2022年05月22日

ユニゾン

最近のラノベで開発された表現に、
「「「なんだって?!」」」
なんて「」を重ねて、全員が同時に同じ台詞を言う表記法がある。

脚本では、
AとBが同時に「入れ替わってる?!」
A、B「(同時に)愛してる」
などのように、「同時に」を明記することが多い。

こうした異なる人が同時に同じことをいうのを、
ユニゾンという。


ユニゾンは音楽の専門用語で、
ハモるの対義語だ。

複数の人がそれぞれ和音のそれぞれを担当する、
ハモり、コーラスと違って、
みんなが同じ音を出すことを言う。

AとBがハモって「なんでやねん!」

ってことはないよね。
どっちが上パートでどっちが下パートか、
揉めなきゃいけない。

日常用語では、
ハモった、被った、
なんてな表現をすることもあるが、
ややこしいので、
映像業界ではユニゾンということが多い。
ハモと区別するんだね。


さて、
専門用語はどうでもいい。

問題は、
「なぜ同時にいうか」だ。
その理由がなければ、
シナリオではない。
そうでなければ単なる偶然でしかないからだ。


同時に驚くのは、
みんなにとってそれが衝撃的だから、
思わず同じリアクションを取ってしまう、
ということだ。
これはまあ表現としてわかりやすい。

そのリアクションを引き出した何かが、
ものすごいことを示している。
(そこまで大したことなかったら意味がない。
もちろんそれを逆用して、
しょうもないことでも全員がユニゾンで驚いてくれると、
なにかのコントになるかもね)

「入れ替わってるー!?」
は、
お互いが起っていることを認識する、
対称性が面白いわけだね。

全く意見の異なる二人が、
たったひとつだけ合意する、
みたいな表現にも使える。
さんざん揉めといて、
「ラーメン食いてえ」とユニゾンすれば、
なんだかんだ言って二人は共通点がある、
みたいなことになる。


先日書いたシナリオでは、
さんざんもめて、もう辞めようぜ、
というニュアンスの時に、
じゃあ辞めるんですかとなり、
無言の間が続いた時、
警備員がやってきて「ここもう閉めたいんですけど」と言われるが、
二人同時に「もうちょっとだけいいですか?」
とユニゾンで言ってしまい、
継続の意思を図らずも確認して、
思わず笑ってしまう、
という緊張から緩和のシーンを書いた。

単純なことだけど、
二人の真の意思が同じであることを、
第三者が石を投げる方法で確認させたわけだ。


言う、というユニゾン以外にも、
動作、アクションのユニゾンがある。

「死んでも構わんやつだけここに残れ。
ただしあの宇宙人どもを殺せる名誉を、
真っ先に得られるぞ。
逃げてもいずれ宇宙人に地球は全滅させられる。
早く死ぬか後で死ぬかの違いだ。
ただしここに残れば、やつらを殲滅させるチャンスがある。
私と共に残る者は?」
と隊長が聞き、
部下が全員手をあげるシーンなんかは、
よくあるけどアツイシーンだよね。

クリスマスプレゼントに、
相手の大事にしているものの役に立つものを買うために、
自分の大事なものを売ってお金をつくる夫婦の話、
「賢者の贈り物」は、
愛は対称性があるから美しいことを描いている。


それは偶然ではない。
人の意思なのだ。

そこにドラマがある。

ユニゾンは簡単な手法だけど、
うまく使えば新しい場面をつくれる、
小細工道具のひとつである。
小粋な使い方のショートフィルムなんてのは、
小道具の使い方を覚えるのにちょうどいいぞ。
posted by おおおかとしひこ at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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