脚本的にこの映画の素晴らしいところは、
何度も描かれる逆転である。
このことによって、
我々はグイグイと物語世界にひきこまれ、
気がつくとトムクルーズと一緒に、
Gに耐えるべく歯を食いしばっている。
たとえば。
もちろんネタバレで進行。
冒頭がまず素晴らしい。
10Gを超える飛行、
少佐が来る前にやっちまおうというマーヴェリックの、
無謀さ(チームの解散を守るためだけど)がよい。
「まだ来る前だ」って短いセリフで、
「少佐がプロジェクトのストップを言い渡しに来る」
というのを小気味良く逆転するのが大変上手い。
そのあとに爆発したあとの田舎(テキサス?)のダイナーで、
「ここはどこだ?」のヘンテコな問いに対しての、
宇宙人と思い込んだ子供の「地球」という答えがパーフェクト。
緊張と緩和とはなにか、ということがとてもよくわかる。
このセリフが仮に思いついたとしても、
その直前、入ってきて水を飲み干すまでの緊張の持続は、
素晴らしいものがある。
この水を飲む小さな部分の挿入は、
かなりの手練れの技だと思った。
ここまで何分?15分?時計を確認したかったな。
その後、何度も逆転がある。
クビかと思ったら、アイスマンにトップガンに招聘される逆転、
この実現困難なミッションを「出来るだろうか?」
と考え始めたら、君がやるのではない、教える係をやれ、
と言われる逆転。
そう、80年代のアメリカ軍を舞台にした映画ってさ、
「愛と青春の旅立ち」も、
「トップガン」も、
「フルメタルジャケット」も、
それを踏まえた90年代の「スターシップトルーパーズ」も、
それらの影響下にある日本の漫画、
「11人いる!」も「度胸星」も「宇宙兄弟」も、
「学校訓練もの」なんだよね。
この「型」を踏まえた本歌取り的な教官ミッションというアイデアは、
思わず唸ってしまった。
逆転に戻ろう。
低空飛行を怒られたあとに、
低空飛行作戦の申請書を出す逆転の小気味良さ。
元恋人?とセックスしたときに窓から逃げたと思ったら、
娘の目の前という逆転的なコメディもよかった。
こういうコメディリリーフの使い方がとても上手い。
逆転の白眉はなんだろう。
ミッションを外されたマーヴェリックが、
無断単独飛行で、
生徒は誰も出来なかった空中軌道を、
一人で成功させてしまうところだろう。
不可能ではないと初めて見せたことで、
パイロットとしてもアサインされるパートは、
大敗北からの大勝利への、
最大のリバーサルポイントだろう。
これまでグースJr.との確執を丁寧に描いてきたことや、
「母親が止めたことを、本人には言わない」ことなどが効いて、
僚機のパイロットを彼に指名したところで、
「もうどうにでもして!」
って観客はなっている。
ここまで来れば、観客との完全な信頼が出来ている。
何をしても面白いに決まってるもんね。
細かい無理筋、たとえば、
グースJr.との揉め事の中に、
急に割って入ってアイスマンの死がもたらされるとか、
そこはまあ許したろってなるよね。
そうそう、アイスマンのシーンもすごく良かった。
ずっとラインでやり取りしてるからずっといたような気がしたんだけど、
あいつの出演ワンシーンなんだよな。
にも関わらず、強烈な印象だった。
奥さんとのやり取りからはじめてじらし、
もう病気が進行していて、
喋るのもつらいという前振りをしっかりやっておいての、
タイピングとのやり取りが胸を打つ。
とても短い言葉が上手。
タイピングすら辛いから、なるべく短くて強い言葉を選んでるのも、
説得力がある。
この簡単な短い言葉で、アイスマンは大事なことを伝えようとしている。
しかも繰り返しタイプするのではなく、
一度打った言葉をもう一度見せて反復させるのも上手かった。
そこからの、
「立って話す」という芝居よ。
これも一種の逆転だ。
そう思わせておいて逆をやるわけだからね。
アイスマンが命をかけて言いたいことがある。
我々はその一言一言を、絶対に聞き漏らすまいと思う。
本当によく考えられた台本だった。
(そのあとの、どっちがナンバーワンパイロットか、
って緊張からの緩和もうまいよね)
たったワンシーンだぜ?
こんなホン書けねえよ。
沢山の人のアイデア出しの末にここまで集約されたことが感じられる、
「続編に出た年老いたライバル」の、
一番いい使い方を見た気がした。
もうこれだけで胸いっぱい、
あとは息子との和解でおしまいだろ、
と破壊ミッションに身を任せて見てればいいわけだ。
だけどさらにストーリーはツイストする。
グースJr.を助けたマーヴェリック、
撃墜されて敵陣に落ち、
ヘリに殺されそうになったのを助けたのは、
戻ってきたグースJr.だ。
この逆転の連続は素晴らしかった。
森の中で再会した男たち、
なんでだお前を助けた意味ねえだろと父親面するマーヴェリックに、
「考える前に動けと言ったのはお前だ」と、
グースJr.は返す。
この瞬間、二人は男同士として理解し合えたんだよな。
もう一生の親友だろ。
素晴らしいシーンであった。
なお、
マーヴェリックの父親は謎の死を遂げていて、
実は敵陣で仲間を助けて死んだんだよね。
それを踏まえた上での名シーンであったことよ。
そして本作最大のファンサービスというかなんというか、
F14に二人で乗り込むシーンの、
ワクワク感ったらありゃしない。
「待ってました!」だよな。
そのために「旧式のF14が配備されていて」なんて小さく伏線を貼り、
発進シーンの困難をつくるために、
あれだけのトマホーク滑走路破壊をやり。
舞台は整いました!の最高の瞬間だった。
このためだけに、
ミッションでコンビ組むんじゃないんだ、
というガッカリを一回挟んでるんだよね。
「ガッカリしたでしょう?でも分かってますよ」
とニヤリとする作者にしてやられた、
「もうなんでいいから好きにして!」の状態になるわけだ。
あとはお約束通りのドッグファイト。
どこが合成なのかまったくわからない、
前作を超えるファイトシーンであった。
トムクルーズはスタント全部やるはずだけど、
まさかコクピットでマジで飛ばしてないよな、
ってハラハラしながら見ていた。
キャノピー脱出が今回も動かなくてハラハラさせるのも上手かったなあ。
F14ってそこがポンコツなのかしら。
(別の映画でF14が出てきたら、「脱出装置が壊れるんだろ。
トップガンで見たぜ」って言われかねない風評被害。笑)
絶体絶命を救うのは「独断専行をする」
とずっと伏線をはってあった、
アイスマンに似たあいつだ。
オーディションで、グースJr.を争ったらしい。
いや、でもオイシイ役だったな。
生徒たちにもう少し活躍の場を与えてやりたかったが、
そうするとあと15分は伸びそうだから、
まあこんなもんか。
あと15分長くても全然「どうにでもして!」状態だけどね。
観客を不満にさせるムチ、
待ってましたの飴、
そのバランスが巧みであり、
そしてそのリバーサルを、
劇的に行うこと。
その計算が全ての脚本であったように思う。
こんなしょうもないブログ読んでる暇があったら、
劇場で10回見て、
ストップウォッチ(光らないやつで、他の人に迷惑がかからないやつね)
を持ち込んで、何分に何が起こってるか、
書き起こしたほうがいいぞ。
構成を勉強する上で、非常に参考になる、
教科書的な脚本であった。
ハリウッド映画ってさ、
王道を守りながら、
ちゃんと王道を更新してくるんだよ。
邦画なにやってんだろって、
ちょっと悲しくなったよ。
いや、ちゃんとやれてるのもあって、
僕が見てないだけかもしれない。
だって宣伝が悪くて伝わってこないんですもの。
まあ愚痴はいい。
現在トップの脚本、分析しない手はないぞ。
2022年05月30日
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