2022年07月01日

構造の美しさ

建築物だと、左右対称であるとか、
ピラミッド型とか、黄金比とか、
わかりやすい構造上の美しさの指標がある。

シナリオにも構造上の美しさがあるのだが、
見た目ではわかりにくい。字しかないし。


それは、見ている時、
見終えた時にはじめてわかること。

つまり、頭の中にストーリーが転送された時に、
はじめて掴めることである。

文字面の美しさのことではないのだ。
たとえばページ終わりできっちりシーンが終わってると、
見た目は美しいが、ストーリーの構造上の美しさとは、
全然関係ない。


構造上の美しさとはなんだろう?

たとえば。

・冒頭に引いた伏線が、
 最後の最後に回収される
・対比がことごとく決まっている
・リズムが良い
・一見関係ないと思われたサブプロットが、
 実はメインプロット解決の鍵であった
・リバーサル(180度状況が変わること)がキレが良い
・無駄なシーンなどなく、
 すべてがクライマックスに向かって、
 焦点をクリアに維持したまま噛み合っている
・どんどん加速する
・メインテーマとサブテーマを語る分量がちょうど良い
・予想できない前のシーンの使われ方、
 しかしそれこそが必然性をもって理解できる
・すべてのパーツは計算通りという強い意図を感じられる

のようなものだろうか?

ドイツっぽいってことなのかな。
そういえば近代音楽はドイツ文化圏のオーストリアウィーンで、
発達したんだな。
楽譜による構造主義的な何かなんだろう。

建築物の構造と異なり、
時間軸を持つものの構造は、
静止した構造ではなく、
変化していく様の構造を意味する。
だから、
ざっくりいうと、
「理解してて気持ちいい」が、
構造的に美しいということである。
左脳的なのかな。

よくできた授業や講演なんかも、
話がスルッと入って気持ちいい。
それは、「わかりやすい」ということなんだけど、
わかりやすさは、
話題の適切な切り取りだけでなく、
説明の構造が美しくなっているのだと思う。

無駄がなく、すべてのパーツがちょうどよい大きさで、
綺麗に切り取られてて、
それらがきれいに腑に落ちるように調整されている感じ。

これを捉える言語は存在しないっぽいな。

でもなんとなく分かると思う。

下手くそな説明やシナリオを考えれば、
その逆だろう。

つまり、

・話題が一定せず、今何を話してるかよく見失う
・話がどこにいくかわからない
・断片的でまとまりがない
・途切れて放置された伏線がある
・伏線もないのに突然飛躍する
・一方的で強引
・頭の中に、議論するべきモデルが構築されない
・それをめぐる立場が整理されていない
・対比がなくてぼんやりしている
・語りがぎこちなく、話が進んだり後退したりする
・語り手が話を支配していない感じがする
・オチが落ちてない感じがする

などだろうか。

隅々まで神経が行き届いていれば、
自動的にストーリーの構造は美しくなるはずだ。
人間の神経というのは、そのように出来ている。

しかし、隅々まで神経が届いていない、
その話を扱うのにあっぷあっぷしていると、
構造上の美しさが失われて、
スムーズでなくなるのだと考えられる。


だから僕は、
短編(1分でもいい)からはじめよ、
とよくいう。
15分や30分までは、
まあなんとか要素をコントロールできる。
だけど、60分や120分になると、
手に持つには大きすぎて、
なかなか難しい。
手からボロボロと要素がこぼれがちだ。

これは慣れていくしかない。
ていうか、慣れによって、
あなた自身のキャパを増やしていくしかない。

その尺で話す話として、
もっとも無駄がなく、
構造上美しい話ができたとき、
最も情報量が凝縮された、
わかりやすいものになっているだろうね。



リライトを重ねすぎたり、
切り貼りの激しいものは、
話がスッと入ってこない、
構造上美しくない状態で放置されていることがよくある。

それを再びエッジを立てて、
不要なところは丸めたり捨てたりして、
小骨を除いていく作業は、
とても骨がおれるものだ。

そのストーリーを理解する、
最短手順はなにか?
もっとも無駄がないパーツの組み方はなにか?

そうしたことが、
構造上の美しさと関係してくると思う。



もっとも、これは美しさに関する議論だ。
それが面白いかどうかと別次元の話である。

だけど、面白い話はたいてい美しい構造をしている。
わかりやすいからね。
美しいからといって、おもしろいとは限らない。

だけど、面白い話を美しく整えると、
急にその面白さが理解されるようになることがある。


これの面白さってなんだっけ?
と、うまく抽出できるならば、
そのストーリーを美しく整え、
わかりやすく提示できるようになるだろう。

そもそも自分のストーリーの、
何が面白いのかわかってないならば、
それはうまくいかないが。
posted by おおおかとしひこ at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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