2022年11月18日

映え写真

かつて映画にしかなかった名場面や、
名画の名シャシンと言われたものは、
スマホのカメラの発達によって、
すべて映え写真へと変わったように思う。


今や、
すごい写真、珍しい瞬間、
絶景、おかしな写真、
かわいい子、動物、うまそうな料理、エモい絵、
など、
「絵になる瞬間」は、
数々のインスタやSNSにアップされ続けている。

写真雑誌や映画にしかなかった、
「いい絵」というものが、
民主化されということだ。

逆にいうと、
「いい絵」の価値は下がり、
バエの価値まで暴落したということである。

絵師のほうがむしろ「いい絵」を担っている感がある。
ただ写真を撮るならだれでもできるが、
絵を描く、という苦労と才能が必要だからだ。
だから神絵師は重宝である。
(今後AIに抜かれる人も出てくるだろうが)

シャシンによる「いい絵」は、
プロ並みの機材や現像ソフトをそろえることで、
簡単にはできるようになった。
もちろんある程度の才能や知識は必要だけど、
プロカメラマンにとって一番重要なのは、
場数である。
場数さえ踏めば、
ある程度力があれば、
どんどんいい絵を撮れるようになってくる。

つまり、
日々上がるSNSのバエシャシンと、
あなたの書く物語中の「いい絵」は勝負の土俵に上らされるということだ。

で、実のところ、
僕はそんなにもはや「いい絵」の差がないと思っているわけ。
よほど金をかけたセットとか、照明とかじゃない限り、
そんなに差がなくなっている。
むしろプロはその一日で撮らないといけない制限があり、
しかも現場の金がなくなり続けているから、
無限に時間を使って、プロとたいして金額が変わらないコストで撮れる素人たちの、
偶然撮れた映える絵のほうが、
プロを上回りつつあるようにすら思う。
そんな偶然、一年の撮影に一回くらいしかないよ、
というような天気や光線でも、
たくさんいる素人の、だれかは必ずものにしているからね。

つまり「いい絵」は民主化されてしまって、
解体された。
プロの専売特許じゃないものになってしまったように思う。

じゃあ、我々が撮れるいい絵というのはなんだろう?

「トップガンマーヴェリック」のひとつの答えは、
素人が決して撮れないものを撮る、
ということであった。
戦闘機のコックピットでまじで飛んでる絵なんだから、
素人には無理なものだ。
金とプロのスタンバイがないとできないことである。

そうじゃない、
金のない邦画はどうすればいいだろう?
美形芸能人が出る、
というのをひとつの担保にしていた感はある。
だけどそれも飽きてきている。
飽きたら次の芸能人が出てくるのかもしれないが、
順列組み合わせが終わったら飽きられるだけだ。
しかも、そういう人が出るだけだったら、
無料のYouTubeにゲストとして出ることすらあるからね。
チャンネルが増えるほど、絵の価値は下がるわけだ。


さて本題だ。
我々プロが提供できる、いい絵とはなんだろう?


僕は、文脈がある絵だと思っている。

そのストーリーの名場面だから意味がある、
いい絵が、プロしかつくれないものであると。


ただのシャシンじゃない。
そのストーリーのその場面を象徴する、
イコンになっているから意味がある。
それは平凡な絵ではなく、
少なくとも映える程度の絵になっている。

それだけで、凡百の映える絵に対して、
ストーリーという無限の力で勝てるわけだ。

もちろん、
それは素人の自主映画でもできることだとは思う。
だから、あとはストーリーの出来次第だということになる。

シャシンの民主化というほど、
ストーリーの民主化は起きないだろう。
何せカメラや現像といったものは、
機材の発達だけでクリアしてしまったのだ。
しかしストーリーの機材は、
紙とペンさえあればよいから、
「機材がないからできない」という一党独裁は難しい。
つまり、
ストーリーというのは中世くらいから民主化自体はされている。
誰でも書く権利やチャンスがあるのだ。

しかるに、
誰でもカメラでいい絵が撮れるようには、
誰でもいいストーリーが書けるわけではない。
おそらく、
ストーリーのほうが、カメラよりも才能がいる。

さて。
カメラの才能は、
場数でもある程度稼げるのであった。

じゃあ、あなたたちがやることは、
同様に場数を踏むことだろうね。
何もやってなくて、なんでいいストーリーが書けるというのかね。
神絵師のように、普段から書いている人だけが、
いつでも素人よりもいいストーリーを出せるわけだ。


ただのいい絵は、それだけで終わりだ。
インスタやツイッターで流れまくって、
消費されるだろう。

しかしいい絵でかつ素晴らしいストーリーを象徴する、
イコンという名のいい絵ならば、
それは永遠に残ると思う。
なにせ、それができる人は少ないのだから。
posted by おおおかとしひこ at 01:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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