2022年05月27日

作曲をするとわかること

時間軸を持つメディアを理解するには、
絵をかいたり彫刻をすることは害悪だ。
勉強する早道は、音楽をやるとよい。

とはいえ、難しいことをする必要はない。
鼻歌作曲に挑戦したまえ。


口楽器でいいから、メロディだけでいいから、
ある気分をうたう曲をつくってみよう。

録音しなくていい。後世に残さなくてよい。
二度と再現できなくてもよい。
ポップス調でもいいし、
映画音楽風でもいい。
ハンスジマー風でもいいし、ジョンウィリアムズ調でもよい。
ロックでもボイパでもなんでもいい。
口真似で十分だ。

誰かに聞かせる必要はない。
これはあなたが時間軸を持つメディアを作ることの、
経験を積むためにやる。



一曲できた? 再現できなくていいよ。
じゃあもう一曲。

楽器を変えてもいいし、曲調を変えてもいいし、
同じものだけどアレンジ違いをつくってもいいぞ。
名曲である必要はない。なんとなくでいい。
短くても長くてもいい。

こうして何曲か作る経験をしよう。
そうすると、わかってくることがある。


・構成があること
・フレーズがあること
・パンチインできること
・幾通りもあり得ること
・落ちまでいかないこともあるということ
・ドライブ感
・テンポがあるということ
・それが何を意味しているか、なんとなくあること

こんな感じかな。解説してみよう。


・構成があること
ある流れがある。流れが切れて、次の流れになる。
そうしたブロックごとに曲というのは分けられる。
それがいくつあるかわからないが、
構成というのは、そのブロックについて考えることだ。
起承転結である必要もない。
ブロックが何個かあり、
ブロックの中には部分があることがわかればよい。

・フレーズがあること
メインになるフレーズがあるだろう。
キャッチーな、あるは目立つ何かだ。
それは飽きない限り、何度か曲中で使えるよね。
ギャグでいうと天丼、クラシックでいえば主旋律、
ポップスでいうとサビ(ちょっと違うが)だね。

・パンチインできること
音楽の専門用語。
ある流れが気にくわないとき、
ある点から別の流れにリテイクするとしよう。
そのとき、
その点からあとの流れをいきなり入れてもうまくいかないので、
ちょっと前から流れを出して、
「ここ」ってところから新しい流れに切り替え、
新しい流れに行くことがある。
この録音手法をパンチインという。
テープにパンチでパチッと入れて次のテープをつなぐイメージだ。

これは磁気テープを使っていたころは、
一発で前のものが消去されてしまうから、
覚悟がいる方法であった。
鼻歌作曲では、
前の流れは新しい流れが来たら忘れてしまうから、
ある意味アナログ時代のやり方に近い。

パンチインは、流れの修正技法として合理的だ。
つまり、
「今の流れは前の流れから影響を受けている」ということを理解できる。


・幾通りもあり得ること
数学のように、唯一の答えが、作曲にあるわけではない。
プロポーズや告白の言葉が、数学のように一意解で決まっているわけではない。
その場の流れで、ある流れさえ起こせればよくて、
そのやり方は一通りではない。

あるやり方があるやり方よりグッとくることはあるが、
それらが点数付けされることはない。
どっちがいい流れか判断するのはセンスに過ぎない。
ある程度いろんな流れを知っていないと、それは判断できないよね。
で、唯一じゃなくて、ベストもなくて、
いい回答がいくつかあるだけだ、
ということに気づくだろう。

・落ちまでいかないこともあるということ
これは脚本を書いていてもよく経験することだ。
いい感じで鼻歌を始めたはいいが、
着地点がわからず、放置することもよくある。
ついでに、「強引に終わらせる」ことも学べるかもしれない。

・ドライブ感
ドライブ感とか、乗りといわれるものはどこからくるのだろう。
おそらく、作者の感情に一致するのではないか。
「私は楽しくてしょうがない」ときにしか、
楽しい曲はつくれないし、
「私は疾走したくてしょうがない」ときにしか、
疾走感のある曲はつくれないし、
「私は悲しくてつらい」ときにしか、
悲しい曲はつくれない。
その気分や動作と、曲調はたいてい一致する。

もし自分がそういう気分じゃなくても、
そういう曲をつくりたいならば、
そういう気分に自分をもっていかないと、
うまくつくれないだろう。

ミュージシャンがドラッグをやるのは、
その気分コントロールのためだ。
それは帰ってこれなくなるだけだが、
適当な鼻歌作曲ならその責任はないので、
「出来ないこともあるよ」と逃げればよい。
しかしそれをプロとして作り続けることの偉大さを、
少しでも知ることができるよ。


・テンポがあるということ
時間軸にはテンポがある。
絵や彫刻にはないものだ。
テンポが速くなれば気分は高揚したり不安になったり、
テンポが落ちれば落ち着いたり退屈になったりする。
同じ曲でもだ。
テンポを変えることは気分を変えることでもある。
同じ曲の中で意図的にテンポを変えることもある。
(近代作曲理論ではあまりやってはいけないことらしいが、
芝居ならば当然テンポを変えてセリフをいうことは普通だ)

テンポが感情をコントロールすること。
テンポはつまり、音符/時間でコントロールできる。
音符を増やしたり減らしたりすると、テンポが変わる。
音符数が同じでも時間(尺)が変われば、
テンポが変わる。二つの要素でコントロールする。

・それが何を意味しているか、なんとなくあること
悲しいとか、楽しいとか、
怒りとか、気分上々とか、秘密の話をしようとか、
恐怖とか、
全体が何を意味しているのか、
はっきりしている場合と、
はっきりしていない場合がある。

はっきりしているときのほうが強く、いい曲であることが多い。
あいまいなやつや、いろいろ変わりすぎて訳が分からないやつは、
あんまりいい曲じゃない。
つまり、「よくわかるやつ」がいい曲だ。

それがテーマと呼ばれるものであることは、
脚本を書いてれば気づくだろう。



絵を描くだけの人や、
建築をやる人は、
時間軸のあるメディアのことをよく知らなったりする。
我々は、絵よりも音楽に、仕事が近いんだぜ。
posted by おおおかとしひこ at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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