2022年12月31日

ハラハラさせろ

映画はあなたの自分語りをする場所ではない。
観客が楽しむべきものである。

「楽しみ」にはいくつかある。
そのうちのひとつ、ハラハラを書けるか?


簡単なのは崖の上だろうか。
高いところはなんでもだ。

ベランダ伝いに隣へいかないといけないシチュエーションとか、
1Fや2Fならいいけど、8Fとか15Fになると、
肝が冷えるよね。

高いところはそれだけで原始的な恐怖があるから、
目的に対する行動の障害にそれを置くと、
ハラハラすること請け合いである。


ただそんなに都合よく高いところでのアクションがあるとは限らない。

そうすると、
何がハラハラの正体か?
ということになる。


ハラハラの正体はふたつ。

ひとつは感情移入。
この人の目的遂行に対して、
それを見届けたい、応援したいという感情だ。
これがないと観客は映画を見ない。
「成功しようが失敗しようが、どっちでもいいわ」
と思うのは、感情移入が途切れて退屈が始まっている証拠だ。

ふたつめは、
「できないかも知れない」という不安である。


ケータイのない時代の待ち合わせは、
「会えないかも知れない」という不安と隣り合わせで、
「橋の上と下で相手を待ち続ける」
という絵が、「君の名は」(オリジナル版ね)
で作られたわけだ。

「会いたい」のはわかる。
そこで「会えないかも知れない」という不安をつくるわけだ。

「橋のたもとで待ち合わせ」と振っておいて、
一方が橋の上、一方が橋の下で待てば、
「気づかずに来なかったと思って、
どっちかは帰ってしまうかも知れない」
という不安が観客によぎる。
だからハラハラするわけだ。
「会えるの? 会えないの?」と。


ある目的があり、
その行動を取れば目的の一段階が進むと、
分かっているとする。
それをつねに明快にしておくのは、
ストーリーの条件ですらある。

この時、「うまくいかないかも知れない」を、
上手に提示することで不安をつくるわけだ。

だからハラハラが起きる。

「どうせ成功するんだろ?」
とたかを括ってる観客を、
揺さぶるわけだ。


「お盆にコーヒーを持って客に運ぶ」だけでも、
床が濡れてるとか、
子供が走ってきて足にぶつかるとか、
部活の客からボールがこぼれて踏みそうになるとか、
「こぼすかも知れない」
という不安を煽ることは全然できる。

そして途中に、
「絶対こぼしちゃダメな人がいる」としよう。
天皇陛下でも構わないし、
視察に来た本社の人でもいい。
濡れたら死ぬ病気の人でもいい。

そうするとハラハラが始まるわけだ。
運ぶのが認知症のおばあちゃんなら大冒険だ。


高いところを応用すると、
崖の上のカフェだとして、
崖を伝って運ばないといけないシチュエーションにすればよい。

つまり危険である。

危険は、死ぬとか怪我するかも、だけでなくても良い。
「絶対失敗できないシチュエーション」でもいいのだ。


あなたが緊張する時はいつか?
人が緊張する時はいつか?

そうしたものを持ってくるだけで良い。

葬式で絶対笑っちゃいけないシチュエーションをつくるのも、
そういうことだ。
絶対セクハラできない場で下ネタを言う必要がある、
でもいいわけだ。

なんだったら台無しになるか、
なんだったら失敗になるか、
などを考えて、
それをその場に仕込めばいいわけだ。

やべえ、失敗するかも知れない、
を入れ込むことで、
一挙一投足に緊張が加わる。


米に文字を書くでもいい。
何かを綺麗に切るでもいい。
無限にあると思ってたのにラスト一個です、でもいい。
アンドゥできない何かを持ってくるだけで、
失敗できない緊張をつくることができる。


あることをしなければならない、
やりました、
次これをやる必要があります、
やりました、
になるだけのものは、
お使いゲームになる。
それはハラハラがないよね。

あるいは、
イージーな作業だと思ってやってたら、
浮気がばれそうになる、
という別の危機が来たっていいわけ。

そうすることで変化をつけられる。


まっすぐ行きたいときは勿論まっすぐ行くべきだが、
ここでハラハラできるといいのに、
と思うならハラハラするべきだ。

「ミッションインポッシブル: ゴーストプロトコル」では、
必ずアクシデントが起きて、
計画通りに行かなくなり、
どうやってアドリブで切り抜けるのか、
というハラハラの例が沢山出てくる。

そのハラハラがメインディッシュになってるわけ。
スパイ大作戦らしいエンターテイメントだと思う。


ハラハラできるシナリオか?

別にアクションじゃなくてもいいんだよ。
彼女のハートをゲットする話でもいい。
「ここで失敗したら、何もかもだめになる」
が作れればなんでもいいはずだ。


僕の好きな海外のCMで、
たしかギネスビールだったと思うが、
全編モノクロで、
ギネスをジョッキに注いで、
家までお使いしなければならないというやつがある。

途中で何故か戦場を通り、
銃弾を避けてビールがこぼれそうになる。
で、やっとお屋敷までついたと思ったら、
ビールがうまそうで、ちょっとくらい飲んでもばれんやろ、
という悪魔の囁きに取り憑かれて、
ちょっとくらいと思ったら一気飲みして台無し、
みたいなコントだ。

「絶対こぼしちゃいけない」
「ビールを届けないといけない」を、
うまく使った、ハラハラの名作と言える。


ハラハラはスパイスである。
いや、メインディッシュかもしれないね。
アクション映画なんて、
「失敗したら死ぬやつを成功する」を楽しむんだぜ?
posted by おおおかとしひこ at 00:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『アイス・ロード』がもうめちゃくちゃこれ上手でした
Posted by ほら at 2022年12月31日 13:29
>ほらさん

見たことがなかったのであらすじだけ知りました。

なるほど、
「氷上の上を重たいトラックで走る」と、
いきなりメインディッシュをそれに持ってきたわけか。
それだけだとストーリーにならないから、
事故で閉じ込められた人々を救うためとか、
その事故には隠された陰謀が、
とかに肉付けされていくわけですね。

「スピード」「新幹線大爆破」と同じ、
タイトロープ系とジャンル分けできるかもですね。

ちなみにドキュメンタリーですが、
「マンオンワイヤー」はずっとハラハラしてられる、
「綱渡り師が、完成前のワールドトレードセンターに潜り込み、
夜明けとともにツインタワーを綱渡りする」
ことのドキュメントです。
落ちたら死ぬし、そもそも前日の仕込みで見つかるかも知れないしで、
ハラハラしぱなしの一級エンターテイメントです。
Posted by おおおかとしひこ at 2022年12月31日 15:23
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