2022年08月31日

熱量

人を動かすのはたぶんこれだと思う。

熱量のない話はたぶん面白くない。
こんなすごいこと、こんなおもしろいこと、
こんか猛烈ななにかがあるんだぜ、
が、物語の原動力ではないかと思う。


それはざっくりいうと、
登場人物の動機じゃないかと思う。

動機に熱量があれば、
その熱でその人物は動き続け、
失敗しても立ち直る。
逆に熱が失われた時が、
折れるときで、敗北する時じゃないかな。

猛烈な動機は、狂気の行動を生む。
普通ならやらないことを、
めちゃくちゃに継続する。

それが、他の人から見て、娯楽になるわけだ。


なんかつまんねえな、
おもしろいことねえかなあ、
というのは僕らの若い時の口癖のようだった。
(今でもそうか)
それは、熱量を傾けられる何かが欲しくて、
エネルギーを持て余してたのかもしれないね。


僕は昔スト2をやりこんでて、
全国大会の、店舗予選決勝敗退までは行ったことがある。
だからたまにスト5の動画を今でも見たりするんだけど、
eスポーツに洗練される以前の、
あのギラギラした熱量の世界のことを、
現役のウメハラはいまだに語ったりしていることが興味深い。

何もかもがスマートになってしまったスト5よりも、
荒削りで、
「金がもらえるわけでもないのに、
ただただ純粋で、俺が強えというだけの名誉の世界」
のほうが、より純粋で狂ってて面白い、
という話はよく聞くし、
僕もそう思う。

で、たまたまYouTubeのタイムラインに流れてきた、
オゴウクラハシの話がめちゃくちゃに面白かったので、
これって結局熱量のことだな、
などと思っていた。


ざっくり概要を話すと、
ウメハラの先輩で、
いまだにスト2をやり続けている、
オゴウとクラハシの二人が、
ある時から険悪になり十年以上も口をきいてなくて、
それをYouTube番組の中で会わせよう、
という企画からはじまった。

対談の中で、結局二人の仲違いの原因は、
「強さとは何か」の対戦観の違いであることがわかる。
ここがもう強烈に面白いんだよね。

互いに相容れない主張、
どちらかを殺すことでしか証明できないこと。


オゴウのガイルは、「飛ばないガイル」らしい。
波動拳をジャンプして三段を叩きこむリターンを取るのではなく、
待って後の先だけで勝つ戦法だそうだ。
それをクラハシは、
「飛ばないって分かってたらそれ前提に戦略を組み立てられるから、
それって弱いってことなんじゃないの?」と噛みつく。
だがオゴウは、
「それが最適解にたどり着いただけ」と豪語する。

スト2のリュウは、飛ばせて落とすのが主戦法だ。
波動拳で追い詰め、相手が苦しくなって飛んだところを、
昇竜拳で落とす。
つまりオゴウは昇竜拳を封じるならば、飛ばないこと、
という結論に辿り着いていたらしい。
でも飛ばずにどうやってリュウに勝てるというのだ?
そんなバカな。

その主張のどちらが正しいかは、
「実際にやってみる」ことでしかわからない。

ここから対談企画が対戦企画になり、
これはまさに物語の基本形そのものだと思い、
わくわくしながら続きを見て、
決着をこの目で確かめることになる。

(ツイストをウメハラで入れるのも、
非常にうまい中盤だ。
このディレクターはかなり出来る人だ)



問題はその熱量だ。

クラハシは超攻撃的で、
スト2のためならロールパン一個で過ごすことも苦ではない、
典型的なガチオタである。

人生の全てがあの攻撃の組み立てにあるのは、
第一試合の猛烈なキレっぷりを見ればわかる。

オゴウはオラオラ系で、
スト2をやってなければクラハシと交わらない人生だったろう。
「スト2は玉打ち」ということを遥か昔に気づき、
玉打ちを極めるためにサガットを使った。
強すぎて嫌われるサガットだろうが、
勝利のために使う、嫌われる典型だ。

「弱いからやりたくない」と先輩を怒らせた、
求道者クラハシ。
わかりやすい嫌われキャラで、
待ちガイルに徹するのかと思いきや、
緻密に組み立てられた地上戦メインのオゴウのガイル。

二人の主張のぶつかり合いは、
互いを殺すことでしか成立しない。

この熱量は、リアルだから猛烈に面白い。


これはドキュメンタリーではない。
もはやその辺のクソ邦画には描けない、
熱量そのものの物語だ。

BeasTV - 17/7/5 - オゴウクラハシ徹底討論
https://m.youtube.com/watch?v=7bKDCRJEq2M
SF2 Battle of The Gods! オゴウvsクラハシvsウメハラ @ Game Newton Oyama - Part 1
https://m.youtube.com/watch?v=nuB1QogNpTk
SF2 Battle of The Gods! オゴウvsクラハシvsウメハラ @ Game Newton Oyama - Part 2
https://m.youtube.com/watch?v=45KH4ZNsd1M

その熱量はどこへいくのか。
それも含めて物語である。



ここまでの熱量を、
あなたの登場人物は持っているだろうか?
そしてそれはどのように決着するのだろうか?

このドキュメンタリーに、勝てるのか?

このスト2は、ほんとなんだぜ、が面白い。
僕らは、嘘なのにほんと以上に面白い、
を目指すものたちである。

そしてそれは、熱量で比べることが可能だと思う。

ざっくりいうと「ああああああ!」しかいうことがないような状態に、
どう持っていくか、ということだと思う。







ネタバレになるので少し改行。





















完全に勝利を確信したクラハシが、
大昇竜で決めようとして外した場面が、
もっとも印象に残った。

ここからオゴウの後半の怒涛の追い上げになったので、
これこそが流れを決定的に変えた場面だと思う。

もっと簡単な技でも決められたはずなのに、
なぜクラハシは大昇竜を選んだのか?
「完璧に勝ちたかったから」だと思うんだよね。

「勝つためにはなんでもやるべきで、
美学とか言ってんじゃねえよ」って豪語したクラハシが、
「完全勝利」という美学に囚われた瞬間で、
勝負事の悪魔をここに見た感じがする。

オゴウは、クラハシの攻めっ気をいかに利用するか、
に長けていた。
だけど今回はクラハシの前のめりの勢いで勝ったように思う。
前半の貯金がなければ後半どうなったか分からないから、
前半の攻めまくりが、
クラハシの勝利を作ったといえる。

10先だったから貯金で勝てた。
15先、20先、100先だったら分からないだろう。
この戦いの螺旋の面白さこそが、スト2の魔力だ。

この魔力って、
剣豪同士が命懸けでやってた娯楽なんだよね。
命を失わずにデジタルゲームでできるようになって、
この魔力は広まったともいえるね。

そのかわり、体を鍛えて喧嘩に勝つ、
というリアル物語を人は失ったように思う。
このことについては別でいつか論じる。


僕はスト2から4までやってたが、
最近のゲームにない魅力をスト2に感じた。
それは「保険のなさ」だ。

保険がないから今この場面で勝負に出ないと負ける、
という切羽詰まった感じがスト2にはある。
だから真剣の振り回し合いになってて、
それが猛烈に面白い。
ダメージがデカいから、剥き身の剣で戦う感触が楽しい。

投げや地上戦だけで1R取れないダメージ設定の、
スト5にはない魅力だね。

スト5は結局CAをからめたコンボルートに、
いかに帰着させるかだから、
毎度終着点がひとつで飽きるんよね。
それに比べて、多彩な決着を生むスト2のバランスは、
今でも注目されていいと思う。

同じ意味で、バーチャロン1の、
ライデンレーザーとか大好きなんだよな。
その緊張感が、最近のゲームにはない。
(バーチャロンもオラタン以降試合を決めるほどの大ダメがなくなって、
緊張感がなくなった)


緊張しなくてよくなったら、
熱量は減じるのかもしれない。

つまり熱量は、緊張とペアかも知れない。
posted by おおおかとしひこ at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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