2022年09月14日

釣り餌

どんなに面白くても、これだけコンテンツがたくさんわいていると、
まず見てもらえないという状況が発生していると思う。
じゃあ釣り餌は何か、ということを考えるように自然となってくるよね。


コンテンツが場所に制限されていたころ、
つまりネットがなかったころは、
「その棚にないものはないです」だったから、
その棚だけが世界のすべてだった。

子供のころは毎日テレビ欄を見て、
今夜見るものの計画を立てていたものだ。
「この中から選ぶしかない」から、
その組み合わせを考えることだけを考えていればよかった時代だ。

雑誌もいけてるやつは数誌しかないから、
その中を選べばよかった。
アイドルグループで3人しかいないみたいなことだ。
これだけをチェックしていれば大丈夫だった。

今アイドルグループは48人がデフォになってしまった。
その中から「選ぶ」はできない。
隅々まで検討して、
神の一手にたどり着くようなことはなく、
「パッと見で直感で推しに出会う」しかないような気がする。


多チャンネル時代になると、
少ないニーズも抑えられるようになる、
なんてことが昔言われたが、
その少ないニーズにどうやってリーチするのか、
まで誰も考えていなかった。

つまり、ゴミの山と、宝の区別がつかなくなってしまった。


小チャンネルならば、宝はおのずと絞られた中から選べばよかったから簡単だった。
今の時代、
全員がホリプロのプロデューサーなみの、
アイドル選球眼を持たないといけなくなった。
で、そんなものは面倒なので、
ぱっと出会ったものしか、選ばなくなっているともいえる。


つまり、情報による高度化されたハイコンテクストが、
成り立たなくなりつつある。

ネットに散らばった情報はほとんどがゴミで、
釣り餌がないと、引っかからなくなっている。
どんなに宝だったとしても、ゴミと区別がつかないからである。

つまり、釣りのうまいやつが勝利する世界になったといえようか。
その中身のあるなしと関係なくね。

すなわち、中身のあるコンテンツを作りたかったら、
釣りがうまく中身のないやつの、
釣りと同じくらい釣りがうまくないといけない、
というパラドックスが成立しているぞ、
というのが本題だ。


私がゴミではない、
という証明をどうやるかは、
釣り餌しかない、という状況になっているということだ。

(他の手段としては、誰かの紹介ということがあるだろう。
だけど容易に想像できるように、
これはある種のコンツェルン、サロンを生み、
閉鎖性の高い身内になるだろう)


ゲリラ活動をしたい人は、
中身で勝負したいからゲリラをやっているというのに、
中身で勝負するためには、
釣り餌が偽物と同じくらいよくできていないと、
まず喰ってくれない、
という状況になっていると思う。


だから、
テレビや映画は、身内の紹介、
という閉鎖性に陥っているのだと思う。
そしてネットは、一部の身内と、
釣り餌だらけになっているわけだ。

さて、「じゃあ釣られてやろうじゃないか」と、
釣られにやってくる好事家はどこにいるだろう。
誰もが釣られるのが怖く、
騙されることを恐れている。

簡単なものは、
釣り餌と中身のペアを初手で公開して、
これ以降も信用される、というやり方だ。

釣ります、でも中身もあります、
よかったでしょ、続きは有料コンテンツで、
という感じだね。

でも人は有料にはなかなか金を払わない。
それが価値があれば払うが、
価値があるかどうかは終わるまでわからない、
というのが物語のややこしさだろう。

だから、釣り餌に金を払うのはいいや、
という考え方になってきて、
「〇〇が出てるからそれに金を払う」しか、
金の払い方がなくなっているのが問題だ。



中身に金を払わせるにはどうしたらいいだろうか。
すぐには解けない問題で気を引くのは、
ひとつの手だろう。
デスゲームものはこれで問題そのものに関心をもたせた。
デスゲーム以外にも、
へんてこな設定をつくることは可能だろう。
「恋人が生まれ変わりの記憶を思い出して、
かつて我々は敵同士であったことがわかった」とか、
色々なものはつくれるはずだ。
そこからどうなり、どう結論が出て、
それが最終的にどのような意味になるかが物語の価値なのだが、
釣り餌の前提ありきで、
結論までうまくできたものをつくることはむずかしいのは、
つくったことのある人ならわかるはずだ。

だけど、
やるしかないとおもうんだよね。

こういう面白そうな釣り餌があります、
こういう展開になります、
釣り餌以上に面白いでしょ、
どうなると思う?
これからこうなるんです、なるほど、
じゃあこれはこうなるのかな、
いや、こうなるんです、これはおもしろい、
そして最後はこうなるんですよ、
なるほど、これは最初から考えられた仕掛けで、
もともとこれを言いたいがための、
釣り餌だったのか、うまいなあ、
というものになっていない限り、
見られて満足できるものにならない、
ということを言おうとしている。

それは難易度がめちゃくちゃ高い。

でもこのネット時代には、それをやらないと、
物語が見られて、人々の心を貫くようにはならないと思う。

分散した状況でどう目立つかは、
釣り餌で決まる。

ネット時代って、そこからやり逃げが出来る。
でも物語とは、それ以前に発生した芸術なので、
やり逃げない責任を負うものである。

やり逃げないくせに、釣りもうまいという、
ふたつのアンビバレントなものを、
両立しないといけなくなった、
と解釈することができると思う。


じゃあどうすればいいかはわからない。
釣り餌から考えるべきか、
中身から考えるべきかもわからない。
両方やってみて、出来るほうを続けて、
たまには逆をやってみて、鍛えるしかないのではないかなあ。


「何がフックになるんだい?」
なんてのが少し前によく言われた。
情報の洪水の中で、何かしら引っかかるものがないと、
見逃されてしまうということだ。

フックはビジュアルが一番速い。
情報が多くて一瞬で見れるものだからだ。
言葉のみではフックには遅いんだよね。
(だからインスタが流行るわけだ)

だけどビジュアルだけだと、
「それがどういうものか」の理解が浅いから、
鮮度がすぐに落ちる。
それを言葉で補い、
「こういう考え方がおもしろいんだよ」の段階にいかないと、
定着はしないと思う。

つまり、ビジュアルで釣って、
言葉で入り口を開くのが、
情報の鮮度と理解の順番としては正しいのだろう。


重要な場面のイコン、
導入のイコン、
キャラクターのイコン、
シチュエーションのイコン、
など、絵によるコミュニケーションができていないと、
フックがないと思われる。

で、「一体それがどういうものか」という言葉による理解が面白くないと、
フックは鮮度をうしないネットの海ですぐに溶けてゆく。
フックをつなぎとめて、成長させるものが、
言葉によるものであるといえるかな。
それを「コンセプト」というんだよね。
「これはこのようにおもしろいものだ」とわかるものが、
次の入り口になっているわけだ。
ここまでが釣り餌だと僕は思っている。



もう飽きたパターンのデスゲームだと、
異様なシチュエーションがビジュアル的なイコンになり、
「ここから脱出しないと死ぬ、これは死を賭けた、
中継されているゲームなのだ。
そしてそれを知ってここに潜入しているやつもいた」
みたいな言葉の理解が必要だということだ。

異様なシチュエーションがフックになればなるほど、
「それがどういうものか」の理解をしたときに、
「その先は?」という興味が生まれるわけだね。

もはやデスゲームは飽きたパターンだから、
あなたの物語は、
これとはまたちがうパターンを編み出さないといけない。
どういう釣り餌があり得るか、
それがどういう入り口になっているか。
その釣り餌の先の、本格的な内容とは。
つまりは三段階、考えないといけないわけだね。


それをうまく制御して、
プロデュースできる人は少ないと思う。
相当な知性と計算が必要だからだ。
だから今、映画やドラマは、
曲がり角に来ているような気がしている。

映画やドラマの釣り餌が、
人気芸能人だけになってしまっていて、
それ以外のイコンを生み出していない。
ブロッコリーポスターがその象徴だ。
トップガンは戦闘機というイコンを我々に提供したが、
それは80年代のレガシーに過ぎなかった。

新しいイコンを、
我々はつくれるだろうか?

それは釣り餌としても機能して、
中身の充実の象徴にもならなくてはならない。

むずかしいことだが、それが出来ないと、
映画やドラマの未来はないのではないか。

一定の枠を抑え、
なんでもいいから流していれば見られる時代は終わった。
うまく釣って、しかも満足させないといけない時代になった。
そしてそれをビジネスに出来ている人はほとんどいない。

だから撤退するか、挑むかは、自由だ。
posted by おおおかとしひこ at 23:02| Comment(4) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
動画プラットフォーム経営陣の頭の中
のよう。
ショート動画で新規をとりこんで、長い動画に誘導する。 
おすすめを 次々提示するアルゴリズムが ITの最先端分野の 一つです。

推薦システム の本はITの新作・話題作の棚に並んで ます。
ユーザーの嗜好と動画の傾向のマッチング のいろいろ。
Amazonの過去に購入商品の繰り返し おすすめより高度な。

Youtube 対 TikTok の戦い、リールズも。
Posted by MMX at 2022年09月22日 16:20
>MMXさん

日本語でおk
Posted by おおおかとしひこ at 2022年09月22日 19:20
今の時代、
全員がホリプロのプロデューサーなみの、
アイドル選球眼を持たないといけなくなった。
??
9/24 渋谷 宮益坂を歩いていたら、
第45回ホリプロ タレントスカウトキャラバン のパネルが ダンススタジオの玄関に。
ピュアガール ピュアボーイ オーディション #クラスで一番の推しの子 募集

う〜ん、いまどき ピュア を使うワード感覚・センス に違和感。
ーー
オーディション成功の第一条件は 数、 乃木坂46五期生は 8万人以上集めて 合格倍率7千。 
Posted by MMX at 2022年09月28日 13:46
>MMXさん

そろそろブロックしますね。
Posted by おおおかとしひこ at 2022年09月28日 14:50
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