最近の自作キーボードで、
分割型で親指島に機能キーを積んでるものや、
一体型でスプリットスペースや複数の親指キーを積んだものを見て、
「親指シフトキーボード」を思い出す人がいる。
そういう人は、親指シフトも生半可にしか分かってないし、
親指を生かす思想そのもの分かってないと思う。
富士通の親指シフト方式は、
親指を活用しようとする発想だ。
タイピングをするときに、
親指は遊んでることが多いから、
親指もタイピングに活用すれば、
負荷分散もできるし、
効率化できるぞというのが発想の原点であろう。
だがこの考え方自体は富士通独自のものではない。
そんなの見てたら誰でもわかるしね。
そもそもJISキーボードだって、
無変換、スペース、変換で親指を活用していた。
文字を打つためではなく、
IME操作のためだ。
かつては変換キーでしか変換、次候補の機能がなかった。
だから無変換と変換はペアで、
スペースキーは空白しか押せなかったのだ。
この親指の幸せな三角関係が崩れたのは、
「スペースキーでも変換できる」ようになってからで、
変換キーが事実上不要になってからだ。
(歴史は詳しい人にきいてください)
「文字は8指で、変換操作は親指で」が、
そもそものJISキーボードの設計思想なのだが
(次候補が変換キーで、前候補がシフト変換キー。
これがカーソルキーで代用できるようになったのは、
Macの影響?
僕は最初からMacユーザーだったので歴史に詳しい人にきいてくれ)、
いつしか親指がサボるようになってしまっただけのこと。
自作キーボードにおける親指活用の流れは、
この思想の復権でもある。
自作キーボードでの親指は、
BS、エンター、Ctrl、Shift、
Del、カーソル、Esc、IME切り替えなど、
よく使う機能キーを親指に集めて、
小指外の負担を下げようとする思想だ。
(どのキーをどこに配分するかは、
QMKファームウェアを自由にいじって自分で決める。
沢山の自作キーボードの写真は作例に過ぎない)
また、レイヤーキーといって、
「そのキーを押している間別のキーになる」
機能があり、
そのレイヤーキーも親指に置くことが多い。
「親指を押しながら、8指のどれかを押す」ことは、
楽にできるからだ。
ノートPCでは端の方にFnキーなるものがついてて、
足りないキーを補うようになっているが、
それを親指のホームポジションに置いて、
積極的によく使うものをリーチしやすくする、
というのが自作キーボードのレイヤー思想である。
これと、富士通の親指シフトは何が違うのか?
親指キーによるレイヤー思想は共通だが、
親指シフトの独自性は、
1. 親指キーと同時打鍵でレイヤーになること
2. 同手シフトと逆手シフトの発明
だと思う。
親指シフトは、「シフトキーを押しながら8指のどれか」
ではなく、
「親指キーとあるキーを同時(200ms以内)打鍵する」
ことによって、レイヤーを変える考え方だ。
標準レイヤー(単打)の30キー、
右親指と同時で30キー、
左親指と同時で30キー、
計90キーにカナを割り振っているカナ配列である。
同時打鍵にした理由は、
ダダダと打ちやすいからだろう。
Ctrl+Sのような一回押せばOKな押し方と違い、
文字は大量に打つため、
どんどん打てる形式として、同時打鍵を発明したのだと思う。
(かつては電気回路的に同時打鍵を判定していたのだろうが、
現在はPC側の常駐プログラムで判定している)
「親指シフト」は、
「親指キーをシフトキーにする方式」と誤解されがちだが、
「親指キーを同時シフトキーにする方式」が、
正確な見方である。
親指シフトのもう一つの発明は、
同手シフトと逆手シフトの使い分けだ。
90キーは記憶負担が多すぎるから、
整理の仕方を考えたわけだ。
同手シフト(右手担当キー+右親指、左手担当キー+左親指)は、
別のカナを出すレイヤー、
逆手シフト(右手担当キー+左親指、左手担当キー+右親指)は、
単打の「濁音を出す」
という風に、親指キーの役割を決めたところが、
親指シフトの発明である。
左親指で別カナ、右親指で濁音、
など、明らかに変えなかった理由は、
左右親指を満遍なく使うためだと考えられる。
(濁音カナはヴを含め21あるが、
これら全体の出現頻度は10%前後)
つまり、
親指シフトとは、
左右親指キーと同時打鍵することで、
計3レイヤー90キーを使い分けることと、
同手シフトと逆手シフトを使い分けることが、
アイデンティティである。
親指に押しやすいキーを押したり、
レイヤーキーにすること自体は、
親指シフトのオリジナリティではない。
もうひとつ、
親指シフトのオリジナリティがあるとしたら、
「どのカナをどこに配置するか」
という配字であろうか。
これがベストの効率ではなかったため、
これを批判する立場の配列、
TRONカナ配列、飛鳥配列、シン蜂蜜小梅配列、
その他親指シフト系と言われる、
「二つの親指キーの同時打鍵でカナを出す配列」
などでは、配字がより工夫された経緯がある。
計90キーをどのように整理するか、
という考え方の違いが、
各配列の思想の差になっていて、
それは富士通の親指シフトより、
随分と洗練されて進化している。
と、いうことで、
親指キーを見て「親指シフトみたい」
という人は、
親指シフトについても無知だし、
「親指をタイピングに活用しよう」
というフィロソフィーにも無知だと思う。
僕は親指4キーくらいの同時打鍵配列を作れないかなあ、
と時々夢想したりする。
あるいは、親指を3キーずつ持ち、文字キー30キーのみの、
36キーしかないMiniAxeを常用しているので、
常に親指を活用する日常を送っている。
ついでにいうと、
親指1キーシフト方式(同時打鍵でなく、通常のシフトと同じ方式)の、
薙刀式を使っている。
左右の別を考える必要がなく、USキーボードでもどんなキーボードでも実装できるのが、
特長だったりする。
36キーのMiniAxeでいえば、
親指6キーのうち、2キー(左右どっちも)をそのシフトキーに当てて、
2キーはレイヤーキー、
残り2キーをCtrlとWin(Mac時はCommand)に割り当てている。
親指を活用しよう。
それ自体は人間の手とキーボードの構造が変わらない限り、
永遠に利用できるフィロソフィーだと思う。
あとは、
その利用の仕方で流派が分かれる。
親指シフトは、2キー同時打鍵と同手/逆手の派閥、
というだけにすぎない。
そしてそれは、古くて効率が悪い配列だと、
僕は感じている。
親指シフトの動画がほとんど出てこないことが、
その根拠だ。
親指の活用の仕方は、もっと洗練することができると思う。
数々の自作キーボーダーたちが、
それを今模索し始めたばかりだ。
これまでは物理キーボードは買うしかなかったが、
いまや作ることができる(物理的にも、プログラム的にも)からだ。
僕はその恩恵を受けつつ、
薙刀式という自作カナ配列を使って、執筆を便利にしているわけだ。
2022年02月18日
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