2022年12月20日

スポットライトを当てる

スポットを当てることは誰でもできる。
問題は、
「スポットを当てたときに、他を上手につぶす」
が出来るかどうかだ。


あることにスポットを当てて、
目立たせることは可能だろう。
簡単にいえば、大声を出せばいいわけだ。

でもこれも強調したい、
これも強調したいとなったら、
全部大声になってしまう。
うるせえ、となるだけだろう。

大声を出す以外に強調する方法はある。
「そこ以外は黙る」ことでだ。
そうしたら、大声を出す必要すらなくなる。
静かなところがあり、
そっと何かを言うだけで、
「それが一番大事なこと」と誰もが理解する。

大声を出すのは、だから頭が悪いわけだ。

スポットを当てて強調するのと同様に、
黒く塗りつぶすことは重要だ。
黒く塗りつぶすことは、それを描かないということではない。


たとえば。

特殊能力があり、誰でも飛べる世界のSFを描くとしよう。
そこに飛行機は存在しないとしよう。

このとき、
いくら人間が飛ぶことにスポットライトを当てて強調しても、
「飛行機に負けるのでは?」という思いを除去できないと、
そのストーリーを楽しめないかもしれない。
だからわざと、
「この世界のエンジンの限界を示し、
鞄一個くらいまでしか飛ばせない」
というような「黒く塗りつぶすこと」をやっておくとよい。

ああ、この世界ではそういうルールなんだ、
と一回わかれば、
「空飛ぶマシンはない」と、
その他の黒く塗りつぶされたところをみなくて済むからだ。

それを、
ただやみくもに、飛ぶ人間だけを強調して、
スポットライトを当て続けたとしても、
大事な場面に、
ご都合で飛行機が登場するんじゃないの?
と思ったら、ハラハラできないよね。
「この世界では飛行機がない、せいぜい鞄一個の重さまで」と最初に示していれば、
「飛ぶしかねえ」という場面にハラハラできるはずなんだよね。

つまり、
スポットを当てることは、
世界を崖で切り取ることだ。
この世界はここまでしかない、という崖さえ示せれば、
この中でどうにかするしかない、
ということを最初に思えて、
登場人物たちの決断や勇気にハラハラできるはずなんだよね。


アバター2で僕が思ったのはそこだな。
「この世界では人は死なない」かどうかが、
良くわからないまま話が進んでいた。

最初の見張りをサボって敵襲を許す場面で、
大事な仲間が死ねば、
そういうことがなくなったと思う。
そいつとバカ話をしてあとでラーメン喰いに行こうぜ、
みたいな話をしていて(ラーメンじゃないが、それにあたるものという意味で)、
そいつが銃弾に倒れて死ねば、
兄弟の責任はとても重くなったはず。

あ、この世界では人は死ぬのね、
というのがよくわからないから、
アクションもわからない。
あの青い一族は人間よりずいぶん丈夫そうだから、
どうやったら壊れるのか加減が分らないんだよね。
落ちたら死ぬんだろうが、
100メートルくらいまでは無事かも知れない。
だからドラゴンに乗っているときにも、
全然ハラハラしない。
5メートルから落ちたら、人間なら大怪我か打ちどころが悪ければ死ぬだろう。
そうかどうか分らないから、
高い所でのアクションに恐怖がいまいちなんだよな。
(敵がドラゴンを手なづけようとする場面で、
スパイダーが崖の下を覗き込むのはとても怖かった。
人間なら死ぬのは明らかだからだ)

これは、
スポットをうまく当てられなかった例だと思う。
スポットはすごいCGで当てているけど、
潰せるところを潰していない感じがした。


つまり、スポットを当てるには、
「光を当てる」だけじゃだめなんだよね。
「周りを暗くする」の両方が必要なんだよな。

結婚式でスポットライトを当てて、
新郎新婦の入場です、とやるときも、
暗転(や暗くなる)を挟む。
そういう感じだ。

余談だが、
そのスポットライトに遅刻してきた参加者が偶然当たってしまい、
ポーズをとってごまかす、
というよくあるお約束は、
何が初出なんだろうね。



強調は太くしたり大きくしたりすることではない。
周りを引くことだ。
その引き算が美しくないと、
引き算の意味がないだろう。
日本画の余白だって金箔を貼ってた。
つまり、余白は地の紙じゃなくて、
余白という金箔をつくることなんだよね。

捨てるんじゃなくて、つくる、
ということを考えると、余白や黒や無音の部分を、
どうやってつくるべきか、
を考えられるようになるかもしれない。

それはきっと、
「どう塗りつぶすか」だと思う。
僕は手書きで書くときに、ぐじゃじゃの線で塗りつぶすことがある。
デジタルのBSで消すことよりも、
本質的なことをしている自覚がある。
posted by おおおかとしひこ at 00:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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