2023年03月05日

フォーカス

昔360度型の映像企画を出したときに、
改めて映画とはなんぞやと思ったこと。


360度映像は、編集点が入らない。
入るものもあるが、
それはシーンチェンジのときで、
アップとロングが切り替わったり、
切り返しで人物のアップを抜くわけではない。
つまり映画的なモンタージュを捨てることになる。
ということは、
演劇的になるということだ。

さらに、
360度だから、
前方性がなくなる。
つまり、
椅子に座って前だけ注視していれば良いのではなく、
360度自由に見ることがウリだから、
どこで何が起こってるかが自由になる。

あるストーリーが移動して、
強制的に全員を同じ方向に動かすこともあろうが、
それだとスクリーンがデカくなっただけだから、
「みんなが同じものを見る」ことも捨てることになる。

つまり、360度いろんな所に、同時に見るべきものがあり、
その全てを一度に見ることはできない、
ということになるわけだ。

それは人生と同じようなものだ。
人は世界で起きていること全てを見ることができない。
よそ見してることもあれば、背後で起こっていることもある、
事件や進行は同時多発的で、
何に関わるかは自分で選んでいく。


ここまで考えて、
僕は360度映像は円形劇場だと思った。
円形劇場で同時多発的に何かがあり、
同時多発的に人が関わったり別れたりすればいいんだなと。

ただ喋りが同時に聞こえてるとうるせえなと思い、
パントマイム的な物語にすればいいのではと考えた。
音楽はどうだろう?
たまたま楽隊がそこにいれば音楽は奏でられるし、
街にスピーカーがあれば音楽は流せるが、
物語にあった、感情を増幅する、
劇伴は使えないと思った。

カメラワークはない。フィックスだろう。
外だろうが室内だろうが、360度の視点を確保するためには、
真ん中にカメラがいるべきだろう。

あとは、列車の運行表のように、
各キャラクターの進行表をつくれば、
各々の人生を表現できるはず。


とここまで考えて、
映画とはフォーカスするものである、
ということに気づくわけだよね。

つまり、
360度で起こっている全部ではなく、
一人の人(=主人公)をずっと追いかけるわけ。
もちろんそれに関連する重要人物にフォーカスすることもあるけど、
主人公メイン、主要登場人物サブ、
のようなフォーカスを当てることが、
人生から物語を切り離すことだと気づく。

無限にある空間、無限にある時間、
同時進行する絡んだ無限の因果の糸たちから、
主人公に関するものだけを切除したネットワークが、
ひとつの物語なんだよな。

で、カメラワーク、編集、音楽によって、
そのフォーカスをさらにフォーカスしたものが、
映画なんだな、
という、
ごく当たり前の本質にきづくわけ。


結局、この360度映像は、
「ストーリーものは難しい」として断った。
箱庭的な小さな話の同時進行で、
ちょいちょいストーリーラインが絡み、
なんてことを創作することは可能だけど、
だったら太い一本の物語の方が、
トータルで面白いと感じたからだ。

群像劇よりも一本の太い話が面白いことと、
僕は同じだと思う。
グループアイドルよりも、
ピンでやってる方が可愛い子が多いことと、
同じだと思う。

もちろん、グループアイドルならではの魅力はあるが、
じゃあ360度映像ならではって、
物語じゃないんじゃない?
って僕は思ったんだよね。
それこそグループアイドルの控え室の一時間みたいな、
時間を共有するドキドキみたいなことでいいんじゃない?
って言った記憶がある。
ピンマイクはつけておいて、
自分の見た方向だけ音が聞こえるようにすれば、
ひそひそ話も聞き取れていいんじゃない、的な。


それと映画とどっちが面白い?って思って、
僕はそれより面白い映画は死ぬほどあると思ったわけ。


映画的な物語は、
つまりはフォーカスである。
全ての人生を描かない。
ある一つのまとまりにフォーカスする。

つまり、その他を99%捨てる。
そのことによって、
芳醇さを確保するんだな。


初めて3Dの本格劇映画「アバター」を見た時も、
同じことを思った。
横向けないんだこれ、
前でやってるだけなんだ、って思ったんだよね。
3Dじゃないじゃんと。
前面性があるんだと。

これらが解決するのはオープンワールドまで待たなければならなかった。
しかしオープンワールドが出て思ったことは、
何をしていいか分からないってこと。
公園に放り出されて、色々あるけど、何すればいいの?
って途方に暮れる感じ。
何かを見つけて遊ぶけど、それが遊んだことになるのかなあという不安。
もっと面白いことがあって、自分はそれを見逃してるのでは?
という不安。

アナウンスしてくれよ、今これがアツいって、
と思う不安。


物語はその中で一番アツくて面白いものに、
徹底的にフォーカスしたものだ。
オープンワールドの99%は捨ててね。

逆に、そんだけフォーカスして、
オープンワールドに負けてるのは、
シナリオが悪いぜ。
posted by おおおかとしひこ at 03:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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