なんだろうね。本能なのかね。
誰か大事な人をなくしたとき。
部屋を引き払って引っ越すとき。
何かが終わって、
何かを始めようとするとき。
じゃあねと手を振って別れて、
でも最後に後ろ姿でいいから見たいなと思うとき。
人は振り返る。
物理的に振り返る場合もあるし、
抽象的に振り返る、
つまり思い出を走馬灯のように思い出す場合もある。
人生でも、
物語でも、これはおなじだ。
エンドロールに至ったとき、
人は振り返る。
冒頭から現在までの、このストーリーを。
その人たちとの出会いや、
途中の色々や、
最後にどうなったかを。
それまで住んでいた場所から引っ越す時に、
「この街はこうだったな」とまとめに入る。
デートが終わって帰る時に、
今日の反省点を反省し始めたりする。
会社を辞める時、
何を思ってここに入ったんだっけ、
などと思い、現在地点との距離感を確認する。
人は終わる時、まとめに入る生き物だ。
じゃああなたのストーリーは、
どうまとまる?
起承転結の順番でまとまるだろうか?
そうではない。
引っ越す時に、
この街が起承転結として記憶されるわけではない。
まとまるのは、
「この街は俺にとって○○○だったな」
みたいなことにだ。
よく記者がやるあほな質問、
「あなたにとって○○を、一言で言うと?」
みたいなやつに似ている。
一言にまで圧縮することを、
まとめに入るというのではないか?
さて。
もう何を言おうとしているのか、
わかっただろう。
テーマである。
あなたのストーリーは、
終わった瞬間、まとめに入られてしまう。
どんな工夫や思いつきやアイデアでも、
そんなディテールは忘れられて、
「この映画とは○○である」
と言う風に記憶の棚に収められる。
出来の悪い映画なんか、
たとえば「ヘルタースケルター」は、
沢尻エリカの体当たりセックスシーン、
(しかも微妙)として記憶される。
シンゴジラは、僕の記憶の棚には、
「在来線爆弾の映画」として記憶されている。
あなたは、どう残すつもりだったか?
そしてそれは、結果的にどう残ったか?
エンドロールの間、
そのあと移動して喫茶店で誰かとその映画を話す時間、
あるいは後日しばらく、その記憶にひたる時間。
あんな場面があった、
こんなセリフがあった、
こんなトリックがあった、
などなどのディテールはいずれ消えて、
一言にまで圧縮される。
それはなんだろう?
あなたは自分のストーリーのそれは、なんだと思う?
誰かに聞いてみて。
その脚本を読んだ人に聞いてみて。
同じものが帰ってきたかな。
違うものかな。
おそらく、まったく違うものだと思う。
それは、
あなたのストーリーがあなたの思うように出来ていないか、
仮にできていたとしても、
人はそれを記憶するとは限らないことの、
ふたつの現象からできている。
前者の場合、リライトしなければならない。
しかし後者の場合は、
鑑賞の自由を保障しなければならない。
岡本太郎は、誤解の満貫色となれと言ったという。
誤解される、つまり自分のまとめと、
他人のまとめは違う前提であることを、
覚悟しながらやっていけということだ。
たぶん、日にちが経てば経つほど、
その映画のテーマは、
たったワンシーンにまとまると思う。
それはなんだろう?
クライマックスか、ラストシーンが、
理想だよね。
つまりその重要シーンは、
「まとめ」なのだ。
あなたの話は、
どのシーンがまとめだい?
そのシーンがまとめになるように、
理路整然と話してきたかい?
無駄や寄り道をせず、スムーズに無理なくそこへたどり着けたかい?
そうなってなければ、
そうなるようにするべきだ。
それは、
焦点を追い、感情移入し、
いっときも退屈せず夢中にこの話を見ることとは、
まったく別の次元で起こることだ。
日々暮らしていた街から出る時に、
個々の出来事や店とかのディテールではない、
別の次元から考えることと同じである。
つまりあなたは、
個々の細かいことを制御しながら、
別の次元でもシナリオを書いていることになる。
あなたが死ぬ時、
自分の人生はなんだったと思う?
それと同じことを、
シナリオを書き終える時にやる。
長い人生と高々2時間の差はあるものの、
本質はそう変わらないと思う。
それくらい、必死で書いてるからね。
あなたはこの時点では死なないが、
シナリオは最後のページで死ぬ。
そのあとのエンドロールで、
一体それはなんだったのか、
考えなさい。
そして、それがあってるのか、
それとももっと別のものがふさわしいのか、
考えなさい。
ものすごく客観的にならないと、
これは不可能だと思う。
他人のそれなら、いくらでもまとめられるもんな。
そういえば、
ドラマ風魔の12話、
壬生が姉上を助けて再会し、
陽炎を追って出る時、
一瞬だけ振り返る。
それが姉弟の最後の別れになるんだけど、
あの振り返りは、つまり走馬灯なんだよな。
一瞬だけど永遠みたいな。
あのシーン大好きなんだよなあ。
あの時壬生は男になったんだよ。
つまり人生を振り返り、
壬生の人生の意味が確定したんだ。
2022年05月28日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック