AをBで表現する話、
タイピングの続き。
つまりBによってAを見るのは「見立て」だ。
見立てに必要なものは何?
僕は「整理」ではないかと考えている。
整理には二方向ある。
プラスを伸ばすことと、マイナスを減らすことだ。
プラスを伸ばすとは、
象徴表現をキレッキレのいいやつにすることだ。
シンプルにしたり、
強い表現にしたり、
伝統的なものにしたり、
新しいスタイルにしたりすることだ。
マイナスを減らすとは、
ノイズを減らすことである。
タイピングの例が分かりやすいので、
この例で解説する。
件の動画のタイピングは、
別にタイピング自慢をしたいわけではなくて、
「彼女自身が綴る彼女自身の言葉」
に見せるためのお芝居だ。
だから、整理されているべきだ。
タイピングのノイズってなんだろう。
僕は、候補選択だと考えた。
リアルなタイピングを撮影したいならば、
候補選択をして、確定したり、
ミスタイプや書き直しがあり、
都度BSがあるはずだ。
ところがそんなものは、
「曲中に流れる彼女の言葉」
というものから見ればノイズである。
入力中の下線(入力中は点線、
変換後、確定前では文節単位で実線、
注目分節が太い下線、
という仕様をご存知か?
意外と見落としてるよね)
は、ノイズだろうか?
僕は「タイピングの雰囲気として重要」だと考えた。
ただ一文字一文字完成されたものが出てくるならば、
ルパン三世のタイトルみたいにしかならなくて、
あんまり新味もないし、
入力→変換→確定の、
実際のタイピングっぽいのは見たことがないので、
新しくていいんじゃないかと思ったわけ。
カーソルの点滅はノイズだろうか?
カーソルの位置自体は、ここまで入力が進んだことを示すから、
これも雰囲気ものとした。
問題は「待機中のカーソルの点滅」だ。
これは本編を見ればわかるが、
「間を表現する時は点滅あり、
絵を見て欲しいときは点滅なし」と、
使い分けられていることに気付かれたい。
つまり、タイピングのノイズを、
場所によって都度コントロールしている。
これが「整理」だ。
つまり、内容に応じて、整理の規模を変える。
それはつまり、
内容に相応しい整理のあり方の、
ベストを常に出している、
ということである。
一定の整理なほうが良いだろうか?
僕はそうは思わない。
ノイズの量を増やせばリアリティが増し、
ノイズの量を減らせばリアリティが減り、
象徴的、記号的になるから、
それを表現に利用すればいいと思っている。
つまり、
表現とは、あなたの整理のことである。
複数でつくるとろくなことにならないのは、
整理の仕方がバラバラになるからではないかと思う。
つまり、ノイズが揺れてノイズになる。
シナリオに話を戻すとどうなるかな。
状況とか、動機とか、キャラクターとか、
ストーリーラインとかだろう。
それはある種の整理をされるべきで、
現実のようにぐちゃぐちゃでは分かりにくい。
彼女の気持ちと一体化したいときに、
候補選択したりBSするのは、
リアルではあるが邪魔なのと同じだ。
リアルが必要か?
整理されたものが必要か?
僕は、表現とは、どのように整理したか、
だと考える。
日本画では、
「何もない空間には何も描かない」
という技法がある。金屏風とか水墨画とか。
これは西洋画ではあり得ないことだ。
空ならば空を描くし、
霧ならば霧を表現するし、
光なら光を、
絵の具を塗りこめて表現しようとする。
だけど日本画だけが、
そこに何も描かないことを表現とする、
という技法を編み出した。
仏教的な「空(くう)」と解釈する人もいるが、
そんな難しいことではなく、
それはつまり整理なのだ。
(余談だが、日本の広告には余白に沢山文字を入れて、
整理を台無しにする傾向がある。
みんな表現の整理整頓が下手なんだな)
あなたの表現はなにか?
それは整理が効いてるか?
どのような整理か?
その整理の考え方こそが、あなたの作家性だ。
2022年09月19日
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