いつからかは分からないが、
「敵は美形」というパターンが生まれたような気がする。
物語の敵は権力者である。
主人公よりも強い力を持ち、
その場を支配している者で、
大抵は金持ちで人脈が広い。
それを、かつてはそれ以下だった主人公が打ち負かす
(実力的成長によって)、
というのが基本パターンである。
この「敵」が、
醜いオッサンであるよりも、
美形であった方が見栄えがよい、
というのを誰かが気づいたのだろう。
男だけが見る男の話ならば、
そこはそんな関係ない。
女性人気を意識したやり方ではないだろうか?
僕の記憶する最古の美形敵役は、
巨人の星の花形満かな。
ガンダムのシャアアズナブルもだ。
ボルテスVのプリンスハイネルも一定の地位があるね。
講談の世界では佐々木小次郎かな。
美形は容姿端麗の時点で、
主人公よりも勝ることがビジュアル的にわかりやすいから、
あとは支配力が高ければ、
それだけで敵として妥当なのだろう。
ただこれ麻薬のような効果があり、
美形じゃないと気が済まない、
みたいな病があるかもね。
Zの敵、シロッコは美形?くらいの感じだったし、
ZZの敵、マシュマーに至ってはギャグだった。
シャアに比べて「物足りない」と感じてしまう。
美形敵役は、
「悪は醜い顔をしていて、
正義は美しい顔をしている」
という偏見の、逆だから面白いわけだ。
とすると最古の美形敵役は、
ルシフェル=サタンかもしれないなあ。
悪の象徴として牛や猪みたいに描かれる古典的な悪の中に、
「美形ゆえに人心を惑わす」新しいタイプの悪だったのかもね。
このタイプは「魔界転生」の沢田研二の天草四郎が、
わかりやすい古典だと思う。
時代は降って現代、
ルッキズムがより強くなってきて、
敵はイケメン、美女、
がより強くなってる気がする。
むしろ「醜い人は悪」なんて分かりやすいのはなくて、
「醜いけど心は優しい」がデフォ装備になりつつあるほど。
まあ不細工の心の闇が悪になったなんて、
我々のあまりにもリアルなものを見せられても、
フィクションを落ち着いて見れないから、
そこはあえて避けられているような気がする。
で、
美形敵役には二通りあると思う。
美形だけど本質はクズ
美形だけど芯が通っている
デスノートの夜神月は後者と見せかけて、
最終的には前者に落とすことで、
世間的落とし前をつけた(類似犯罪をふせぐ)ような気がする。
後者はプリンスハイネルのような、
立場や美学は全て通っているが、
もっと大きな組織的な悪に結果的に加担していて、
もしこっち側に生まれていれば、
親友になれたかもしれないのに、
という運命的悪役であることが多いね。
前者のクズイケメンは、
現実に増えている悪で、
いわば小ルシファーなわけだ。
キリスト教はこいつらを肉欲の罪で断罪すればいいのに。
でもこいつらは現実で起こすのは小悪事にすぎず、
物語の悪にしては詰まらない。
なので、
美形敵役にするならば、
運命的悪役であると、一番面白くなるだろう。
リンかけの剣崎順は、
花形満タイプで、
金持ち、自信家、イケメンの三拍子揃った人格者で、
敵というよりはライバルであった。
いつか追いつく目標としてのライバルは、
こうした人物が的確だろう。
(スラムダンクの流川楓は、やや抜けている、
というのが外しポイントとしてうまかった。
スラムダンクが続けば、
花道と流川は別々の道へゆき、
いつか対決する日が来たはずだ)
彼らが権力を持ち、悪に加担することはあまり考えられないからね。
むしろ物語的にはライバルとして協力者になってくれるパターンだろう。
だから、
悪役には三つある。
醜いタイプ(古典的)、美形タイプ(運命的な悪役)、美形クズ。
どれを選ぶかで、
物語の様相はまったく異なると考える。
今、興行上の理由で、
悪役をイケメンにしたいという要望もよくある。
だけどよほどのストーリーでない限り、
美形敵役は若者であり、
世界を支配する権力者であることはない。
せいぜいその辺の人間関係止まりで、
だからチンピラを悪役にしたHi&Lowレベルの、
小さな話になってしまう。
同じ世界観でも不細工悪役を許容すれば、
龍が如くまで行けるのに。
だから美形敵役は、世界のスケールを小さくする枷になりがちだ。
なので、まずは古典的な醜いタイプの悪役を描き、
キャスティングの際に美形役者を当てればいいんじゃない?
って僕は思っている。
2022年09月08日
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