いろいろ試行錯誤をして、
高級キーボードなみの「高級な打鍵感」をつくれたので、
まとめておく。
高級な打鍵感とは何か?
打鍵感を言葉で表すことはなかなか難しく、
固いとか柔らかいとか、重いとか軽いとかの、
形容詞だけでしか語られないことが多い。
しかも「どの要素がどの形容詞に対応しているのか」
もあいまいで、これまで異なる人が同じ言葉で異なることを示していることもあったと思う。
高級なキーボードで共通するのは何かと、
いろんなイベントで持ち込まれる、
5万越え、8万越えを観察していると、
共通するのは「金属を用いた重さ」だ。
質量が大きいと何がいいんだろう?
カッコいいとかは置いといて、機能だけを考える。
まず、キーボードが安定する。
打鍵したときにぶれないことはよい。
だがそれだけではないはず。
色々やってみてわかったのは、
「重たいと、余計な小さな振動がない」ことだ。
安っぽい打鍵感に含まれる成分に、
「びびり」があると思う。
言葉で示すとカシャカシャした感じ。
一種類の振動ではなくて、
他のパーツの振動や摂動を、
指が敏感に感じ取っているということだ。
この要素を僕は、
「澄んでいる/濁っている」という言葉で表現しようと思う。
澄んでいる、というのは
「ひとつの大きなものを叩いた感触」、
たとえば大きな大理石をこつんとやったような、
一様の大きな物体を叩いたような感覚。
濁っている、というのはその逆で、
雑多なものが混じっていて、
それぞれが勝手に振動して収まっていないさま、
みたいな感じ。
この「澄んでいる」打鍵感覚を得るためには、
比重の大きなもの、たとえば金属を使い、
「全体が大きな質量のものになっていて、
打鍵はその一部を叩くような感覚」になっていることが、
大事なのではないかと思った。
その質量は、
大理石でもいいし、ガラスでもいいし、金属でもいいと思う。
ただキーボードは精密部品なので、
ミリ単位(ときに0・5ミリ単位)の加工が必要で、
それには金属パーツが豊富だということで、
以下では金属パーツでどうにかすることをやってみている。
もうひとつ評価軸で考えられるのは、
「跳ね返る/跳ね返らない」だと思う。
質量を重くしようが軽くしようが関係ない軸として考えた。
打鍵したしたときの衝撃が指に跳ね返ってくると、
疲れる。
打鍵した力が、内部で溶けていく、
解消するようになると、疲れないと思う。
まったく帰って来ない、反発0だと打った気がしないかもしれない。
(たとえば反発がほぼ帰って来ないゴム、
ハネナイトが仕込まれているとどうなるか?
ということには興味がある)
まあ適度に跳ね返りがあって、
底打ちが気持ちよいことは条件かもしれないが、
跳ね返りすぎはよくないだろうな、
という感じ。
あとでいろいろ実験するように、
弾性体を挟むと、跳ね返ってくる感覚が変わる。
第三の軸が、
「柔らかい/固い」かな。
柔らかくても跳ね返りがあるものと、
柔らかくても跳ね返りが少ないものがある。
これは、その弾性体内で、
反発が消化されるかどうかにかかってくる要素かもしれない。
たとえばウレタンゴムは柔らかいが帰ってくる。
シリコンゴムはやや硬いが帰って来ない、
アクリルは柔らかくてやや帰りがある、
のように感じた。
色々やってみてわかったことは、
「澄んでいる」「跳ね返らない」
「柔らかい(柔らかすぎると跳ね返るので限度がある)」
のが、
高級な打鍵感だと感じたので、
それが答えになるように収束している。
具体に入る。
以下ではミドルプレートによる実験だ。
というのも、
僕のMiniAxeのオリジナルケースは、
インテグレートマウントにつき、
トッププレートがないので、
そこは改造が出来ないからだ。
PCBの下からはもとのMiniAxeと同じ、
サンドイッチマウントなので、
そこにミドルプレート的な何かを工夫することで、
衝撃をどう緩和させるか、
という工夫をすることにした。
構造は、
PCBとボトムプレートが、
真鍮スペーサー3.5mmで挟まれている。
この3.5mmの空間には、
PCBからはみ出したスイッチの底部分
(ステムポールがはまるところと、5ピンの固定部)
が0.5mmはみ出していて、
となりにスイッチソケットが1.7mm高さあって、
のこり1.8mmの空間がある。
これらをどう埋めるか?ということが、
実験内容だ。
基本的には、
「スイッチとボトムプレートの間に、3mmの何かを挟む」
「ソケットとボトムプレートの間に、2mmの何かを挟む」
「PCBとボトムプレートの間に、3.5mmの何かを挟む」
の、
組み合わせを色々変えている。
【その1 ゴム足】
まず最初にやったことは、
スイッチの下にゴム足(ウレタンゴム)をつけて、
ボトムプレート(アクリル)と挟んで、
打鍵感を柔らかくできないか?ということだった。
ところが予測に反して、
びよんびよん跳ねる感じが強くなってしまった。
「跳ね返る」という要素がとても強い。
打鍵感は「柔らかい」にはなり、
ゴムの「澄んでいる」感覚にはなるが、
スーパーボールを跳ねさせているような感覚になるのがよくない。
しかも疲れる。
指にダメージが来るような気がした。
跳ね返りはよくない、ということが学びであった。
スイッチ下に入れずに、
たとえばPCBの四隅だけに入れる、
6ないし8個くらいをバランスの取れるところに入れる、
などもやってみたが、
吸収するはするが、「澄んでいる」という感覚はなくなる。
PCBがたわむことを、
吸収しきれていなくなるのだろう。
【その2 スイッチ下にアクリルブロック】
やわからさの代表のアクリルを使ってみた。
アクリル積層のキーボードはいいよね。
そんな感じになるのでは?という期待。
とりあえずアクリル角柱3mmを買ってきて、
ペンチでバキバキに折り、
セロテープで2本積層してぐるぐる巻きにして、
スイッチ下に敷いてボトムプレートと挟んでみた。
「柔らかい」「澄んでいる」
というアクリルっぽい感じになった。
だけど、「打鍵が遅延している」という感覚になることが、
発見だ。
なんか遅れてくる感じになる。
たとえると、
「泥に足を突っ込んでいる」ような感覚になり、
足を抜いたときにようやく打鍵認識、
みたいな感じ。
打った物理的には気持ちよいが、
結線するとあんまりよくなかった。
アクリル積層をやっている人たちは、
あくまでケースの剛性の柔らかさを求めていて、
打鍵の直接は関係ないのかもしれないなあ、などと想像する。
【その3 スイッチ下に真鍮スペーサー】
次にスイッチ下に真鍮を入れてみる。
金属を直接叩いてる感触を目指した。
最初に手に入った真鍮は、
高さ3mm、直径4.7mmの、
円柱状のスペーサー。
(廣杉計器 軸保護スペーサー SM-000Eシリーズ、SM603E)
これをスイッチ下に仕込む。
ボトムプレートに両面テープで固定した。
これがかなり澄んだ感じになってとてもよい。
コトコト感がかなりまして、
僕はこれのとりこになってしまった。
あとはこの小さな真鍮の質量を、
もっと大きなものにすればいいのでは?
というアイデアになる。
より澄んだものになり、
より跳ね返りがなく、
より中で振動が消えた感じになるだろう、
という予想だ。
スイッチ単体で、ボトム部を大きな金属につけて打鍵すると、
「岩を打っているような感じ」を感じることが出来る。
おそらくこれが理想。
大きな一様の物体を叩いているような、
澄んだ、跳ね返りがなく、
適度に固い感じで、
しかも指を痛めないような、柔らかい感じ、
というのが理想のような気がする。
色々な真鍮を試したのは、後半に。
なお、
衝撃緩衝材としてのアクリルはいいかも、と思い、
ソケットとボトムプレートの間にアクリル角柱を挟む、
PCBとボトムプレートの間にアクリルを挟む、
というのをやってみた。
悪くない。
柔らかい/澄んでいる/跳ね返らない
という感覚にはなる。
ただ遅延している感覚は変わらかったので、
「澄んでいる」という感覚が足りないのかな、
と思った。
なので上の写真では、
PCBとボトムの間に、アクリルを敷き詰めない程度に挟んでいる。
【その4 シリコンによるОリング】
シリコンゴムを2mm厚3.5mm幅に切って、
全体にОリング状に挟んでみた。
PCBの振動はなくなり、
「柔らかい」「澄んでいる」にはなるが、
やはり「跳ね返る」になる。
Оリングを減らして、
部分的なゴムにして、
ガスケットのようにすれば、わりといいっぽい。
【その5 シリコンをソケット-ボトム間に挟む】
やはりびよんびよん感(跳ね返り)が強くなった。
【その5 真鍮棒をソケット-ボトム間に挟む】
アクリルやゴムの代わりに、
ソケットとボトムプレートの間に真鍮を挟んでみた。
余計な細かい振動がなくなり、
ボディの剛性が高まった感覚になる。
真鍮の2mm角柱をハンズで購入。
これをソケットの大きさになるように切断
(ペンチで切れ目を入れ、曲げながら切ると楽)、
切れ目は鋭いのでケガしないように金属やすりで丸め、
ソケットと接触するところが電気的に短絡しないように、
ソケットに両面テープで貼る。
紙製だから絶縁体だろう。
剛性がよいということは、
単純に「びびりがない」ということだと感じた。
なるほど、重さは正義なわけだ。
ケースの剛性が上がると、
「澄んでいる」という感覚が研ぎ澄まされていく。
なお写真のものは、
人差し指ホームキーに、
真鍮スペーサーを三つ両面テープで連結させて、
「質量の大きい真鍮だとどう?」という実験中。
結構好感触だったので、
「他の真鍮パーツってある?」と検索をはじめる。
【その6 真鍮パーツ違い】
3mm厚の真鍮でちょうどいい大きさがなかなかない。
中国で見つけた手芸パーツが良かった。
3mmx3mmx14mm。(届くまで10日かかった)
PandaHallというところの、KK-L184-02C LB-849-100-pc。
重いのが良い。
2個接着すればもっと重くなるのでは?
などと妄想したが、
MiniAxeの表面実装パーツが邪魔になり、
そこに干渉しないものとなると、
1個しか入らない。
(2個3個接着できるキーもあるが、
打鍵感がキーによって変わるのは意味がない)
これでだいぶ澄んだものになり、
跳ね返りがなく、
固いものになった。
あとは、これを柔らかくするために、
シリコンゴムのガスケットを端に入れて、
とくに柔らかくしたい親指部に、
アクリルの角柱を入れてある。
これで真鍮だけでない、
柔らかさが出るというわけ。
両面テープで貼っているビジュアルが、
真鍮のカッコよさを殺しているので、
アクリルプレートに切りかけを入れたようなミドルプレートを設計して、
真鍮インアクリルみたいなプレートをつくろうかと思っている。
【その7 スイッチのセミサイレント化】
澄んでいる感覚を出すには、
要するに小さな振動、びびりを減らしていくことだ。
ステムが底打ちした感覚を、
「ひとつの振動」「すぐに内部ですっと消えるもの」
「接触時間が少ないもの」
にすると、
「澄んでいる」という感覚になると思う。
金属の重いものを使うことと、
アクリルやシリコンゴムは控えめすること
(柔らかくはなるが、弾性変形をしている間、
接触時間が長くなる)は、
これらに共通することだと思われる。
で、もうひとつあったのは、
「戻りの振動」だ。
打鍵後、ステムがトップハウジングに当たるときに、
底打ちとは異なる、より小さなビビり振動がある。
これをなくせるといいなと思ったのだ。
静音軸の中で、
JWK Semi Silentという面白いスイッチがある。
ステムの下は普通なんだけど、
上だけ静音化されているんだよね。
静音軸を打ったときに、
下に感じるゴムのグニュ感が僕は好きではない。
「澄んだ」ものではないからだ。
だから、下の底打ちは澄んだものにして、
戻りだけ静音化する、
というアイデアは、僕はとても気に入っている。
しかし、このスイッチ自体はあまり気に入らなかったので、
僕のお気に入りのZeal PC Pearlioを、
セミサイレント化しようと思った。
やり方の原理はとても簡単。
前に開発した方法で、
「トップハウジングの、ステムの両肩が当たる部分に、
柔らかいものが来るようにする」
というやり方。
第一にはシリコンシート0.5mmを貼る方法。
しかしこれは相当集中力がいる。
第二のより簡単な方法、
「シリコン接着剤を塗布する」という方法をとった。
使用している接着剤は、
カワグチというメーカーの、
シリコンゴム用ボンドという商品。
つまようじで接着剤を取り、
ステムの上側が当たる部分に塗布する、
という簡単なお仕事です。
ただし、ステムが通る通り道にはみ出さないとか、
ステム側面が接触する部分にはみ出さないとか、
かなりの集中力が必要。
一日5個が限界かな。
これにより、戻りがほぼ無音になる。
これでセミサイレント化が成功して、
戻ったときのビビり、余計な振動、
そしてカチャカチャという音がなくなる。
そういうわけで、
澄んでいる、跳ね返りがない、
固いが柔らかさもある(真鍮とシリコンのブレンド)、
という高級な打鍵感のある、
コトコトで剛性のあるMiniAxeが完成した。
なおもう一個真鍮パーツを見つけたので、
それが来たらまた実験をしてみる。
このやり方は、
他のサンドイッチマウントなどのキーボードでも、
応用できるテクニックだと考えられる。
遊舎工房で僕を見かけたときなどは、
大体持っていると思うので、
声をかけてくれれば試打できますよ。
言葉にまとめると、
いい万年筆っぽい感触がある。
鼈甲でキーキャップつくれねえかな。
2022年11月29日
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