なごやんさんからの質問に回答。
>> 一幕中盤から後半にかけての事件で使った設定が多く設定開示を詰め込み過ぎてしまったこと、脇役だと割り切って深堀しなかったキャラの掘り下げが足りなかったこと
>> その点を踏まえて改稿しようと取り掛かったのですが、自らが情報開示においての指針を持たず、情報面を感覚頼りで書いていたことに気がつきました。
>> そこで質問させていただきたいのですが、情報開示においても三幕法のような定石や組み立て方の基本、詰め込み過ぎにならないような設定量の目安や基準のようなものは存在するのでしょうか?
特に設定の詰め込み過ぎが自分では気がつきにくく、セルフチェックの目安があれば改稿時に見つけやすいのではと考えている次第です。
ものすごく大きな文脈で言うと、
「客観性が足りてなかった」ことが原因で、
対策は、
「客観的になるとよい」です。
まあそれが出来れば苦労しないんですが。
コツとしてあげられるのは、
「自分が初見の客になること」です。
そのための一番簡単な方法は、
「忘れるまで放っておく」ことです。
ただ一本しか抱えていないと、
放っておいたときも色々考えてしまい、
フラストレーションが溜まるので、
手っ取り早い方法は、
「別の作品を書き始めてしまう」がいいですね。
ある程度新作を書き進めて夢中になったあと、
ふと先に書いた作品を読んでみるとよいでしょう。
「俺が書いた作品」から、
「俺が書いたんだっけ?」になっていると思います。
その時にはじめて「初見の人」になれるのではないでしょうか。
初見の人と、二回目以降の人は、
情報処理において何が違うかを考察しておきましょう。
ざっくりいうと、
初見の人は、
「すべての情報が初見のため、
『わかる』までずっときょろきょろしている」
二回目以降の人は、
「だいたい分かってるから、
ほとんどは無視して、
自分の拾いたいところだけ拾う」
という違いがあると思います。
これゆえ、
初見と二度目以降では、
頭の回転数が全然違ってて、
小説ならば、圧倒的に読む時間が違うはずです。
初見では、
提示された情報を手がかりに、
脳内に世界を組み立てていきますが、
二度目以降では、
世界は組み上がっているため、
脳内の世界との差分だけを見ていく感じになると思います。
情報過多と指摘されている部分は、
あなたの中で「分かってること」であり、
「分かってること以外を書き直した」
という記憶がある部分と予測します。
でも初見の人は、
その二つを区別できないため、
二つを足してごちゃまぜにした、
カオスの情報量を受け取ることになると考えます。
また、足りない部分は、
あなたがかつて書いたが、カットした部分ではないでしょうか?
あなたの中には世界として残っている部分だけど、
初見の人にはそこは存在しないため、
想像力で補える範囲ではないというわけです。
僕は映画脚本メインなので、
小説の読者をどれくらいに見積もるべきか分かってないですが、
僕が基準としているのは、
「うちのオカンでもわかるように」です。
スピルバーグのような情報整理が理想だと、
常に考えています。
客は、
世界を徐々に提示されます。
ということは、
ラスト以前のどの時点でも、
「世界の全部は見えていない」ことを理解してください。
客は常に世界を更新しながら、
「この先はどうなってるか」を想像したり、
「前のアレとアレがこの先に関係しているのではないか」
と予想したりします。
あなたの中では「それはない」とわかってるから、
その「想像」をすっ飛ばしてしまうのではないでしょうか?
初見の客は、世界を構築しながら見ている。
それが理解できると、
どれくらいの情報を投げれば、
「自由に想像が膨らむか」をわかるかも知れません。
また、自分の語り口は慣れているから、
「他人に朗読してもらう」というのも一つの手です。
小説は長いから大変だけど、
焼肉おごるから頼む、と親しい人に頼んでみましょう。
その人の口から出た言葉だけで、
あなたは暗闇に世界を想像する体験をしてみてください。
せっかく想像してたのに、
情報量が過多になって、野暮だなと思うところや、
足りないから想像したいのに、
燃料がなく飛ばされて不満に思うところが出てくると思います。
初見と二度目以降を考察するとき、
「初見ではこういう意味だったが、
ラストまで見た後では、
序盤の意味がまったく変わってしまう物語」
を見てみると良いでしょう。
たとえば、
親友だと思っていたが実は裏切り者だったとかの話です。
初見は親友と思って見ていた場面が、
ラストの裏切りを見た後、
二度目を見てみると、
たしかに裏切り者としてバレないような仕草をしてやがるぜ、
なんてなるタイプのやつです。
二度目以降意味が変わる話だとしても、
あなたは二度目以降、
その親友を親友だと思って見られるでしょうか?
そう見れる力があれば、
情報量をコントロールできるでしょう。
無理ならば、
自分の中で解決できないとあきらめて、
他人の力、他作の力を借りたほうがいいですよ。
書き直しすぎによく起こる問題です。
一切忘れて、一から書き直すという無謀な手もあります。
小説全部は無理ですが、
脚本ならやれないこともない量ですね。
一章くらいは白紙にいきなり全面書き直し、
というのもやってみると勉強になりますよ。
前の原稿は一切見ないルールを課してください。
そうすると、「目の前の文章」だけが記憶になります。
それが初見の人です。
ご指摘いただいた内容にいくつも思い当たる節があり、改めるべき点、注意すべき点が明文化されたことで課題が明瞭になった気がします。
まずは今改稿している小説をしばらく寝かし、客観的な改稿を練習する為の教材としてみます。