2021年11月16日

日本の照明技術は低いわけじゃない

ハリウッド系の照明解説アカウントがあり、
「日本の照明技術が低い」と嘆く批判が出ている。
http://hatarakuhijoshiki.livedoor.blog/archives/12034194.html

一応プロから言わせてもらうが、
日本の照明技術はあるんだ。
ただ、時間がハリウッドの1/4で、
予算がハリウッドの1/10くらいなんだよな。



日本映画は、
一日で台本4〜5ページ(1ページが大体1分に相当)
撮るスケジュール。
2〜3シーン、下手したら4〜5シーン。

ハリウッドでは、
一日ワンシーン、台本1〜2ページだ。
2シーンやるのは多いと言われる。

照明は、シーンの数で決まる。
場所が変わるごとに変わるからね。
(厳密には、電気が消えている→電気がつくシーンなら、
照明はワンシーン2セットいるけど)

一日ワンシーン撮影ならば、
朝一までに出来てれば、
照明部は昼から明日のシーンの照明を先に仕込める。
だからじっくり考えられるし、
効率的な照明配置ができる。

日本のやり方では、
電源車を止めて、ライトを組み立て、配線して、
設置して、調整して、バラして、
を一日2〜5回やらないといけないから、
なるべく減らさないと効率が悪い。


なぜ違うのか?

全体予算の問題だ。

仮に半分しかないなら、
スケジュールは半分で撮らないといけないからね。

日本の映像は、ただでさえ出演者に全振りして、
スタッフに金をかけない。
そして時間も与えない。

「それじゃいい絵が撮れねえよ」
と文句をいう正直な照明マンには二度と仕事が振られず、
「このスケジュールでやれることを考えます!」
と嘘をつく照明マンに仕事がいってしまう。

それは、発注する人間が、
「この金額で抑えろ」と上から言われているからだ。

発注する人間が、
「いい絵にはこれくらいの照明が必要だから、
金額とスケジュールはこれくらい欲しい」と、
スタッフを守り、
上申して許可が降りない限り、
日本の照明は、時間も機材費も与えられないまま、
ジリ貧だ。

最高の照明をするのに、いくらくらい欲しい?
と聞いてみるといい。
今の10倍も、50倍もいうと思う。


ことは照明だけでなく、
撮影、美術、衣装、録音、音楽など、
全てのパートにかかってくる。

一日1〜2分、ワンシーン撮れば済む集中力と、
一日4〜5分、数シーン撮る集中力は違う。

ちなみに、低予算ドラマの風魔は、
一日8分がノルマであった。


しょぼいのは技術ではなく、予算である。


もしハリウッドが日本の予算しか与えられなかったら、
日本よりヘボい絵を撮るだろうことは予想に難くない。
それくらいには日本の技術者の個々の能力は高い。

日本人の個々の能力が高い故に、
上からの無茶振りを現場でなんとかしてしまうがゆえに、
予算モリモリでバカでもできるアメリカに負けているという、
戦争と同じ、昔ながらの展開なのだ。


向こうの映像には組合があり、
最低賃金が決まっているが日本にはなく、
いくらでも低予算になることができる。
それも震災以降、歯止めが効かないほど下がっている。


技術者はいる。
それを動かす金がない。
そのうち、技術が途絶えて消えていきそう。
それが今の日本だ。

つまり、「伝統工芸が消失の危機を迎えている」
のが現在だといっても過言ではない。


ハリウッドみたいな絵を撮るには、
時間と機材費と人件費がいるんだ。
日本の現場にはどれもない。



なお、CMはドラマや映画より秒単価予算がある。

だけど例に挙げられている絵は、
どれもスポンサーが「暗くて陰気である」
としてCMでは使いたがらない絵だ。

陰影を使い、雰囲気で語る金があるのに、
金を出す側はそれを必要とせず、
「明るくて楽しい感じにしてください」しか言わない。

だから、
日本の照明技術は、結果的にしょぼく見える。

明るく光が回っているペラペラのCMと、
最低限を下回った、暗くてじめじめしてるドラマや邦画と。


すべては金と時間が決める。
映像は、帝国主義的資本主義で生まれた産業である。

ちなみに邦画とハリウッドの予算費は、
10倍から100倍以上のひらきがある。
Netflixの年間予算は、
日本のTV局全局の年間ドラマ予算全合計の数倍だ。

予算が同じでも、
日数が4倍あれば勝てるかも知れない。
でも忙しい芸能人は、なるべく早く終わらせろという。
そしてそんな芸能人を出演させないと、
予算が承認されない製作委員会の問題がある。


いつ、勝てるのだろう?




(追記:
大元の一枚目は、窓からの差し込みの光をビームにするために、
フォグ(スモーク)を焚いていて、
日本ではフォグ予算は証明費の範疇で、
その予算も最近は渋りがちだね)
posted by おおおかとしひこ at 12:06| Comment(2) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本のテレビ関連の予算は中にいたものとして本当に悲惨でした。
映画関係は詳しくないのですがおおよそ似たようなものと察します。

ハリウッドで番組の音楽を担当している知人が週1で予算が日本円にして300万円くらいと話していて、「年収1000万オーバーかよ!」と言ったら「いやいや1週間300です」と返答があったのでさらに驚いたら、「CGなんて1カットで10倍の予算だから全然安いです」とかなり衝撃を受けたことを覚えています。
それを知ってから虚しくなってほどなくしてテレビからは退きました。

照明さんは誰よりも早く入って誰よりも遅く上がるのにそこを削減してどうするんだと思いますが、もともとの予算が微々たるもののうえに中間搾取が多いので負の連鎖だなあと思います。

ゲームにしろ音楽にしろ、日本のエンタメ系の業界は流行り病の影響もあってかなり壊滅的ですね。。。
Posted by Yuichi Abe at 2021年11月17日 00:19
>Yuichi Abeさん

音楽の話に限ると照明より悲惨で、
ここ5年くらいですかね、
「音楽サイトから買う」という流れになったのは。
「音楽録音」(オリジナルをつくり、スタジオで生楽器、生声を録り、ミックスする)がスケジュールにない仕事が増えました。
全国オンエアでも、買えば10万、つくれば何十万、
そこの差がポスプロにもしわ寄せています。

実際、音楽屋さんは食えないし暇だしで、音楽サイトに売る、
という負の連鎖になってます。
作家さんなんかそれだけじゃ食えないのでは。
(レーベル契約してないとしんどそう)

宅録ミックスできる時代なので、スタジオも次々と閉めてたり、
デジタル技術のせいで音楽はかなり安く買い叩かれるようになったと思いますね。

ドラムは打ち込みで、ボーカルピアノ管弦は生音、
で楽器費を削減してたのは少し前になっちゃいましたね。
最近はピアノですらいい素材あったりするしなあ。

さらに恐ろしいのはAI自動生成音楽ですよ。
アリモノの音楽に比べて、秒数や構成まで指定できるから、
音楽編集やらなくていい利点が。
さすがに映画やCM使用にはセンスが足りないけど、
どうでもいい埋め用のBGMにはかなり使えます…


最近は予算がなくて、
ピアノ一台、ギターやウクレレ一本、
などで我慢してたんですが、それもなくなってきたな…
(絵の編集もハコに入らず、会議室でPC編集が増えてきた)


週300はなかなかの総合予算ですね。
日本の番組の音楽費はたいてい0〜10万/月です。
そのかわり局がJASRACと年契してて、
既存音楽は番組で使いたい放題という流れです。
昔はCD化されてればなんでも使えたけど、
今CD化されてない音源が増えてきて、
JASRAC利権が…おっと誰か来たようだ…
Posted by おおおかとしひこ at 2021年11月17日 07:46
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