頻繁に視点を変えると、何が何だか分からなくなる例。
Twitterから。
> 帰りの電車の行き道のコンビニがこれを売り始めてしまったのでヤバい。
> 問答無用で家に着く頃には酔っ払っている。
このあとにホヤの干物の写真。
ネタ自体はヤバくて好きなのだが、
一行目の視点の混乱について解説しておく。
これが何故混乱を招くか解説して、
どう直せば良いか訂正できるか?
はいシンキングタイム。
視点の混乱という話なので、
問題はここ。「」をつける。
> 「帰り」の電車の「行き」道のコンビニが
帰りと行きで「?」となるわけだね。
帰りというのは、「家に帰る」方向であり、
この時点では視点は客観にいる。
家と駅という俯瞰的な客観で、
だから行き(家→駅)と帰り(駅→家)の、
二種の概念が区別できる。
しかしその高々4文字後、帰ってたはずなのだが、
「行き」になって「?」となる。
ここで、書き手の主観に視点が移動してしまっている。
これは、
「わたしが進む途中の道で」の意味だ。
家に帰る方向だろうが、
駅に行く方向だろうが、
途中にあり、前を通りかかるコンビニなのだろう。
つまり、この場合の「行く」方向は、
駅-家軸の客観ではなく、
「私が行く」の主観である。
客観と主観が、一文の中で混在しているため、
「読者はどこから見ているのか」
の軸足がぶれて、混乱するわけだ。
対策はふたつある。
客観に揃えるか、主観に揃えると良い。
客観の場合。
帰りの電車から降りて途中のコンビニが
主観の場合。
駅から家の、行き道のコンビニが
もちろん言葉尻はいくらでも変更できるが、
分かりやすい解答例を示した。
あなたはきちんと、
なぜダメか解説できて、
この二種類の二つとも答えられただろうか?
それが出来ないのならば、
視点についてきちんと考えていないのではないか?
視点は一つであるべきか?
視点はあちこち行ってもいいか?
たとえばAの視点、Bの視点、Cの視点のように、
うろうろしてもいいか?
その基準はなんだろう?
これは小説においては、
人称の問題として古来から議論されてきたことで、
詳しくはググってください。
我々の扱うものは、
映画シナリオなので、
「必ず客観で書いてください」が答えだ。
一人称、主観は禁止ではないが、
99:1くらいで三人称、客観で書いてください。
カメラが撮れるのは、
「その人の見た景色」ではなく、
「その景色を見ている人」だからだ。
我々観客は、
その人物の中にはいなくて、外にいる。
もっとも、カメラをその俳優の中にめり込ませられれれば可能だが、
そうするとその俳優は死ぬだろう。
(VRやCGを活用して、
その人物の中へカメラが入り込む表現は可能で、
それは主観客観混在型の小説では、
よくやる手法だ)
さて、
では客観と主観、
それぞれの主観の切り分けはどうすればいいか?
原則はひとつ。
「今どこから見ているか、
観客が明快に分かっていること」だけ。
だから、
この話も、
「駅から降りた帰り道、
そこをしばらく行くとコンビニがあって」
みたいに、
客観からスムーズに主観へつなぐことは出来るんだよね。
ただそう書くと、
この話の伝えたいところである、
ホヤの干物までの距離が長くなるから、
出来るだけ説明書きははしょりたい、
という筆者の気持ちはよくわかる。
で、
だとするとコンパクトに、
「帰り道のコンビニで」までまとめてしまえば、
別に駅とか家とか電車とか不要だよね、
となると思う。
そしてこうした文章は簡単に視点を移動できて、
「きみらの帰り道のコンビニにはないと思うんだけどさ、
ウチの帰り道のコンビニには」
というふうに、二人称から一人称へ、
スムーズに視点を移動することも可能だ。
こんな風にして人称や視点を自由自在に動かせて、
はじめて一人前だ。
なんなら、
「帰り道のコンビニへ寄ろうとする私を、
後ろからつけている男がいた。
その男から見たら私の挙動は怪しかったのだろう」
なんて感じに、
簡単に主観から後ろの男から見た主観へわたり、
それを推測する私の主観にすぐに戻せるわけ。
これらは小説形式、自由文形式では可能だが、
シナリオではできない。
なぜならシナリオは客観、三人称形式だからね。
でも一人称へ次々と切り替えることもできる。
その人物がそこにいて、
その人物から見たそのことを描くことも可能だ。
腕があればそれを分かりやすく提示することもできるので、
試しにやってみればよい。
ちなみに黒澤の「藪の中」は、
それにまともに取り組んだわけだね。
まあTwitterレベルでは、
これくらいの間違いはしょっちゅうだし、
意味は大体取れるから構わんとは思う。
ネタの鮮度のほうが大事だし。
でももしこれがプロの文章なら、
視点のことをどう考えているのか、
小一時間議論したくなるね。
「全部わかった上でよくある間違いまでうまくトレースした」
なら通ってヨシだけど。
2023年02月02日
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