スポットを当てることは誰でもできる。
問題は、
「スポットを当てたときに、他を上手につぶす」
が出来るかどうかだ。
あることにスポットを当てて、
目立たせることは可能だろう。
簡単にいえば、大声を出せばいいわけだ。
でもこれも強調したい、
これも強調したいとなったら、
全部大声になってしまう。
うるせえ、となるだけだろう。
大声を出す以外に強調する方法はある。
「そこ以外は黙る」ことでだ。
そうしたら、大声を出す必要すらなくなる。
静かなところがあり、
そっと何かを言うだけで、
「それが一番大事なこと」と誰もが理解する。
大声を出すのは、だから頭が悪いわけだ。
スポットを当てて強調するのと同様に、
黒く塗りつぶすことは重要だ。
黒く塗りつぶすことは、それを描かないということではない。
たとえば。
特殊能力があり、誰でも飛べる世界のSFを描くとしよう。
そこに飛行機は存在しないとしよう。
このとき、
いくら人間が飛ぶことにスポットライトを当てて強調しても、
「飛行機に負けるのでは?」という思いを除去できないと、
そのストーリーを楽しめないかもしれない。
だからわざと、
「この世界のエンジンの限界を示し、
鞄一個くらいまでしか飛ばせない」
というような「黒く塗りつぶすこと」をやっておくとよい。
ああ、この世界ではそういうルールなんだ、
と一回わかれば、
「空飛ぶマシンはない」と、
その他の黒く塗りつぶされたところをみなくて済むからだ。
それを、
ただやみくもに、飛ぶ人間だけを強調して、
スポットライトを当て続けたとしても、
大事な場面に、
ご都合で飛行機が登場するんじゃないの?
と思ったら、ハラハラできないよね。
「この世界では飛行機がない、せいぜい鞄一個の重さまで」と最初に示していれば、
「飛ぶしかねえ」という場面にハラハラできるはずなんだよね。
つまり、
スポットを当てることは、
世界を崖で切り取ることだ。
この世界はここまでしかない、という崖さえ示せれば、
この中でどうにかするしかない、
ということを最初に思えて、
登場人物たちの決断や勇気にハラハラできるはずなんだよね。
アバター2で僕が思ったのはそこだな。
「この世界では人は死なない」かどうかが、
良くわからないまま話が進んでいた。
最初の見張りをサボって敵襲を許す場面で、
大事な仲間が死ねば、
そういうことがなくなったと思う。
そいつとバカ話をしてあとでラーメン喰いに行こうぜ、
みたいな話をしていて(ラーメンじゃないが、それにあたるものという意味で)、
そいつが銃弾に倒れて死ねば、
兄弟の責任はとても重くなったはず。
あ、この世界では人は死ぬのね、
というのがよくわからないから、
アクションもわからない。
あの青い一族は人間よりずいぶん丈夫そうだから、
どうやったら壊れるのか加減が分らないんだよね。
落ちたら死ぬんだろうが、
100メートルくらいまでは無事かも知れない。
だからドラゴンに乗っているときにも、
全然ハラハラしない。
5メートルから落ちたら、人間なら大怪我か打ちどころが悪ければ死ぬだろう。
そうかどうか分らないから、
高い所でのアクションに恐怖がいまいちなんだよな。
(敵がドラゴンを手なづけようとする場面で、
スパイダーが崖の下を覗き込むのはとても怖かった。
人間なら死ぬのは明らかだからだ)
これは、
スポットをうまく当てられなかった例だと思う。
スポットはすごいCGで当てているけど、
潰せるところを潰していない感じがした。
つまり、スポットを当てるには、
「光を当てる」だけじゃだめなんだよね。
「周りを暗くする」の両方が必要なんだよな。
結婚式でスポットライトを当てて、
新郎新婦の入場です、とやるときも、
暗転(や暗くなる)を挟む。
そういう感じだ。
余談だが、
そのスポットライトに遅刻してきた参加者が偶然当たってしまい、
ポーズをとってごまかす、
というよくあるお約束は、
何が初出なんだろうね。
強調は太くしたり大きくしたりすることではない。
周りを引くことだ。
その引き算が美しくないと、
引き算の意味がないだろう。
日本画の余白だって金箔を貼ってた。
つまり、余白は地の紙じゃなくて、
余白という金箔をつくることなんだよね。
捨てるんじゃなくて、つくる、
ということを考えると、余白や黒や無音の部分を、
どうやってつくるべきか、
を考えられるようになるかもしれない。
それはきっと、
「どう塗りつぶすか」だと思う。
僕は手書きで書くときに、ぐじゃじゃの線で塗りつぶすことがある。
デジタルのBSで消すことよりも、
本質的なことをしている自覚がある。
2022年12月20日
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