プロタゴニストとアンタゴニストという西洋の人間関係構造、
主人公、敵、ヒロインという漫画的な人間関係構造などがあると思うが、
伝統的なこれも使えるぞ。
もとは歌舞伎の役者の話だ。
役者の名前が看板、ないしのぼりに書いてあって、
一枚目に座長、二枚目にイケメン、三枚目におちゃらけ役の人、
などが書かれたことからだ。
二枚看板なんて言い方もある。
主役の座長と二枚目が両方売れっ子ってことだ。
で、これって役者だけでなくて、
「物語上の役割」も意味しているんだよな。
重要な役ほど一枚目であり、
そして三枚の役で、物語が進行されるって意味だ。
一枚目は座長だから、
それなりの役職の人だ。
平社員じゃなくて、係長とか課長とかだ。
自分から何かをすることはなくて、
すでに何かをやり遂げてここにいる人だ。
だから無能ではなく、何かしらの能力がある人だ。
この人が最終的に問題を解決する。
能力を使ってね。
ただ、最初にこの人がトラブルに巻き込まれることはない。
それなりに賢く、生きるすべを持っているので、
この人がでるときは、仲間がトラブルに遭った時である。
で、出陣のときに「よっ、待ってました!」ってなるわけだ。
感情移入の対象とは違うだろうね。
隊長、組長、家長の立場だ。
映画は若者が主役のことが多くて、
等身大の主人公が多いと思うけど、
昔のストーリーは若者じゃなくて、
もっとえらい立場の人が一枚目なわけだ。
逆に、こうした伝統的な一枚目に対して、
映画は若者という一枚目を発明したともいえる。
若者は感情移入しやすいが、
実力がなく、問題解決に対して力がない。
だからこそ、追い詰められて成長する。
それが映画的な主人公観だと思う。
しかし一枚目、二枚目、三枚目という伝統的な人間関係では、
感情移入ではなく、頼れるヒーローとして一枚目がある。
二枚目の役割は、一枚目のサポートだろう。
またたいていカッコいい人(二枚目の語源)が演じるから、
恋のサブプロットはこの人に当てられる。
一枚目は世間的なリーダーだから当然結婚しているが、
二枚目は結婚していない人が多い。
若者なら女が放っておかないし、
そこそこ年行ってる二枚目は、世捨て人だったり、
ニヒルだったりして、
世の中を斜めに見ている役が多い。
一枚目が世間の価値観の代表だとすると、
アンチテーゼの役割だ。
(ガッチャマン(オリジナル)では、
大鷲の健が一枚目、コンドルのジョーが二枚目。
ゴレンジャーでは一枚目はアカレンジャー、
二枚目がアオレンジャーと、
昔のヒーローものは歌舞伎の人間関係の伝統を引いていた。
今のヒーローものは一枚目が消失している)
三枚目は、コメディリリーフ。
一枚目や二枚目はカッコいい人がやるので、
笑いを取りに行く、オモシロイ人がやる。
一枚目と二枚目だけでは辛気臭いものになるので、
笑いや明るさで、世界を正常にする役割がある。
(同様に、ガッチャマンではツバクロの甚平、
ゴレンジャーではキレンジャーが三枚目。
この考え方では、ヒロインをおいといて、
5人目の役割が地味になる。
ガッチャマンではみみずくの竜、
ゴレンジャーではミドレンジャーは、
キャラが立たないモブであった)
さて。
ストーリーは、
かならず三枚目から起こる。
一枚目は分別があり、リーダーなので、
自分からトラブルを起こしたり、巻き込まれることはない。
二枚目はニヒルなので人と関わらないから、
トラブルもやってこない。
必然的に三枚目が、
ストーリーをかき回す役目である。
一枚目と二枚目だけでは、ストーリーは起こらない。
三枚目がトラブルに巻き込まれることで、
ストーリーが起こるのだ。
これは展開でも同じことがいえて、
一枚目と二枚目だけでは、
順当で理詰めな作戦展開になる。
その代わり硬直した価値観でしかなく、
面白みが欠けるものになる。
三枚目が絡むことで、
不安定になり、トラブルが増えたり、
その代わり驚天動地の展開や、
瓢箪から駒の、あっと驚く解決策が出てくることがある。
三枚目はつまりトラブルメーカーであり、
ピエロの役割だ。
三枚目が多少抜けてて、阿呆なことはこのストーリー上の役割と関係がある。
多少抜けていたほうが、トラブルに巻き込まれやすくなるし、
阿呆なことで好かれて意外な人物とつながっていることがあるし、
阿呆なことで硬直していた価値観では気づかなかった、
世の中の真実に触れることができるからだ。
三枚目がトラブルを起こすことで、
一枚目と二枚目が「しょうがないなあ」と動き、
事件の解決がはじまり、
三枚目の奇想天外な発想が、
どんづまりになった展開に風穴を開ける。
しかし三枚目は阿呆なのでそこまで力がなく、
解決を実際に引き受けるのは一枚目というわけだ。
二枚目は力はあるが、人望がなかったり、
相手の偉い人と交渉する政治力はない。
政治になれば一枚目の出番だったりする。
現場を二枚目が引き受け、
一枚目はそれより上のレイヤーで戦う、
みたいなことだ。
こうした人間の在り方みたいなことが、
うまく割り振りされたものが、
一枚目、二枚目、三枚目という役に振られていたわけだね。
(スターウォーズのジャージャービンクスは、
そうした三枚目を目指したが、
ただの嫌われ者になって失敗した。
しかも3あたりで将軍になってなかったっけ。
三枚目が一枚目になったわけだ。
ルーカスは三枚目の使い方が大変へたなのだ。
SW1特別版が出て削除される、というデマは笑った)
もちろん、人間だから、
一枚目と二枚目と三枚目の役割は、
固定していなくてクロスすることがある。
普段二枚目の役がトラブルに巻き込まれて三枚目の役をすることもあれば、
三枚目の役が一枚目の責任を負わないといけない展開もある。
一枚目が離婚して二枚目の役に戻ることもあるだろう。
これらはストーリーに応じて、
柔軟に入れ替えていくと面白くなるだろう。
とくに歌舞伎は、役者メンバーは固定している一座システムだから、
一枚目二枚目三枚目は決まっていても、
役どころは適宜変えていったかもしれない。
そのほうが新鮮だろうからね。
これらの伝統的な人間関係とストーリーの関係を、
我々が利用しない手はないと思う。
とくに三枚目と一枚目の関係を理解することは、
いきづまったストーリーを前に進めるときには有効だ。
順目だけで世の中は進まない。
逆目の展開を入れるために三枚目を利用することは、
よくある。
そのために、誰に三枚目の役割をさせるかを、
仕込んでおくと助かることもある。
とくに順目だけで行き詰った時は、
「三枚目を利用できないか?」と考えるとよいだろう。
あるいは、
「二枚目を三枚目として使えないか?」
「三枚目が二枚目に昇格するとき」
「一枚目を三枚目や二枚目に使ってみる」
などの変化球を考えると、
行き詰ったストーリーの突破のヒントが見つかることもある。
あなたのストーリーに何枚目かの役が足りていないかもしれない。
そのとき、その役を増やすと、
ストーリーが回転する可能性が高い。
たとえば、
イケメンだけでストーリーは進まない。
三枚目や責任を取る一枚目が必要だ。
若者だけではストーリーは進まなくて、
一枚目が足りていないかもしれない。
もちろん、歌舞伎のシステムは一枚目が座長かつ主役だったけど、
三枚目や二枚目が主役になってもいいんだぜ。
ジャッキーチェンのストーリーはつねに三枚目が主役だったかもね。
現代の人間関係だけだと、
ストーリーが回りにくくなることがある。
そういうときはこうした力を借りて、
自分のストーリーにそういう成分を入れると、
世界が回り始めることがあるよ。
2021年12月11日
この記事へのコメント
コメントを書く