2023年03月28日

文字数を気にするな

初心者にアドバイスするべきことは山ほどあるのだが、
これも言っておくべきだろうな。

文字数を気にするな。
文字数を気にせずに完結させる経験を、
数多く積みなさい。

なぜか。



初心者のうちは、「これでいいのか」と、
よく不安になる。
いやいや、まあ、これくらい書いたんだから、
と目の前の原稿を見る。
で思うわけ。「今何文字くらい書いたんだろう?」

僕がデジタルで書くことを勧めないのは、
デジタルだと左下とか右下に、
文字数が出てしまうこともある。

「今何文字目」ほど、
あなたの気を狂わせる情報はない。


精々、
「今○文字書いて、これは物語全体の2割だから、
これを5倍したものが全体文字数になるだろう」
という概算にしか役に立たないことに注意せよ。

それ以外の情報は、
あなたを疑心暗鬼にさせ、
せっかく出来かかっていた物語の芽を摘んでしまうぞ。


たとえば。

「このままのペースでは大幅に字数をオーバーしてしまう。
はしょろう」→結果、端折りすぎてつまらなくなる

「このままでは既定字数に全然足りない、
何か付け加えなければ」→余計なコブのついてるダレ場に

「○ページまでに第一ターニングポイントが来るべきだから、
だいぶ遅れてる/足りてない」→同上

「三幕理論によれば○ページあたりに○○が起こるべき、
だからそこにこのイベントを持ってこよう」
→ストーリーの要求するリズムが崩れて、
 余計なものが差し込まれたようになる

「何を書くべきか分からなくなった。
三幕理論によれば○ページに○○が起こるべき、
よしやってみよう」
→同上。
 ○○というイベントへの伏線やつくりもなく、
 その影響もうまく描かれず、
 全体のストーリーと関係ないものになりがち。


などの事故が起こりやすい。

「困った、つぎどうすれば分からない」は、
最も執筆でよくある事件だ。
だから、
「今の現在地を確認して、地図をみよう」
と思う心理は正しい。

しかし、
現在のページ数を基準にするべきではない。
基準にするべきは、
「あなたの計画」である。

それが三幕理論に従ってなくても構わない。
既定文字数大幅オーバー、大幅ショートでも構わない。
まずは、
「歪んでいない、計画通りのもの」を完成させなさい。

型に嵌め直すのは、二稿以降でやること、
と覚悟しなさい。

まずは自由演技をするんだよ。
編集はあとでやる。
最初から「○文字目に○をしなきゃ」って、
硬くなってるやつの演技が面白いはずがない。
初出場の試合でガチガチになってるやつと同じだぜ。

まずはリラックスしながら、
最初に計画した妄想通りのものを書き終えなさい。
楽しい/感動する/ワクワクする、その妄想を書き終えなさい。

ページ数に関する理論は、
全体に関する理論であり、部分の理論ではない。

たとえば三幕理論における、
「○ページに○○がある」は、
全体が120ページの前提がある。
全体が150だったり70だったりしたら、
具体数字は全然違うよね。
1:2:1になるべき、という比率の話で、
120×1/4=30という計算をしてるにすぎないんだぜ。

バスト90だとしても、
ウエストが120じゃ意味がない。
ボンキュッボンのバランスが重要なわけで、
部分の数字が重要なわけではない。

あなたはウエストが120とか5なのに、
「バストが90であるべきなのに89しかないようー」
って言ってる人と同じだ。
「まず全体を見せろ。話はそれからだ」
だろう。


ページ数をチラチラ気にしてる話は、
「チラチラ気にしてる話」にしかならない。
ああ、はしょったな、とか、
ああ、引き伸ばしたな、ってのは伝わるものだ。
それよりも、
「その話が収まる自然な文字数」
でまずは書き切るべき。

それが5万字予定が20万字になろうが、
1万字でエンドだった、でも構わない。
まずは自然体をつくってから、
鍛え上げればいいだけの話。

なぜなら、
「お話は字数を知らない」からだ。

動機、行動、事件、解決、
泣ける話、感動する話、爆笑する話は、
構成要素の中に文字数を持たない。

その物語が持つパワーは、数字と関係がないからだ。


まずパワーのある物語を書きなさい。
パワーのある物語を作る力と、
編集力は無関係の力だ。
どちらかがうまくてどちらかは下手かもしれない。

そして、パワーのある物語だが字数が変なのと、
字数が整っているが詰まらない物語では、
前者しか勝てないのだ。

まずは型破りからはじめろ。

あとで整えれば良い。
小さくまとめてはいけない。
のびのびとやって、枝葉を刈ればよい。
最初から枝葉を整えて出しても誰も褒めない。

皆が期待してるのは、
型破りのとんでもないパワーであり、
今まで見なかったものであり、
理論上正しいことではない。



なので、
僕はデジタル執筆を勧めない。
焦った時、不安になった時は、
疑心暗鬼の塊になるもので、
文字数が出ていると不安しかなくなるからね。
「これでいいかな?」と不安になってる人のデートは詰まらない。
「色々間違ってたけど、楽しかった」というものを目指しなさい。

白紙に手書きで書くことは、
だからとてもいいよ。
不安にはなるが、その不安が作品を良くすることはなくて、
制限をかけてくることしかしてない、
ということに気づければ、
まずは新雪に行けるところまで行ったろ、
って思えてくる。

そのパワーは、そういった覚悟(やノリノリ)からしか出てこない。
そのパワーが人を惹きつけ、引っ張る。


ちなみに今、
おそらく20万字くらいになるだろう小説を書いている。
計画の8割5分で、A4で手書き187枚書いた。
僕は大体A4一枚で800字くらい書くらしいので、
374枚換算書いたことになり、
全部で467枚くらいになるだろう。
原稿用紙換算で18万7000字くらいになるわけだ。

この見積もりは、「いっぱい書いたなーへへへ」
という自己満のためだけに計算している。
全然足りてないとか大幅オーバーとかまったく考えてない、
ボーボーに毛が伸びた状態だ。
整える仕事はあとでやると思ってるので、
まずはこの新雪を最後まで行くことだけを考えている。

あとで全体のプロポーションを見て、
整えるのに時間はかけるだろう。



整えることと、自由にやることは別の仕事だ。
文字数を気にするのは自己満だけにしておきなさい。


そもそも、
計画がその文字数と倍以上違ったりしたら、
計画が甘いんだよね。
でもそれは、
完結の回数だけ精度が上がるよ。
「○分後に射精するセックス」が童貞に出来るわけはない。
まずは沢山経験することだ。

経験だけが計画を正確にする。
経験不足のやつの甘々計画なんて無視しとけ。
posted by おおおかとしひこ at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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