2022年11月08日

リアクションで考えていることをわからせる

今こういうことを考えている、
こういうことを当然として考えている、
そういうことを示すには、
「自ら語る」のではない。
リアクションとして示すとよい。


たとえば「強い人」というのを考えよう。
弱い人が強くなったとしようか。
「よし、強くなったぞ」というものを示すには、
たとえば力が強くなったとか、
何か絵で示すことができると思う。

心が強くなったことも、
前では折れていたことが、我慢できるとか、
動じないとか、そういうことで示すことができる。

だが、「その奥底で心はどのように思っているか」
を示すことはなかなか難しい。

こういうときは、
「石を投げる」というテクニックを使う。

石を投げてどういうリアクションをするかで、
「強くなったこと」をどう思っているかを、
測ることができる。


たとえば。

その人が急いでいるときに、
ババアがよたよたしていて、
道をふさいでいるとしよう。
これが石である。
これにこの男はどう答えるか。

「強くなったことをかさにきて、
他の人のことを考えていない。
つまり強くなることは、他の人を押しのけることだ」
という風に考えている男は、
「どけババア!」とババアを突き飛ばして進むだろう。

「強いこととは、余裕ができることで、
自分だけじゃなくて他人も幸せにすることである」
と考えている男は、
その強くなった力(たとえば力持ち)で、
ババアの荷物を持ってあげたりするだろう。

強くなることは、弱い者とどう付き合うかを決めることでもある。

それを弱い者という石を投げることで、
リアクションを見るわけだ。


勿論これは分りやすい例で、
もっと複雑に組んだほうがいいとは思うが、
まずは簡単な例で理解できるようにしてみた。


あることが同じでも、
まったく考えていることは違うかもしれない。

強いことは他を押しのけることと考えている人も、
強いことは弱い者を助けられることと考えている人も、
世の中にはいる。

その違いは、見た目や言動だけではなかなか区別できない。
だから石を投げるわけだ。

そのリアクションによって、
二人の登場人物は、まったく違う心を持っていることを示せるよね。



さて。
さらに深い話を。

この二人の対照的な人物は、
何故そう考えるようになったのだろう?

Aはなぜ強いことは他を押しのけること、
と考えるようになり、
Bはなぜ強いことは弱い者を助けること、
と考えるようになったのだろうか?

幼少期の育ち方か。
親の教えか。
あるいは、とても強烈な体験があり、
それからそのように考えるようになったのだろうか。
つらいトラウマや、
逆に強烈な成功体験がそう考えるようになった原因だろうか。

仮に双子だったとして、
同じ子供がたまたまそういう目にあったから、
AとBという二人の考え方に、
分かれて行ったと考えてみよう。

何が二人の人物の分け目となったのだろうか?

似たような希望にあふれた、
社会人一年生が、
付いた仕事や先輩によって、
まったく異なる仕事観を形成して、
まったく異なる社会人になっていくことは、
会社ではよくある話である。

「付いた先輩が悪かった」とか、
「いい先輩に教えてもらったねえ」とかいう。
あるいは、
「いい仕事の経験をしたんだね」とか、
「最悪の仕事だったんだなあ」とかいう。

同じ資質でも、
体験や環境や強烈な何かによって、
心や考え方や哲学が変質していくことはよくある。

そういう創作をしてみよう。


つまり、
AとBは、立場が違ったら、
お互い自分であった可能性がある、
という風につくることは可能だよね。

その二人が出会い、絡むとしたら、
面白いことになりそうだよね。

何かの事件に直面して(石)、
それに反応することの違いで、
哲学の差異をしめすことができて、
その結果、二人はどう影響しあっていくだろうか。

人間を描くとは、大体そのようなことだ。


リアクションを引き出せる、
石を投げてみよう。
それは現在の点である。
その点はどうやってできたのか。
その点はそれからどういう線をたどるのか。
ある考え方に対して対照的な二人は、
どういう変化をするだろうか。

これだけで、物語の大事なポイントのほとんどが入っていないか?

これを描くために設定があり、
これを描くために事件があり、
これを描くために周囲の人間関係があると思うわけ。

あることに対する対照的な二人を創作しよう。
それがうまくできたら、
それを生かす設定や事件を考えよう。
それらが面白そうならば、
大体面白くなるぞ。
posted by おおおかとしひこ at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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