2023年01月09日

【自キ】打鍵感の追及

打鍵感はどうすれば良くなるか、
打鍵音はどうすれば良くなるか。
これは昨今の自作キーボードの追及テーマのひとつだ。
ここ最近色々工夫して、
分かったことを書いておく。

目標は多分一つ。
「キーの底打ちに対して、一つの振動になること」
だと思っている。


完成イメージは、
「全体が一つの質量、剛体になる」
ことじゃないだろうか?

打鍵感が純粋である/濁りがある、
という評価軸を考えよう。

全体が一つの剛体であるならば、
内部に余計な振動がなく、
ひとつの物体として振動する。
この時ピークが低いと打鍵音が静かで、
ピークが高いと打鍵音が聞こえる。
どちらも、
一つのピークですとんと落ちるような振動だと、
打鍵感が純粋になると思う。

そうでなく、打った時の振動が、
パーツ間の軋みになったり、
別の周波数の振動になってしまうと、
濁ったものになると思う。

従って、
対策は二方向ある。

1. パーツ間の接合をしっかりして、
 ひとつの弾性剛体にすること
2. 質量を重くすると、余計なビビリを避けられる


1は、主にシリコンなどの柔らかいものを挟んだりすること、
2は、主に質量のある金属塊を使うこと、
で実現されている。
あとは、
振動の残響を吸収して音の濁りを取るために、
吸音材が使われる、という程度だろう。

1には、シリコンによるガスケットやOリング、
金属によるリーフ、最近だとバネ仕込みも出てきた。
2には、金属ケースを使うことや、
内部に鉛を仕込んだりコンクリで固めたりなどがあった。
トッププレートを金属系にすることもそれだろう。
ただしトッププレートを金属にすると変形しないから、
打鍵感が硬くなる傾向があり、
弾性変形をしやすいアクリルのほうが柔らかくなることが知られている。



以下、僕のやったこと。


まず構造をみていく。

指→キーキャップ→キースイッチ
→トッププレートとPCB
→ケース全体
と振動が伝わる。

振動は厳密にいうと3回ある。

ステムが静止から運動を始める時(チャッて音がする場合もある)、
底打ちする時(ここがメイン)、
戻ってトップハウジングが当たり、静止する時
(ここでカチャッていう)。

他にも、
ステムとハウジングの擦れによる擦れ感、
バネのコイル同士の擦れによる軋み感がある。

前者は摩擦係数が低い滑らかなスイッチを使えば解消する。
(Pearlioの100%ウムピエが最上か。
ルブによる潤滑油である程度どんなスイッチでも解消するが、
油自身の抵抗もある。
ボナンザによるフッ素コーティングルブもよいが、
そもそもガタついてるスイッチには効果が薄い)

バネの軋みはKrytox 105による定番のバネルブで解消する。
ゴールドスプリングのほうがメッキがあるため、
金属同士の擦れ感は少ない。

で、適切なバネを選んだり、ルブしたりするなどして、
この二つの影響を減らせるとしよう。

となると、
対象となる振動は三つあるわけだ。
イニシャル、底打ち、戻り。

打鍵感の純粋さを考える上で、
「底打ちのみにしたい」が純粋ではないか?

イニシャルの振動は0に越したことはない。
スルッとスタートしたい。

戻りの振動は、いらないと思う。
これがカチャ音の原因。
チャッ、スコン、カチャを、
スコンだけにしたいわけ。

JWK SemiSilentの、打鍵感への新しい提案は衝撃的であった。
底打ちは生のままで、戻り音だけを静音化するアイデアだ。
戻りの振動がなくなるだけで、
底打ちだけの純粋な打鍵感になる。

つまり、
イニシャルと戻りの振動を、どうにかして吸収できるとよい。


戻りの振動の吸収は、
僕はずっとやってきたので、
簡単にまとめておく。

トップハウジングの、
ステムの両肩が当たる部分に、
柔らかい何かを固めることだ。

今回やったのは、
ステムの両肩の当たる凹み部分、
1.5mm×0.5mm×0.5mmの空間を、
タイル用の目地材(シリコンゴム)で埋めること。
で、ゴムがペタペタするので、
ルブして潤滑した。

このことで戻りを吸収できるのだが、
イマイチ戻った時に響くので、
2mm厚のシリコンを切り、
スイッチの北側のLED透過用の切り欠き部分に挟んで、
振動を吸収している。
04764A6E-2B7E-4DC9-B899-91D31E458F6F.jpeg

こんな感じ。
とりあえず挟んでいるだけだから、
ポロッと取れるので、これが良ければ接着予定。

ゴムの質量もそこそこあるので、
これでイニシャルの振動も吸収できるっぽい。


Pearlioのスプリングは62gと重いので、
親指、薬指、小指は、
Sprit Designsの30s、
人差し指中指は、
Wuque WST350の3ステージを2ステージにバネ切りして、
35g程度にしたものを入れてある。
ともにやや軋むのでバネルブ済み。

ここまでがスイッチの工夫。

またオールコンベックスキーキャップは3Dプリントなので、
精度が怪しい部分もあり、
Pearlioのヌルヌルステムとのはめあいがゆるいので、
サージカルテープを2枚重ねで間に挟んである。
これによって指からステムまでが剛体になりやすい。


このキーキャップ+キースイッチユニットを、
以下にはめていく。

トッププレートとケースの一体型の、
ケースマウントを採用している。
塊になって打鍵感がよくなることを期待してだ。
PCBとの間にシリコンシート0.5mmを貼り、
ケースとPCBが弾性体になるようになっている。



PCBとボトムプレートの間は、
3mm×3mm×16mmの真鍮の四角柱
(手芸用のブロックで3穴が空いている)
を中国から輸入したので、
これを敷き詰めて骨とした。

MiniAxeはやや複雑な構造をしているため、
骨を幾何学的に渡すことはできないため、
こんな形になった。
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PCB→両面テープ→真鍮→両面テープ→0.5mmシリコンシート→アクリルボトムプレート
という構造。
これによって、
底打ちの衝撃が、
金属とシリコンの弾性体に吸収される仕組み。

変にPCBがたわまないことで、
非常に硬く、面で落ちる感じになり、
それをシリコンとアクリルプレートが吸収する仕組み。

一部真鍮骨のサイズが足りないところは、
シリコン2mmを積層して4mmにして、
骨の代わりとしたところもある。
これは結構柔らかめになるので、
余裕があれば真鍮骨の切断をやりたい。
(手持ちの工具だと無理だった…)


スイッチの下には、
真鍮スペーサー二つをシリコン接着剤で結合した、
直径7mmの円柱型真鍮が仕込んである。

このことで、底打ちが、
「プラスチックの下に巨大な金属があるものを叩いている」
という感覚になる。
打鍵感が金属的になる、
つまり、
打鍵した力が鋭く、純粋に返ってくる。

これだけだと余計な振動が拡散するだけなので、
PCB全体で受け止めている構造だ。



全体をまとめると:

【行き】



3Dプリントアクリルキーキャップ
サージカルテープ2枚
ウムピエステム
横の力をスイッチ側面とケースマウントのシリコンで吸収
ウムピエとPCハウジングとの摂動(Pearlioの力!)
ステンレスバネ+ルブ
PCハウジングで底打ち

真鍮円柱で振動拡散
PCB
真鍮骨
シリコンシート
アクリルボトムプレート
ウレタンゴム足




【戻り】

ウムピエステム
ルブ
目地材ゴムで吸収
トップハウジング
スイッチに仕込んだ厚めシリコンで吸収


という感じかな。


これでようやく?満足が行く打鍵感になった。


音はあまり気にしてないが、
純粋な音になる
(=おそらくフーリエ分解しやすい、
雑味のない音になる)
ほうが、打鍵感も純粋になったと思う。

余計なサリサリ感や、チャッ感をなくしていったので。

あとはこの音を吸収するか、
ケース内で反響させるかを選ぶことになろう。
僕はこの音が気に入ったので、
ポロンとかを仕込む予定はない。


マクベが壺を叩いて、「いい音だ」と言ってた気持ちがわかったよ。
純粋な音であればあるほど、
余計な振動が起こっていない、
雑味のあるものでないほど、
「ひとつの振動」に収束しているわけなんだね。

それなりに重い物体で、
均一であれば、
一つの振動になり、結果、いい響きになるに違いない。
澄んだ音になるのは、いい振動をしてる証拠だね。


ということで、
いい音だといいながら打つキーボードはいいぞ。
音は気にしてないが、
振動が素晴らしく良い。
posted by おおおかとしひこ at 08:43| Comment(0) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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