この物語がなんだかブレてるなあと思うのは、
主人公が明確ではないところだ。
以下ネタバレで。
前作の主人公で、
今回の父は主人公かな?
微妙だね。
森を捨てる所まではストーリーの主体であったが、
海に来てからは子供達が主人公になってしまって、
ラストバトルまで引っ込んでしまった感が強い。
なにせ「子供から見た父親」を演じているだけで、
個人の男としてのストーリーが皆無だったからだ。
実は動機が強く、
キャラが立っていたのは今回の敵だが、
クローン前の本体の息子スパイダーと、
旅の途中で本当の親子みたいになるエピソードがあったわけではない。
T2にはあったのにな。
父の顔を知らないから、あなたが父さんに見える、
って一言いうだけでだいぶ違ったのにな。
息子を人質に取られて離すのは人間臭くてとても良かったが、
そこがピークだから、
まあ主人公ではないよね。
もう少し自分のクローンとしてのアイデンティティに悩むべきだったかもね。
仲間の一人が疑問に思っても良かっただろうに。
「俺たちは幽霊と何が違うんだ?」と一言いうだけで、
アイデンティティのぐらつきのドラマがあっただろうに。
じゃあ事実上の主人公は次男なんだよな。
でも最初川で魚取りするのを長男に譲ってるから、
キャラが立つまでだいぶかかっている。
彼のファーストエピソードは、
空中の見張りをやめて下に行こうぜ、ではなくて、
海の民の女の子をちょっと好きになる場面だろう。
そのあとケンカから鯨に会うまで、
完全に主人公ではないか。
ラストバトルの父の戦いに助太刀すればよかったのに。
魚取りで銛がうまいのなら、
それで敵のアキレス腱でも刺せばよかったのになあ。
魚取りは長男にしてしまったのが、
ねじれのややこしい部分だ。
ということは、
魚取り以外に次男の何かをなるべく初期に仕込むべきだったんだな。
なんで魚取りを長男のみにしたんだろ。
長男と次男で競い合う場面でよかったのに。
たとえば、
ほんとは長男の方がうまくて、
次男より魚を獲ってるのに、
次男にうまく手柄を譲ってあげる、
みたいな三人のエピソードだったら、
次男の性格や特技も示せるし、
さらに泣ける感じになったんじゃないのかね。
ラストの木で長男との記憶をリフレインするための、
逆算の仕込みシーンではあるが、
「ただそれだけ」になっていたのがダメだ。
伏線のシーンの理想は、
伏線のためだけにあるのではなく、
その時はストーリー進行に普通に使われているシーンを使うことだ。
家族が出来た、というていの場面ではあったが、
今回の次男フォーカスにするなら、
そこで次男のキャラ立てを何故していないのか、
という不備を指摘することができる。
さて、
この物語の主人公は誰か?
父ではない。
海に出てからは微妙だ。
次男でもない。
海に出てからしか出てこない。
ラストの立ち回りでも活躍は微妙。
剣心の弥彦ぐらいの活躍は欲しい所。
もちろん敵でもない。
この、ぼやけた感じが、
この物語のぼんやりした感じだと思うんだよね。
海に行ってから子供達中心でもいいんだけど、
父親は父親なりに何かをすればよかったんだよな。
鯨漁が来るまで「隠遁する」を選んだのが、
シナリオ的采配のミスだと言えようか。
今回のサブタイトル「ウェイオブウォーター」は、
海の民が持つ死生観であったが、
これはインディアン(ネイティブアメリカン)の教えに出会う、
白人の物語そのものだ。
そのことについて、森の民との差に戸惑い、悩み、
受け入れる話があってもよかったのでは?
海の民と森の民が戦争する、みたいな流れになると、
ちょっと面白いと思うけどどうだろう。
その時に異種族婚が意味をなすと思うけどね。
主人公もぼんやりしてるし、
テーマもぼんやりしていた。
長男の死を受け入れるためだけのウェイオブウォーターではなく、
もう少し進んだ哲学として楽しみたかったが、
そんな叡智を創作できなかったか。
残念。
前にも書いたけど、
漁師は大潮の日にしかしない仕事があったりして、
満干とともに生きてるんだよね。
つまり月のことをすごく知ってる。
そういう風にならないのは、
シナリオライターが海の民を取材してないからだと感じた。
海の民の話ではなく、
動物と戯れるのが二幕の中心になってしまったことが、
シナリオ上の選択ミスといえるかね。
自分たちより賢い鯨の存在は面白いが、
そのことについて海の民はどのように考えているか、
が今回のテーマになったはず。
魂の姉妹じゃようわからんね。
日蝕も全然意味がなかった。
ライティング違いだけやん。
せめて暗視スコープが使えなくなるとか、
鯨の超音波が乱れるとか、
アクシデントの要素に入れたかったところ。
全体的にゲームっぽいんだよな。
そこに生きてるというよりも、
コントローラーで操作できそうな感じだった。
2022年12月18日
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