2022年02月19日

脚本だけがパズルしてるイメージ

脚本を書く際に、
カードを使って試行錯誤したり、
壁に色々貼ったり、
プロット全体の見取り図を書いたり、
複数の人数でそれらを扱ったりするものだが、
小説はしないんやろか。


頭の中になんとなくあって、
それを全部書き出せば、
小説はおしまいなのだろうか。

それとも小説でも、
脚本を書くときのあれこれパズルをやるのかしら。

一つ言えるのは、
小説はテンポを自分で変えることができるメディアだ。

詳細な描写で時間を進めないこともできるし、
時間を飛ばすこともできる。
あるいは、ストーリーが面白くなくても、
描写力だけで持たせることができる。

これによって、
純粋にストーリー進行だけに気を使わなくて済む要素があるかも知れない。
読者も、ストーリーのテンポだけよりも、
読書体験全体を重視する可能性もある。
文体が好きとかはそういうことだよね。

人気作家は、ストーリー進行だけで人気になるわけではない。
文体や雰囲気も含めての小説だと考えられる。


一方、脚本は、
ストーリー進行そのものの進行表だと言っても過言ではない。
小説と違い、1ページが1分の時間が流れる、
楽譜や列車ダイヤや、
式次第やスケジュールに近い考え方のものだ。

おそらくはこの差があると考えられる。

漫画は、一見一定のテンポで流れると思いきや、
実は読者で時間のテンポをいくらでも変えられるメディアである。
そこだけじっくり読んだり、
流して読むことができる。

ある漫画がアニメになったとき、
会話のテンポが原作とだいぶ違うと違和感を覚えることが多い。
頭の中の自由律に対して、異なるテンポで流れるからだろう。

つまり、小説や漫画を読むことは、
音楽を、途中でゆっくりにしたりテンポアップして聞くことに等しい。
動かないモノは、それを前提とした鑑賞方法なのだ。
(美術館のモノは、どれだけ時間をかけて見てもよいし、
どれだけ飛ばしても自由だ。
何回見てもいいし、一回も見なくても良い)


これに比べて、
脚本や音楽は、一秒に進む分量が決まっている。
美術館でいえば、一作品を必ず○秒で見る前提で、
小説でいえば、一行をかならず○秒で読む前提だ、
ということ。

なるほど、そんな美術館や小説はいやだね。

つまり、逆に言うと、
美術館や小説は、均質じゃないってことだ。
脚本や音楽は、均質な情報量の出力前提ということだ。


僕はよく、
駅までに歩きながらシークエンスを頭の中で再現することがある。
歩くテンポは一定だから、
一定のリズムで再生しやすい。

こうした工夫は、たぶん小説や漫画で、
絶対必要なわけではない。
だけど脚本では絶対必要だ。


脚本をつくるときに、
カードや壁に貼ったりするのは、
ストーリーの全体を眺めるためもあるけれど、
「全体のテンポ感」を作るためにやるのだ。

ストーリーだけを作るのなら、
小説や漫画や演劇でも、
同じやり方でできるはずだ。
しかし多分これらはやらないだろう。
テンポが決まってないからである。
(演劇も大体は決まってるが、
間を適宜買えたりして、一定しないだろう。
ところがオーケストラ演奏は、
BPMが守られている以上は、
どんな演奏でも演奏時間が同じはずだ)


テンポによってグルーヴをつくること。
これは脚本だけがやってることではないか?

そのために、
カードや壁に貼られたなにかが必要だと思うことだ。


小説や漫画のストーリーは、
大雑把に考えてあとは書きながらつくる、
なんて人もいるだろう。
それはキャラを描いてるだけで楽しい時間帯もある、
ということだ。
脚本はそうではない。
ストーリーの時刻表を書くのである。
正確に言うと、
ストーリーそのものと、時刻表が同時に書かれているのだ。


脚本を読む時は、
つまりは1ページ1分で読まなければならない。
そのように書かれているからだ。

120分のシナリオを60分で読んだり、
240分で読んではいけない。
「面白くてすぐ読み終えた」や、
「退屈で時間がかかった」は、
シナリオとして間違ってるということだ。

そのような特殊メディアだということを、
理解しておくべきだろう。



僕が脚本に詳しすぎて、
カード法や壁に色々書いたりするのに慣れてるからだろうか。
(数学者や物理学者はデカイ黒板に色々書くイメージがあるが)

あるいは小説や漫画は、
他人との共同作業をあまりしないから、
個人のやり方で任されていて、
「共通のノウハウの蓄積」があまりないのかも知れない。
その人だけのやり方で終わってたりするのかもね。

そういう意味では、
「どうやってストーリーをつくるか」
を共同作業で延々とノウハウが蓄積されてきた脚本業界は、
比較的「やりかた」を知ってるのかも知れない。


あるいは、脚本だけが何回も書き直されるイメージがある。
これも、時刻表と関係してそうだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:30| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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