2023年05月26日

タイトルが変わると内容も変わる

イマイチだった短編を書き直した。
書き直す方針として、タイトルを変えるとうまくいった。


最初は、
「憧れのクリーニング屋さん」だった。

若い頃クリーニング屋さんを覗き見して、
美人に惚れていた男が、
出世してスーツを着る仕事になり、
初クリーニングをその店に出しに行く。

それを「二周目」というタイトルに変えただけで、
構成が全然変わり、より面白くなった。

前者のタイトルだと、
ヒロインへの片想い、
つまり過去にフォーカスされたタイトルだったが、
後者のタイトルだと、
「人生は二周目からが勝負です」
というラストに落とせる、
未来へ向けたタイトルになった。


「何を描いた話か?」
という問いに答えることはなかなか難しい。
作者すら、本当のところは把握してないこともある。

特にイマイチな話の場合、
背骨がぐにゃぐにゃになってることが多いわけで。


そもそもこのストーリーは、
憧れのクリーニング屋さんという、
シチュエーションやキャラクターありきで思いついた。
つまり点なんよね。
まあまあキャッチーなタイトルだから、
いいかと思ったんだけど、
そこでヒキのある部分は、
テーマと関係ねえな、と思ったわけ。


で、
「これは何を描いた話か?」を問い直すわけ。
ぐにゃぐにゃの背骨だけど、
オチはなんだっけ、
ハッピーエンドなんだっけ、バッドエンドなんだっけ、
と考えて、
「人生は周回遅れかも知れないが、
一周目で事故ることもある、
二周目からが勝負だ」
というビターエンドながら希望のある話なので、
そこにフォーカスするタイトルに変えると、
構成が全く変わったんだよね。

最初のタイトルだと、
時系列通りに描いていた。

ところが「二周目」にすると、
冒頭のシーンは、
二人が飲みに行く店を探してさまよい、
繁華街を一周してしまった場面からスタートになった。
スーツ仕事に転職する男と、
旦那を亡くした未亡人、
二人の人生後半戦に入った男女は、
繁華街を二周目に入る、
というラストシーン直前から、
話を始めたら、
「二周目」に落ちる構成となった。

あとは回想として時系列にするかなあ、
と思ったが、
回想の入れ子にすると構造的に面白いや、
と思い、
時系列を入れ子にすると、
より引き締まった話になった。


タイトルを変えただけで、
全体の構成が大きく変わり、
テーマを表現しやすい構造に、
勝手にストーリーがうねうね動いた感じ。


タイトルの付け方には2通りある。
面白そうなコンセプトからつける方法と、
結論(テーマ)からつける方法だ。

前者は点であり、面白ポイントからつくられる。
後者は線ないしテーゼ。
タイトルは、
その線からヒントを得た点でも良い。

前者は派手でキャッチーなものを作りやすく、
後者は地味なものになりやすい。
キャッチーなのはキャッチーな名詞であることが多く、
地味なのは動詞であることが多い。

「二周目」はとても地味なタイトルだから、
もうちょい派手にしたくなる。
「チェッカーフラッグ」くらいキャッチーな、
周回遅れを示す何かがあれば良かったが、
そんなものはなかったので、まあいいやと覚悟した。


間違うくらいなら、
本質に忠実なタイトルにしよう。

地味で目立たないからヤバいと焦らないことだ。
その地味な話はその地味なタイトルが、
一番相応しいのだ。

「憧れのクリーニング屋さん」では、
ヒキはいいものの、
結論の落ち方がぐにゃぐにゃで、
典型的な入口詐欺で終わっていた。

だからそれを立て直すために、
「この話の本質は何だろう?
この話は何について描いたものだろう?
この話の結論、テーマはなんだろう?」
と問い直し、
全体に背骨を通したわけだ。

そのことで、
そのタイトルに相応しくなるように、
ストーリーが勝手に形を変え、
それに応じてエピソードが並び替えられる。


こういう時は、
白紙から書き直した方が早く書ける。

前の原稿を気にしてたら良くならない。
構成が丸ごと変わるからね。


こんな風にして、
タイトル変更は全体に大きな影響を与える。
「チェッカーフラッグ」だったら、
ゴールシーンが結論になるから、
また全然違うストーリーになるだろうね。


じゃあ地味なタイトルより、
派手なタイトルにしたいのは何故かというと、
派手な話じゃないときに、
不安になってるだけだと思う。

派手な話が書けてればいいが、
地味な話は地味なタイトルなんだよ。
それでいいと思うしかない。

もし派手なタイトルの話が書きたかったら、
派手な話にしなければならない。

嘘をつかずに誠実にやることだ。


「憧れのクリーニング屋さん」にするんだったら、
憧れのクリーニング屋さんは実は店の裏で売春してて、
ついにセックスできる日が来るのだが、
実際やってみたらたいしたことなくて、
クリーニングに出した染みが、
微妙に落ちてなくて、
なんて話にしたほうがいいかも知れない。

でもそれは、派手だけどテーマがないなあ、
なんてことまで考えて、
地味目の話にすることにした。
ローキックみたいだけど効く話にね。

そこは覚悟みたいなもんだね。
その代わり、鋼鉄のローキックにすればいいよ。
一発で立てなくなるような、
深い話にすればいい。



最後まで書けない、イマイチな話はないか?
最後まで書いても、なんだか来ない話はないか?
タイトルを変えてみると、
うまく行くこともある。

目の前の原稿を忘れて問うのだ。
これは結局何をしたかった話なのか?と。

あなたの意思ではなく、
話が持つ本質まで潜ってみることだ。
今奇形として生まれているのだから、
正しく生まれたかったのは、
どのような形か?を本質から問うと良い。

そして、形を変形しやすいように、
一回蛹の中で液体に戻してやる。
あとは本質さえ掴めていれば、
勝手に組み変わって生まれ変わるよ。
前の原稿を見たら、
本質から外れた変形を起こすので、
見ない方がいいぞ。
だってそれは奇形なんだからさ。


世の中には、派手な話と地味な話がある。
半々くらい産んでいけばよい。
posted by おおおかとしひこ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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