技術者が可能かどうか聞かれたら、
正直に可能不可能を答える。
それが技術に対して誠実ということだ。
空飛ぶ車は技術的には可能だが、
戦闘機よりかかる資金が必要で、
運用も10分程度だろう。
しかも事故らない仕組みは難しい。戦闘機よりパイロットは死ぬだろう。
これが依頼者にとっては不可能で、技術的には可能ということだ。
がんばればなんとかなる問題ではない。技術だから物理法則にしたがうので。
さて、
技術的に可能の件が最近あったので、
みなさん気をつけてという話をする。
僕の撮影現場でスチルをお願いされた。
金がないからスチルカメラマンも雇えない状況はわかってたので、
やったことないけど技術的には可能だからやることにした。
それが急にB全(B0サイズ)ポスターに話が膨らむ。
B全というのは駅ばりの一番でかいやつで、
ざっくり1.5万ピクセル×2万ピクセル程度
(3億画素)の高画質が必要。
で、弊社の5Dの最高画質(250万画素)を300dpi変換すれば、
素人印刷レベルなら耐えられると調べて、
技術的には可能と伝えた。
ところが現実はそんな技術通りにはいかない。
当日の天候は最悪で、
わずかに日がさしたときはムービーに使いたいから、
スチルはどうしても後回しになる。
雨が降りそうな天気での写真、
あまり幸せにはならない。
輪をかけて不幸だったのがキャストの肌の調子。
ガマガエルかよって感じで、
メイクさんもお手上げであった。
僕がプロになって20年、たぶん一番ひどいものを見た。
で、
写真でチョチョイとレタッチすりゃいいや、
技術的には可能だと思っていたが、
B全サイズ(3億画素)の、悪天候の、ガマガエルを、
ビューティー仕上げにしなければならない。
ほとんど写実レベルの油絵である。
raw現像だけカメラマンのlight roomをお借りしたが、
そもそも俺のPCでB全クラスのレタッチが、
ギリギリ動くレベルでしかない。
(保存にフォトショで1分かかる。
文字レイアウトしたあとのイラレなら5分必要)
それでもひいひい言いながら3日かけて仕上げたら、
事前に写真のセレクトをしてたにも関わらず、
別写真でももう一枚と言われて、
さすがにぶちきれた。
同じ調子で二枚のレタッチをするセッティングにしてないから、
つまりは同じことをもう二回しなければならない。
どこが悪いのか?
技術的に可能ということは、
簡単にできること、という誤解があるのだろうか?
あなたが出来ない困難なことを、
技術で解決できますよ、
という風に受け取られているのだろうか?
たとえば160キロのボールを素人は打てないが、
プロの技術なら一瞬で打ち返せる、
などのように「一瞬でやること」のように捉えられているのか?
そうではない。
その場で一瞬でやれることではなく、
一週間籠る時間でやってることなのだが。
技術的に可能ということは、
数学的には解があることがわかっているが、
現実性がない、
現実的には不可能だが無理をする、という意味なのだが?
つまり、
技術的に可能という解答は、
技術を知らない人には言うべきではない。
技術に対しては誠実だが、
人間関係では不誠実にあたる。
「無理です」でいいと思う。
「もう一枚」といわれて、
「出来るわけねえだろバカ」と怒鳴るまで追い詰められるくらいなら、
初手で「無理です」のほうが、
人間関係に良好ではないだろうか。
あなたは技術者である。
世間は技術者のことを知らない。
あなたが暗闇でやってることは、誰にも知られていない。
だからその部分をつまびらかに開陳するか、
「無理です」ないし「100万円と三週間くれ」と、
現実を冷静に回答するべきだろう。
B全のアップのレタッチの相場っていくらなんだろ。
少なくともそれはサービス代として踏み倒されている。
HPにアップする写真スタートだったくせに。
「もう一枚頼んだだけなのに怒鳴られた、
すごい技術で出来るんならもう一枚ぐらいいいだろケチ、
しかも怒鳴るって感じ悪い」
と思われるだけで、
「自分が、人がキレるほど大変なものを頼んで、
失礼なことをしている」とは思われないことに注意せよ。
「それは大変失礼な頼み方ですよ」と、
紳士になって教えるには、
もう少し歳を取らなければなるまい。
京都人になるには修行が必要だ。
朝から寝覚めが悪い。二度寝するには腹が立ちすぎている。
技術者側が全てこの問題を引き受けるのは、
あまりに非対称性がある。
客としての教育は、どこかでなされないのか?
(追記)
そういえば以前にTwitterで、
「技術的に可能は、
生理的に無理の意味」
というのがあったのを思い出した。
これくらい短く上手くまとめたいものだ。
2022年09月26日
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