでは、
これがJのような当たり方になるように、
角度や高さを調整している最中だ。
それは完成を待つとして、
なぜこのようなことが起こっているのか、
手の仕組みを理解することが大事だと思う。
そもそも、
指を伸ばした時、
4指の向かう方向は同一ではない。
人差し指をまっすぐとしたら、
中指、薬指、小指は、薬指を中心に先細りになるようについている。
すなわち、中指は指先がやや外に、
小指はやや内側にねじれてついている。
これは、中指、薬指、小指を、
「一本の大きな指」として使うためのしくみだ。
身体を極限まで利用する武術では、
この3本は一本の指として使う想定だ。
この3本と親指で握り、人差し指で方向をコントロールするように使う。
(関節技をかけるとき、武器の操法など)
我々は遺伝子レベルで、親指と人差し指と、残りの指にしか、
分化していない。
(人差し指を動かす腱は一本だが、
中指、薬指、小指を動かす腱はまとめて一本の中に入っている。
これは解剖学的事実。
ピアニストは幼少の頃からこの分離の訓練をする。
逆にいうと、幼少期の訓練がないと、
成人してからは神経的に分離できないことが知られている)
タイピング姿勢を取るとき、
指を丸めてアーチをつくる。
中段ホームに構えたとき、
中指、薬指、小指は、指先を同一直線上に並ぶように、
手と指を調整する。
そのためには、丸め方を、
中指<薬指<小指のように調整しないとできない。
つまり小指はより負荷がかかっている。
このときすでに、中指から小指は垂直に構えてなくて、
右手の場合、鉛直から東に傾き、
指先は西へ向いている。
3本の指先を同一直線にするには、
そのようにするしかないからだ。
僕はまずこの構えが間違っていると考えている。
指の一番パフォーマンスを発揮できる触れ方に、
すでになっていないからだ。
ちなみに、
人差し指はこの同一直線上に来れない。
人差し指の腱が短く、
指自体も短いからだ。
こうして、
人差し指とその他の指は、タイピングにおいて役割を変える。
6キー担当と、3キー担当にだ。
だけど、中指、薬指、小指は同一ではない。
傾く角度が同一でも、
小指はより内側にねじれ、
丸め方も大であった。
だから、小指はより「寝かされた状態」で、
打鍵させられるのだ。
薙刀式の3Dキーキャップでは、
これをすべて人差し指のように当てることを目的としている。
しかし殆どの普通のキーキャップでは、
ここまで指の当たり方に気を配っていない。
中指ないし人差し指を基準としてシリンドリカルステップをつくり、
「以下それに準ずる」となっているのみだ。
それを、キーの配置を変えて、
指の角度に応じようとしたのが、
コラムスタッガードなどの、自作キーボードの物理配列だ。
だけどコラムスタッガードは、
指の位置までは配慮していても、
指の伸びる角度、当たる角度まで考慮していないと思う。
なお、
伝統的な左ロウスタッガードでは、
偶然、右小指下段に関しては角度がましになる。
右下にずれてるからだ。
Zが打ちづらいのは、そのずれが逆だからだ。
このような、
手の構造を議論しながらキーボードを考える話は、
これだけエルゴノミクスいうてるくせに、
全然出てこない。
きっと観察力が足りないか、
僕ほど毎日打って、痛みを実感してないのだろう。
いくつかの指の曲げ方のイラスト入門を貼っておく。
絵を描くには構造を知らなければ描けない。
僕は昔から絵を描いてたので、
これくらいのことは知ってたけど、
多分、キーボードをやる人は、
メーカーも、エルゴノミクスキーボード設計者も研究者も、
タイパーも自作配列作成者も、
知らないんじゃないかな。
絵描きが一番構造をよく知ってるって、どうよ。
2021年08月30日
この記事へのコメント
コメントを書く