2022年12月27日

【薙刀式】IMEとFEPの操作体系をまとめてみる(基本操作編)

資料が手に入ったので、
現代のIME(Windows, Mac)と、いにしえのMS-DOSのFEPの、
日本語変換操作法を比較してみた。

参考資料 
『The Guide 日本語FEPかな漢字変換システムのすべて』
下山浩司、秀和システムトレーディング、1992


僕の最初に慣れた操作法はMacのことえりで、
とてもシンプルでわかりやすい体系だ。
それからWindowsを使い始めて、
変換キーと無変換キーが何に使うのかまったくわからなかった。

ことえりの操作方法と互換性があったから、
余計に「いらんやろこれ」と思っていた。
調べるとXFERとNFERの名残らしいが、
それをどう使うのか、まとめた情報がネットにない。
ということで古本が手に入ったので、一気通貫して俯瞰してみる。

まずは現行のMacとWindowsの比較から。
Macの英数かなによる、明示的なIME ON/OFFは、
ひとつの発明だと僕は思っている。
「いまIMEの状態がどちらかは関係なく、
打つ前に最初に打ちさえすれば、
思い通りの文字が打てる」方法だからだ。
Windowsのトグル方式は、愚かだとすら思う。
文字を書くときに、
いちいちキーボードの左上と画面の右下を見るのか?あほちゃう。
IME_FEP-1.jpg

さらにわからないのは、
変換キーを再変換にも変換にも使うこと。
これをスペースキーに統合しない理由がわからない。
無変換のカタカナ変換もいるのかそれ状態。

Windowsの方法論はまるで洗練からほど遠いものだ。
これはqwertyのような、
なんだかわからないが適当に決めたものが、
洗練を待つ前に普及してしまい、
いまさら後戻りできなくなった、デファクト状態だと考えられる。

qwertyを批判して、新しい入力法を考える新配列運動において、
この無駄な動線を撤廃したいと僕は思うわけだ。
遠すぎる各機能キーも、なるべくブラインドタッチできる状態にしたい。
エンター、Esc、カーソル、シフトすら、
僕には遠いと感じられる。


さて、Windows普及前のFEPだ。
MS-DOSの頃は、各社がワープロを出していて、
そこに付属している変換エンジン&操作体系が、
FEPとして完成していたようだ。
それが各社ばらばらすぎて、今俯瞰すると笑える。
こりゃ誰かが「統一したほうがいいのでは?」となるに決まっている。
でも誰も統一できず、
Windowsという黒船で事実的に統一されてしまったのだな。
江戸時代から日本という国は変わっていないようだ。

この複雑な体系を理解するために、
まずは基本操作系を考える。

大きく分けると、
スペースで変換する流派と、XFERで変換する流派がある。
前者はATOKで、これがスペース変換の嚆矢らしい。

また、部分確定と全確定の操作を分けてあるものが目立つ。
候補選択と文節移動が同じキーにバインドされてあるものもあるところを見ると、
候補選択と文節移動は別イベントであったようだ。
つまり、候補選択後、部分確定をしないと次の文節へは移動できなかった、
と考えられる。
現在では考えられないが、
当時の貧弱なCPUパワーでは、それくらいが妥当だったのかもしれない。


つまり、
ざっくりいうと、
変換、候補選択、部分確定、そして全確定が、
どういうバインドであったか調べることで、
基本操作体系を比べることが可能になると思う。

あとは文節伸縮、候補群移動、戻し(全戻し派と一段階戻し派がある)を添えて、
比較することにした。

IME_FEP-2.jpg

では見ていこう。
ATOK7とDFJ2はスペース変換の派閥である。
候補の選択がカーソルの上下と、左右の流派違い。
ややこしい。
DJFではXFERが部分確定だったり、
ATOKでは次候補群だったりと、
混乱が生じるもとになっているね。

IME_FEP-3.jpg

ATOK、VJE、松茸が御三家だったらしい。
VJEと松茸は、
XFERを変換、
スペースを部分確定、
NFERを全確定にしている点で共通である。
しかしカーソルが逆になっている。
これはまた混乱するだろうなあ。

このやり方はかなり素直だと感じたが、
NFER、スペース、XFERの位置関係はかなり気になる。
NFERがC下であるが、左親指で押せるとは思えない。
XFERに至っては/の下だ。
右親指で押せるものではないから、小指で押してたのかな?
ブラインドタッチできないから、いちいち目線を外していたのだろうか?

その後のカーソル操作も含めて、
「文字打ちまではブラインドタッチ、
その後確定まではサイトメソッド」だったのだろうか?
だとしたら相当効率が悪い。
この時代に親指シフトとOASYSというワープロ専用機が、
覇権を取っていたのは理解できる。
僕もそれが使えるならば親指シフトを取ると思う。

IME_FEP-4.jpg

現在あまり聞かないFIXERというFEPも、
スペースが部分確定だったようだ。
しかし全確定はエンターか。ややこしい。

WXは現在のMS-IMEの基礎になったらしいが、
そうかな? だいぶ違うね。

これの特徴は、
「文字打ちを終えたら、
右手を右下にずらして、その狭い範囲内でブラインド操作する」
という動線にあったと考えられる。
NFERとスペースを使わないことで、
右シフト近辺ですべてを完結させていたことが想像される。
「動線の合理性」という点で言えば、
これがもっとも合理的じゃないかなと思った。
(もっとも、変換キー、無変換キーのように、
親指近辺にXFERとNFERが来れば、
さらなる合理性は発明されたかもしれないが)

IME_FEP-5.jpg

EG Bridgeはその後のことえりの基礎になったらしい。
XFERとスペースキーを統合させれば、
たしかにことえりと同じようなものになる。
部分確定がないと考えれば、ほぼ動線は一致する。

NECAIはなんかバラバラだな。
MS-DOS同梱で、しかも98が一強だったというのに、
サードパーティーに負けていたそうだが、
この操作性では使いにくくてしょうがないだろう。

IME_FEP-6.jpg

Katanaは初めて聞いたものだが、
全確定と変換がNFERとXFERという、
これが親指だったら使いやすかったろうに、
というバインドになっていた。

参考までに薙刀式の基本操作を示す。
全確定は同時押し。
(句読点確定があるので、そこまで全確定を使うことはない)
IMEのオンオフは、標準運指では使わない組み合わせの同時押しだ。

これまでのIMEを全否定して、
「これくらいじゃないとホームポジションから手を動かさずに使えないだろ」
と批判するだけの、
まとまった動線を持っていると思った。


そういえばどのFEPもCtrl+XFERのトグルが、
オンオフにあてられていて、
それは遠すぎだろうと感じた。
まずその点で、使い勝手やスピードに劣ると思う。
変換速度やエディタの処理速度などもあるだろうが、
この当時の文字打ちはよほどゆっくりだったんだろうか?

秒3〜4カナの親指シフトが、
「爆速」と呼ばれる理由が分かったような気がする。
これらのものを考えれば、
どんな配列だったとしても、
600字(変換後)/10分は、
難しかったのではないだろうか。
変換効率もよくなかっただろうし、
手書きより遅いが、きれいな印字がある、くらいだったのかもしれない。


Windows普及に各社のFEPの開発は間に合わなかったらしく、
その間に人々はMS-IMEに皆慣れてしまったらしい。
無料でついてくるものに慣れてしまうのは、
人類の皮肉かもしれないね。

まあ、他のFEPの操作体系が、特別よさそう、
とは思えない。
エンターとEscとカーソルを排除して、
親指だけで使えるようになるべきだったと、
俯瞰した現代からは思えるが。



来る3月のキーボード入力ハッカソンで、
tkenさんが、「あたらしいIME操作を考えようぜ」
と提案している。
その基礎資料になれば、と思った。

単純に、僕が知りたかったということもある。
XFER、NFERってなんのために使っていたのか、ということを。

結果的にいうと、
英語配列に間に合わせ的に追加したなにものかにすぎず、
(場所的にはUSのAltの代わりだね)
もっと効率のよい動線を練るべきではなかったか、ということだ。

これではフリックに勝てまい、というのが結論。

変換キー、無変換キーが廃れるのもよくわかる。
たいしていらないキーじゃないかこれ。
Macの英数かなに統合されかかっているし、
もうこれでいいんじゃないか。

もし当時これらのFEPを使っていて、
これがいいんだよ、という僕の知らないことがあったらコメントください。

僕は合理的で使いやすい日本語入力法に興味がある。
それは、現行システムがあまりにも効率が悪いと感じているからだ。
だから僕の知らない合理性を、もっと知りたいのだ。



応用篇は、余裕があればやる予定。
posted by おおおかとしひこ at 21:59| Comment(0) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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