2022年04月20日

道具と目的

エンジニアであるびあっこさんのツイートから。
> たのしい人生 (びあっこ)@Biacco42
> 「プログラミングができる」というのは「ある言語の文法をなんとなく知っている」ことではなく「目的を達成するために何らかのプログラミング言語と計算機でそれを表現できる」ことだけど、絵も文章もそうなんだよなぁ。人らしいなにかが描けるだけでは意味がないし、日本語が話せても小説は書けない。

プログラミング言語、絵、文章、空手の形は、道具。
目的が達成できるかが重要で、
道具は重要ではない。

でも、道具をマスターするだけでいっぱいいっぱいで、
目的を見失うことがよくある。


脚本は、ある種独特の文法の文章だ。
日本語で書かれてはいるものの、
小説よりも独自のスタイルを持っている。

柱(シーン)とト書きとセリフで構成されること、
柱は場所と時間を書き、いわば撮影場所を示すこと、
ト書きは現在形で書き、カメラが撮影できるものに限ること、
セリフは誰が言うか明記して、テンポや抑揚を意識すること、

などが小説と違う点だろうか。
カメラが撮影する前提の、
三人称視点であることは、
強調しすぎてしすぎることはない。

「…と思う」「…と考えて」「…といったつもりで」
などはカメラで撮れないため存在しない。


こうした独特の道具に慣れるには、
「他人がすでに完成したもの」を分解して、
どんなパーツで構成しているか、
を学ぶのが早道だ。

他人の書いたプログラムを解析することで、
「この目的を達成するには、
こういうパーツをこう組み合わせるのか」
と理解する。
「じゃあこう書けばこういう目的を達成できるのでは?」
と、道具と目的の差異を試しながら理解できると思う。

他人の描いた絵を模写するのは、
比較的中期の訓練だ。
一通りデッサンやタッチが出来るようになったら、
「他人がこうしたもの」を再現して理解するのだ。
デッサンや構図や線の使い方、
色使いや光や影の捉え方など、
学ぶことはたくさんある。
一つ一つの道具と、目的の関係を理解するわけだね。

そういえば写真の世界でこれをあまり聞かないね。
二度と同じ写真が撮れないからかな。
レンズの選択、カメラの高さ、アングル、
光の読み方やライティング、フォーカス、
人物にどういう芝居をさせるか、
どういう現像をするか(トーンカーブやカラー)、
なんてことを再現すると、
道具の使い方に習熟し、
なぜその目的のためにその道具をチョイスしているか、
理解しやすくなると思うがね。

他人の小説を模写するのも、
文章修行でたまに聞くね。
オススメは手書きで、
漢字とひらがなのチョイスや、どこで句読点を打つかのリズムまで、
手書きならば理解できる。
大きな構成から水際の表現技法まで、
その目的のためにその道具を使うチョイスを学べる。

他人の組み手を再現して、
ここにこの形の技を使ってるのか、
と理解することはまれによくある。
僕はプロじゃなくてただの格闘技好きだから、
場面程度でしかやらないけど、
マジでやるなら試合開始から決めるまでを、
完全再現してもいいと思うんだよな。
まさに肉体で理解できそうだ。

将棋でもそうだよね。棋譜の暗記はまさにそういうこと。



じゃあシナリオは?

出版されているものが殆どないことが、
シナリオライター育成の課題だと思う。
模写ができないんだよね。

月刊「シナリオ」「ドラマ」の二誌がある。
実際に使われたシナリオの採録雑誌だ。
これを模写する手があるんだけど、
なんか載ってるやつのチョイスが微妙で、
あんまり勉強にならなかった気がする。
最近は知らない。
鬼滅の刃のシナリオとか載せればいいのに。
少なくとも日本アカデミー賞の脚本賞は、
候補も含めて全部採録するべきだと思うがね。
交渉力がないんだろうな…

ということで、
我々がそうした道具と目的のことを理解するには、
「名作映画をシナリオに起こす」
をやるしかないのだ。

まあ映画館でひたすらやる時代に比べれば、
自宅で一時停止と巻き戻しができる環境は、
充実してるといえるだろう。

会話の切り返しを真似するだけでも勉強になる。
ト書きをどう書くべきか考えるだけでも勉強になる。

あるいは、
全体の目的に対して、
どういうシーンで構成されているのか、
地図を書くのもよいだろう。

これを5本フルにやるだけで、
大変な勉強になると思うけどな。

ひまな大学生なら、20本くらいやるといいよ。
どんな脚本論より、
実践的な勉強になるんじゃないかな。


ハサミとノリが使えるだけじゃダメなんだ。
ノッポさんみたいにならないとダメなのさ。
で、ハサミもノリもマスターしてないのは、
そもそも話にならないわけだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:18| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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