2021年11月20日

1、2、3は変化ではない

変化を描くとき気をつけること。
ていうか、こんなアニメーションの基本、
知らない人が多くて逆にびっくりするわ。
https://mobile.twitter.com/hicchicc/status/1461201781489225733


重い荷物を、隣の部屋に運ぶことを考える。

よっこいしょと持ち上げるのがまずしんどい。
2、3歩あるき、
巡航速度に乗せるのに時間がかかる。
巡航速度に至ればまあ繰り返しだ。
で、目的地がそろそろだなとなったら、
減速して置く体制に入り、
よっこいしょと降ろす。

どこに時間がかかっているか?

真ん中ではないよね。
最初と最後の、ゆっくりのところだ。

持ち上げるところを1、
巡航速度部分を2、
置くところを3とすると、
111111111233333333
となっている。

ものごとには、
加速があり、
巡航速度があり、
減速がある。

重い荷物で考えればわかりやすいが、
ニュートンの法則から、
これはどんな軽い物体でも、
たとえ原子レベルでも起こる現象だ。
つまり、運動、動くことの本質である。

作業開始までの準備が長く、
実質作業時間は短く、
作業終わりの撤収やレポートや次への引き継ぎが長い。

料理の買い物やメニュー設定に時間がかかり、
調理時間や食べる時間は短く、
片付けやゴミ捨て、余った食材の次の出番までに時間がかかる。


クリエイティブな仕事に、
メールや雑務を、たとえ「5分で終わるから」と、
差し込んではいけない理由がこれである。

ここまで加速したものを止めるには減速が必要で、
5分で終わる仕事を始めるまでに減速時間があり、
5分で終わる仕事を終えて、中断再開のために、
同じ時間加速にかかる。
人間の性として、同じ加速を二回するのは気分を害するから、
二回目の加速は一回目の加速より時間がかかる。
つまり、「5分で終わる仕事」は、
間にインサートせず、
大きな仕事が終わり、減速が終わってからするべきだ。

「なんでメールにすぐ返信しないの?」
なんていう上司はこのことを知らない馬鹿なので、
決して尊敬しないことだ。



アニメーションとは、
そのような「動き」の本質を、
いかにデジタル化(離散時間化)するかだ。

アナログは無限時間だが、
アニメーションは、3単位時間や4単位時間に、
極端に少なくすることである。
だから、動きを抽出するわけだ。

で、「2に出会う確率は少ない」
という経験論が、
ふたつのアニメーションの、後者のほうなのだ。

もしもう少し作画枚数を増やして良い、
つまり10単位時間にして良いならば、
11111223333
にするといいだろう。
あとは動きのニュアンスで、
11112233333にしてもいいし、
111111122333にしてもいい。
決して、
111222333のような、等速運動にするべきではない。

それは、「動きを分かっていない」ということだ。



ようやく本題に入る。

シナリオとは、動きを表現するものである。

場所の記述、
動作の記述、
会話の記述のみっつを使って、
「ストーリーの動き、文脈のうねり、
状況の変化、人の変化」を描くものである。

アニメーションが、
数枚のピクセルを用いて、
物体の動きや変化を描くことと同様だ。


上で議論した本質で言えば、
変化のまさにその瞬間、2の分量は少なくて良く、
ある状態から、変化してる?変化しそう?
と思えるような、微細な部分を長く描き、
変化が完了しそうな、
そろそろ完成?まだ完璧じゃない?
状態を長く描くべきだということがわかる。


人間関係をラブストーリーにたとえれば、
えっ、この人私を好きなの?
やっぱ違うかな、
えっ、きっとそうよ!
の変化前を長く描き、
「好き」と思う決定的な瞬間を、
短く、ドラマチックに描き(だから印象が強く残る)、
好き、もっと一緒にいたい、
でも状況が変わって、好きでいられるかなと不安になり、
でも好きでいられる二人の関係がいい!
を長く描くといいわけだ。


これは状況の変化、
人間の成長、
事件の発生と解決、
など、
ストーリーの変化の部分を描く、
決定的な原則である。


また、
表現は省略技法がある。

好きになったあとから描いたり、
好きになる前しか描かずに、
その前後を想像させる技法だ。

出会った二人のカットの次に、
結婚した二人を描き、
間を省略したり、
ストーリーの最後に出会う二人で終わったりするやり方である。

(このような省略技法は、
「他の変化が十分描けている」ときのみ成立する。
なぜなら、
表現者として信用されている時に限って、
「他もそうしてくれるんだろ?」と期待されるからだ。

「前も不十分なくせに、今回も手抜きかよ」
と思われたら省略技法はただの手抜きだからね)



変化を描くには、
2(アニメーションでは中割りといいます)の、
存在感をどれくらいとして、
1の分量、2の分量を決めなければならない。

01234はアニメーションとして下手で、
0134、
011123334がアニメーションとして優秀だ。

物語も同じである。

リズムやテンポといった感覚は、
こういう感覚から生ずる。
posted by おおおかとしひこ at 06:37| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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