2022年11月19日

殺し合う理由

殺し合う話が一番面白い。
それはいい見世物だからだ。


人が一番怖いのはなんだろうか。死ぬことだろう。
だから死をかけることが一番見世物として面白い。
そしてストーリーとはコンフリクトであった。
だから、死を賭けるコンフリクトが、
一番見世物として面白い。

ストーリーの原型を考えると、
その部族に伝わる、
敵との戦いの勝利譚であったように思う。

神がこの世界をつくったという神話が第一話にあるとして、
次に来るのは、
その世界でどういう殺し合いをしたか、
ということだと思う。
それが一番興奮するから、
人間という民族は、こうして生き延びてきたのだろう。

ストーリーとは、
その原初の乱暴さ、恐怖、死を超えるほどの戦い、
みたいなことを持っているべきだと思う。

近代は、なるべくそこから離れてきた。
危険で死ぬからだ。
その原始的なものから安全に逃げることが、
文明といっても過言ではない。

だけど、その安心している籠の中では、
原始の蛮勇の面白さはない。
だから、それを欲する。
それが見世物の正体である。

つまり、
見世物とは、安全なところから見る、
原始的な殺し合いである。

ローマ時代から何も変わっていないと僕は思っている。


その殺し合いが、
剣で切りあうだけでなく、
銃で撃ちあうだけでなく、
社会的に抹殺するとか、
ここらへんで生きていけないようにしてやるとか、
正義で叩きのめすとか、
そういうものに変わってきているだけの話だ。

「ダーティーハリー」は、
凶悪犯を射殺する外道刑事の話である。
安全で法を順守する警察ではない。
凶悪犯はそんなこと言ってられないからだ。
そのようにして蛮勇の舞台を整えてから、
刑事が凶悪犯をバンバン撃ち殺す映画である。

これは見世物であり、リアルの話ではない。
だから受けた。
リアルにそんな警官がいたら一発で首だが、
もしそんな凶悪犯がいたら、
法の順守では警官たちが守れない、
正当防衛である、と正義を与えることで、
殺し合いに理屈を与えて、
あとは見世物になるわけだ。

これが見世物の本質である。
要は殺し合いがみたいのだ。
だがただ殺し合うと文明近代社会ではないから、
この文明近代社会においても、
殺し合うほどの理由を、
我々は創作しなければならないのだ。


単純には、
ひどい悪をつくればよい。
それをぎゃふんといわせる正義は、
胸をすくようなものになるだろう。

殺すのはやりすぎ、なのか、殺してすっきりなのかは、物語によるだろう。
だけどみんな殺してすっきりしたいと思っているのはたしかだ。
わざわざ言わないけど、心の奥底では、そのようなものを求めているのだ。
いくら善人のふりをしようが、清廉潔白な聖人のような顔をしてようが、
剣闘士に喜ぶローマ市民と、基本的には同じである。
文明の顔をしているような観客を、
いかに野蛮な殺し合いの見世物にひきこむ、
理由を見つけられるか、
ということが物語作家の一番の仕事なのだ。

正義はひとつの理屈だ。
正当防衛もそうだろう。
恨みや復讐もあるかもしれない。
単純な競争、サバイバルもあるかもしれない。

どのようなものを用意する?
物語はコンフリクトである。
コンフリクトのない物語は、
おそらく見世物にならない。
なぜなら見世物の本質は、死を賭けて殺し合う二人だからである。
そこに筋の通っている戦う理由さえあれば、
それは見世物として成立するのだ。


物理的に殺し合わなくてもいい。
恋のライバルから彼女を奪う話でも、
そこに正当な理由があれば、
戦いになる。
ライバルが敗れればある意味死ぬわけで、
主人公が敗れればある意味死ぬわけで、
その死を賭けて戦うわけだ。
そうじゃないと見世物としては面白くないわけだね。

つまり、
死を賭けて戦う剣闘士と、
あなたのストーリーはくらべられる。

どっちが面白いか?
どっちが必死で、
どっちが感情移入出来て、
どっちがすさまじいバトルになるか?

あなたのつくっているものは、
見世物の台本である。
面白くなければならない。
目の前で男たちが血みどろで剣を刺してとどめをさすものよりも、
ものすごくて、真に迫って、夢中になれなければならない。

ローマ市民は、
剣闘士とあなたの映画、どちらを見に来るだろう?
闘技場の隣に映画館があると想像したまえ。
どちらも同じ料金ならば?
posted by おおおかとしひこ at 00:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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