2022年09月15日

【毎月15日は新配列の日】新配列とはなにか

広義には、
キーボードの配列で、qwerty、JISカナ以外のもの。

狭義には、
親指シフト以降のキー配列。

もっと狭義には、
新JIS配列よりあとの、
民間開発のキー配列。


お手元のキーボードを新配列に変えようぜ、
という運動が新配列運動なのだが、
新配列ってなに?
ってのが、知らない人には全然わからないかもしれない。

キーボードの、
「どのキーを打ったらどの文字が出るかの並び」
をキーボード配列という。
あの、一見ランダムな文字の並びのことである。

一番分かりやすいのはアルファベット順だろう。
キーボードに慣れていない人が多かった初期の頃は、
アルファベット順のキーボードが多かった。
ピアノだって低い音から高い音順に並んでいるのだ、
アルファベット順に並べることに異論はないだろう。

だけどスラスラ打てるためには、
あるいはブラインドタッチしやすいためには、
アルファベット順ではダメだということがわかる。

文字には出現頻度がある。
また、ある文字の後にはある文字が出現しやすいとか、
これはこのあとには出現しないとかがある。

また、
指には器用で強い指から、不器用で弱い指まである。
人差し指は器用で強いから、
ブラインドタッチでは2列6キー担当することになっている。
中指、薬指、小指は3キーずつだ。
ピアノでは指を等価にするよう訓練するが、
もっと広く一般の人がブラインドタッチする前提では、
「弱い小指をなるべく使わず、
強い指をたくさん使う」のが、
合理的な指使いというものだ。


だから、
キーボードにある文字は、
「よく使うものは強い指で、
あまり使わないものは弱い指で」
打てるように並べるべきだ。

ところが現在のキーボード配列は、
その通りになっていない。




歴史的経緯は専門家に譲るとして、
ある時期にキーボードはqwerty配列に固定されてしまった。
(レミントンのタイプライターが爆発的に普及した時期)

世界中の人々が不合理として不満に思いながら、
いまだこれを変えることができない、
これは人類の負の遺産である。

似たものには「電流の向き」がある。
最初「+から-に流れる」と定義したが、
その後の調べで-電荷の電子が+極に移動するのが電流の正体だとわかった。
しかし一旦決めたものを人類は変えられず、
「電流は+から-に流れ、電子は-から+に流れる」
という愚かな言い訳の二重定義をしたままである。


qwertyは不合理だ。
英語配列は詳しくないが、
たとえばDvorak、Colemak、Workmanなどの、
英語新配列がある。
よく使うアルファベットを強い指に当てて、
指の運びも最小距離を目指し、
もつれないように並べ直したものがある。


日本語は状況がよりひどい。

そもそも英語でも最適化されていないqwerty配列を、
無批判に取り入れたばかりか、
それでローマ字を打つという愚挙に出た。

最も使うA(12%)が最弱の左小指だ。
(英語はE(中指)を一番使い、A(小指)を一番使わない)

指運びも、子音を連続して使う前提のqwertyを、
無理矢理子音→母音→子音→母音…
と使うため、指があらゆるところに飛び飛びになり、
とても無駄な動きをする。

カナ配列(JISカナ)はどうだろう?

一打鍵一カナだから速いと言われるが、
このカナたちは出現頻度順に並んでいない。
行ごとにまとめたらしいが、
そのまとめ方はランダムで、
出現頻度にも準じず、規則的配置にも準じていない、
めちゃくちゃな配置だ。
そもそもブラインドタッチ前提ではなく、
目で探しながら拾い打ちする前提の配列だそうだ。
だから探しやすくしているのだそうだ。
これが50音順配列に対して有効かと言われるとそうではない。
もともとこの配列は、
電報を打つためのテレグラフのキーボードの継承で、
キーボードをよく知らない人が無批判に改悪したものと言われている。



これを並べ替え、
合理的な指運びに最適化しようとするものが、
日本語の新配列である。


+と-なら逆でしたと言えば済む話だが、
ことは26アルファベット、
50カナを、
10×3段ないし10×4段などのエリアに並べ替える問題である。

どれがどこに並ぶべきか、
統一的な理論が存在しない。

たとえば人差し指下段と、小指中段は、
どちらがいいキーだろう?
(従来は中段が良いとされてきたが、
先日僕が行った900連接調査では、
それは否定された)


「この法則にしたがって並べれば、
最適な結果を得られる」
が、まだ見つかっていないし、
どの要素がどの要素より強いか弱いかもわかっていない。


となると百家争鳴である。

人によって打ちやすいキーが異なったり、
手の形が違ったり、
指の動き加減が異なることも、
百家争鳴に拍車をかけている。

あるキー配列が良いと思う人と、
別のキー配列が良いと思う人の、
何が異なってその違いが出るかも、
まだ分かっていない。

そもそも文章がどのように脳から出てきて、
どのように手を動かして文を書くのか、
その最も合理的なルートもわかっていない。


だから、
キーボード配列を新しくしようとする運動、
新配列運動には、
様々な流派がある。



親指シフトがかつてナンバーワンだった時代があった。
M式、新JIS、TRONが覇権を取り損ねた時代があった。
これらはメーカー側の研究によるものだが、
qwertyにデッドロックするに従って大手メーカーは撤退、
民間の研究者による新配列が百花繚乱となる。

プログラムを走らせればいいわけだ。
Aを押したらBが出るようなものを。
あるいは、AとBを同時押ししたらCが出る、
のようなものを。

独自の形式の定義ファイルを読み込むだけで、
配列を変える汎用性のあるプログラムが、
有志によって配布された。
(やまぶきR、紅皿、DvorakJ、Karabiner-Elements、
かえうちなど)

これによって、その文法さえ理解できれば、
「誰でも新配列をつくれる」時代になった。

ローマ字系は、SKY、きゅうり、和ならべ、けいならべ、
Eucalyn、tomisuke、カタナ式などがある。
カナ系は、月配列、飛鳥配列、新下駄配列、シン蜂蜜小梅配列、
薙刀式などがある。

全数は把握していないが、
数百のオーダーであろう。


どの配列が最強で最良で最速で、
最も合理的なのだろう?


それは、何が合理的なのか、
数値的な評価法が定まっていないため、
わからない。

スピード競争をしたとしても、
その人の才能で速いのか、
その配列で速いのかが分離できない。

十分な母集団同士で比較するには、
新配列の使い手は少なすぎる。

そしてそれが決まってないのだから、
自分の気に入ったものを使うか、
自分で作ればいいわけだ。

最近のホットなニュースは、
高校生がローマ字系新配列、tomisukeをつくった。


僕はキーボード配列は、
万年筆のようなものだと思っている。
ある人に合うものが、別の人に合うとは限らない。
ずっと愛用してきたものが、ある日別のものに転ぶかも知れない。
馴染みのものを探す、出会いの旅にしばらくなる。




合理的な指の動きで、
最小の労力で、
文章を書き続けるべきだ。

そもそもアナログの文字は、
そうやって動線が最適化されてきた。

日本語は筆で続け文字を書く文化を、
二千年やってきたわけだ。

ところがデジタルのキーボード配列は、
デッドロックされてしまった。

どんなによく使うキーでも近くに持ってこれないし、
ショートカットの獣道ができることはない。
プログラムにより可塑性のあることがデジタルのいいところなのに。

だから、
そのようにした新配列に変えるべきだ。


qwertyは、
アルファベット順配列からはじまって、
並び替え進化の途中で大量生産したが故に普及してしまい、
変えられなくなってしまった経緯がある。

そんな100年前の都合を、
人類として継承するべきか?

僕はそうは思わない。


僕以外のすべての人類がqwertyを使っても、
僕は薙刀式を使うだろう。
だって楽で速くて動線が合理的だもの。

そして全人類を馬鹿にするだろう。
お前ら愚か者かと。


新配列は知性である。
新配列は楽をするための道具である。
新配列は、人類の進化である。

進歩と発展が科学ならば、
科学的な人は新配列を使う。




【新配列FAQ】

「どれくらい習得にかかりますか?」
→ブラインドタッチの基礎が出来てる人なら、
 一週間程度で動かせるようになり、一ヶ月程度で実戦に出られます。
 (配列の難易度や人の相性で変動します)
 ブラインドタッチの基礎が出来てない人は、プラス二週間見てください。

 練習方法はいきなりそれで文章を書くのではなく、
 まず中段キーだけで片言の単語をつくれるようになり、
 次に上段キーだけで同様、中上段キーだけで同様、
 そして下段キーを加える、などのような段階的な練習が最も効果的です。

「Ctrl+○とかはどうするの?」
→多くの新配列では、「Ctrl、Alt、Winを押しながら何かを押したときは、
 一時的にqwertyに戻る」設定にしています。

「英語は?」
→多くの新配列では、IMEオフでqwerty、IMEオンで新配列、
 の設定が多いですね。
 薙刀式ではIMEのオンオフさえも便利な位置に定義して、
 動線を整理しています。
 別の英語配列を使い、二足の草鞋を履く強者もいます。

「複数の配列で混乱しない?」
→経験的に、「qwertyと新配列」など、
 「二つの配列まではブラインドタッチ可能で、
 使い分けられる」ことが知られています。
 習得までの一ヶ月は混乱期がありますが、
 習得が出来るにつれて混同が収まってきます。
 習得期は併用せずに集中して、
 動かせるようになってから併用すると記憶の定着が混同しにくいです。


「どういった新配列があり、どうやれば使えますか?
また、各配列の比較などありますか?」

→過去記事のカタナ式カテゴリに多数まとめてあります。
 気になったらその配列名で検索すると作者ページに辿り着けます。
 また、DvorakJや紅皿では多数の配列が同梱されています。
 自分で設定ファイルを書き、その配列を使うことも可能です。

 代表的な10配列の比較と、選に漏れた多数の配列を紹介する連続記事6本:
 http://oookaworks.seesaa.net/article/456683570.html

 新配列を三世代に分けてみる(網羅的):
 http://oookaworks.seesaa.net/article/472579842.html

 代表的なカナ配列の動画ダイジェスト:
 https://youtu.be/rUiEKIaGtHg
 (指の動きそのものは忙しくないのに、
 文章が完成していく様を観察してください)
posted by おおおかとしひこ at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
かむキーボードのもちゃちです。先月、人差し指始まりから中指始まりにすると書いたのですが、まだやっていません。変える前にビデオ撮影した方が良いと思い、撮影することにしました。左右の手を変える前ほど速くは打てませんが、ここで記録を残しておいた方が良いと思い、そうしました。かむキーボードは行段系ですが、大岡さんの影響で、行段系に拘らなくても良いかなと思い始めました。
まだ全然慣れていなくて、1分強で撮影を止めた物3動画となりました。緊張すると文章が出て来ませんね。
https://youtu.be/R21_CZPBg_s
https://youtu.be/W1gyuNf-DRk
https://youtu.be/TGs6PLvuxiE

よろしくお願いいたします。
Posted by もちゃち at 2022年09月15日 21:37
>もちゃちさん

拝見しました。

カメラが手持ちで揺れてると文字を追っかけることが困難になるため、
三脚の使用をおすすめします。
三脚がなくてもカメラを手で持たずに、
ガムテなどで何かにカメラを固定すると良いです。
その手間と微調整と原状復帰が面倒なので、だったら三脚使うか、ってなるんですけどね。

アドリブで文章を書くのはとても良いのですが、
緊張すると全く書けなくなるので、
カメラ慣れをするべきかと思います。
10回も20回も同じ体勢で撮れば、慣れてくるでしょう。
毎回違うセッティングだと緊張が出ますね。
Posted by おおおかとしひこ at 2022年09月16日 14:02
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