最近のラノベで開発された表現に、
「「「なんだって?!」」」
なんて「」を重ねて、全員が同時に同じ台詞を言う表記法がある。
脚本では、
AとBが同時に「入れ替わってる?!」
A、B「(同時に)愛してる」
などのように、「同時に」を明記することが多い。
こうした異なる人が同時に同じことをいうのを、
ユニゾンという。
ユニゾンは音楽の専門用語で、
ハモるの対義語だ。
複数の人がそれぞれ和音のそれぞれを担当する、
ハモり、コーラスと違って、
みんなが同じ音を出すことを言う。
AとBがハモって「なんでやねん!」
ってことはないよね。
どっちが上パートでどっちが下パートか、
揉めなきゃいけない。
日常用語では、
ハモった、被った、
なんてな表現をすることもあるが、
ややこしいので、
映像業界ではユニゾンということが多い。
ハモと区別するんだね。
さて、
専門用語はどうでもいい。
問題は、
「なぜ同時にいうか」だ。
その理由がなければ、
シナリオではない。
そうでなければ単なる偶然でしかないからだ。
同時に驚くのは、
みんなにとってそれが衝撃的だから、
思わず同じリアクションを取ってしまう、
ということだ。
これはまあ表現としてわかりやすい。
そのリアクションを引き出した何かが、
ものすごいことを示している。
(そこまで大したことなかったら意味がない。
もちろんそれを逆用して、
しょうもないことでも全員がユニゾンで驚いてくれると、
なにかのコントになるかもね)
「入れ替わってるー!?」
は、
お互いが起っていることを認識する、
対称性が面白いわけだね。
全く意見の異なる二人が、
たったひとつだけ合意する、
みたいな表現にも使える。
さんざん揉めといて、
「ラーメン食いてえ」とユニゾンすれば、
なんだかんだ言って二人は共通点がある、
みたいなことになる。
先日書いたシナリオでは、
さんざんもめて、もう辞めようぜ、
というニュアンスの時に、
じゃあ辞めるんですかとなり、
無言の間が続いた時、
警備員がやってきて「ここもう閉めたいんですけど」と言われるが、
二人同時に「もうちょっとだけいいですか?」
とユニゾンで言ってしまい、
継続の意思を図らずも確認して、
思わず笑ってしまう、
という緊張から緩和のシーンを書いた。
単純なことだけど、
二人の真の意思が同じであることを、
第三者が石を投げる方法で確認させたわけだ。
言う、というユニゾン以外にも、
動作、アクションのユニゾンがある。
「死んでも構わんやつだけここに残れ。
ただしあの宇宙人どもを殺せる名誉を、
真っ先に得られるぞ。
逃げてもいずれ宇宙人に地球は全滅させられる。
早く死ぬか後で死ぬかの違いだ。
ただしここに残れば、やつらを殲滅させるチャンスがある。
私と共に残る者は?」
と隊長が聞き、
部下が全員手をあげるシーンなんかは、
よくあるけどアツイシーンだよね。
クリスマスプレゼントに、
相手の大事にしているものの役に立つものを買うために、
自分の大事なものを売ってお金をつくる夫婦の話、
「賢者の贈り物」は、
愛は対称性があるから美しいことを描いている。
それは偶然ではない。
人の意思なのだ。
そこにドラマがある。
ユニゾンは簡単な手法だけど、
うまく使えば新しい場面をつくれる、
小細工道具のひとつである。
小粋な使い方のショートフィルムなんてのは、
小道具の使い方を覚えるのにちょうどいいぞ。
2022年05月22日
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